第29話 特級魔術官、白虎夜虎ー2
翌日、太陽学園。
「おい、夜虎。どうすんだよ、あれ」
「学生寮まできたんだよな。すごいな、ほんと…………芸能人の気分だ」
休み時間、俺は教室の窓から外を見る。
遠くに見えるのは、マスコミ関係者たちだ。
何人いるかわからないが、今朝は学生寮の前にまで群がっていたので、ビルを渡って学園まで来るはめになった。
これには理由があった。
俺はスマホを見る。
ネットニュースランキングの一番上、そこにはこう書かれていた。
『謎のイケメン魔術官の正体! 史上最年少特級魔術官――白虎夜虎。彼女は超人気モデルの姫川姫野?』
その記事に使われていたのは、俺が姫野をお姫様抱っこして運んだあの写真だった。 早乙女さんはめっちゃ謝ってたが、事務所の社長が、無断で掲載したらしい。いいのか? って思うがこれが報道の自由か。許すまじ、週刊誌。
俺が最年少特級認定されたことも相まって、めちゃくちゃにバズっているらしい。
さらにはSNSで姫野とカフェに行った日の写真まで出回って、まぁ大変。
「ほんとごめんなさい、夜虎君! 早乙女さんが今度菓子折りつけて謝りに行かせてほしいって……すごい謝ってて」
「いや、姫野が謝ることじゃないよ。それにまぁ……これぐらい構わないし」
「おい! いつの間に下の名前で呼ぶようになったんだ!?」
「あぁ言ってなかったか? 俺達付き合ってるんだ」
「えぇぇぇぇ!?」
「ふぇぇぇぇ!?」
「なんで姫野まで驚いてんだよ、冗談に決まってるだろ」
「あ、あはは、冗談ですよね。あはは…………はぁ」
「姫ちゃん? なんかため息が切ないけどほんとに冗談だよね? だよね?」
そんなこんなで、今俺はマスコミに追われている。
普通に道を歩くだけで囲まれるので困ったものだ。
そして放課後。
「夜虎、今日御屋形様の家に行くぞ。親父にお前連れて来いって言われてんだ」
「え? なんで?」
「まぁついてからのお楽しみってことで。ほら、学園の前に黒塗りの高級車が止まってる」
「まじか……」
御屋形様――つまりは、紫電家当主のことである。
この10年で何度か行ったことがあるので、別に今更ではあるのだが大体ろくでもないことを頼まれると相場が決まっている。
そして俺と清十郎は、黒塗りの糞長い高級車に乗って、とある屋敷に向かった。
そこは皇居? と思うほどの巨大な敷地と伝統的な日本家屋。
東京のど真ん中にあって、この広さは異常だと思ったが、そもこの家があり、周りに都市ができたのが正解だ。
ここが、紫電家の本家。
つまり、世界を支配する五大貴族の一角である。
俺が目の前に立つと、門が開き、門番さんが挨拶する。
監視カメラかなんかでずっと見てるんだろうな。
「どうぞ、お入りください。白虎夜虎様、貴人清十郎様。御屋形様がお待ちです」
「失礼します」
ここにくるのも、久しぶりだな。
中に入ると、これまた立派な庭が広がる。池に錦鯉、なんかの模様の砂の庭園。
一体いくらかかっているのか、想像もできないほどの大豪邸。
お手伝いさんに案内されたまま進むと、本邸に到着した。
「あら、夜虎。いらっしゃい。早かったわね。清十郎も」
すると中では、着物を着てお花を活けている静香お姉ちゃんがいた。
とても上品な雰囲気で、まるでお姫様みたいだが……まぁ実際お姫様である。
もう6歳の頃から面倒を見てもらっているので、俺は本当に姉のように慕っているし、俺を弟のようにも扱ってくれるので、敬語もなしだ。
厳しくも優しい大好きな姉である。
困ったときは泣きついたら、ふ、ふん! 仕方ないわね! って言いながら結構何でも聞いてくれるしな!
静香お姉ちゃんは、押しに弱いのである。
「お久しぶりです。静香様」
「久しぶり、静香お姉ちゃん!」
「ええ、二人とも久しぶりね。しかし夜虎、あなたは変なデビューの仕方をしたわね。10年田舎に引きこもってたのに」
「静香お姉ちゃんの力で、マスコミなんとかしてよ。ほら、権力的な何かで」
「それ自体は簡単だけど、それもまた強者の責任よ、慣れる事ね。じゃあ行きましょうか。おばあ様がお待ちよ」
冗談で言ったが、普通にできそうで怖い。
そりゃ日本で一番偉いんだからできるか。さすが紫電家、最高権力者である。
「夜虎、学校は慣れたかしら?」
「あーうん。ちょっと授業はむずいけど……まぁ別に魔術官だしいいかなって」
「だめよ、勉強もしないと。あなたが強いのはわかってるけど、ただ強いだけでは暴力。教養を身に着け、知性を持たないと。ということで、先生に言っておくわ。特級だからと甘くするなと。しっかり勉学も納めるように……試験の点数は報告しなさい」
「…………言わなきゃよかった。で、今日はなんで呼ばれたの?」
「すぐにわかるわ。でも……少し驚くかもね」
そして案内されたでっかい広間。
そこには。
「おぉ、君が白虎夜虎君かいな! ほんまにイケメンやで! あ、わしは、大和田重国や。初めまして」
「あ、初めまして。え? 大和田重国って……」
「そ、内閣総理大臣や。他のもんも挨拶したいけど、それは一旦あとにしよか」
内閣総理大臣をはじめとする多くのこの国の要人がたくさん座っていた。
あ、官房長官もいるし、魔術局局長の千歳さんもいる。それに十二天将家の各家家も。
って、父さんもいるし。
「おぉ、夜虎! 久しぶりだな! 背が伸びたか!」
「いや、まだそんなに立ってないし……一体なんなの? こんなに」
間違いなく、ただ事ではない。
今ここには、この国のトップが全員揃っているといっても過言ではないだろう。
なに? 戦争でも起きるの?
そのときだった。
バシン!
いてぇ!?
俺のけつが力強く叩かれた。
振り返ると、そこには。
「随分良い男になったじゃないか、夜虎! だが、ちょっと肉が足りないねぇ! 時代かい? 私はお前の親父ぐらいムキムキの方が好みだよ! ははは!」
サラサラの白髪をオールバックに、サングラスと革ジャンを着て煙草を吹かすファンキーなお婆さんが立っていた。
「千代子婆ちゃん……ごほん……御屋形様、お久しぶりです」
「なに、かしこまってんだい! いつも通り、千代子婆ちゃんでいいさぁ!! さぁ、座りな。静香、夜虎。政界のぼんくら共も全員揃ってるね」
このお婆さんが登場した瞬間、全員が立ち上がって頭を下げた。
総理大臣達をぼんくら呼ばわりするこのお婆さん。
齢100歳を超えて、今だ現役――名を紫電千代子。つまり紫電家現当主であり、御屋形様と呼ばれる人だ。
まぁ簡単にいえば、世界で5本の指に入るほどに偉い人である。
そして千代子ばぁが中心を横切り、奥の上座に座って言った。
「じゃあ、主役も揃ったようだし。始めようかね。これから始まる五大貴族との戦の話を」
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