第28話 特級魔術官、白虎夜虎ー1
放課後。
一度家に帰ってから、姫川さんの奢りで、夕食を一緒に食べることになった。
しかし、私服か。トレーニングウェアしかないな。
あ、そうだ! こんなときこそ父さんにもらったあの服をきよう!
そして俺は集合先、渋谷ハチ公前へと向かった。
「なんかよくみられるな……」
今日も視線が集まっている気がするが、昨日とは違う。
少しクスクスという笑い声も聞こえてくるほどで随分と居心地が悪い。
やはり田舎者丸出しなのだろうか。
「あの人……すごいイケメンなのに……」
「紫のタートルネックに、ハイウエストベルト……」
「昭和? すごい……レトロな感じが」
「一周回っておしゃれ? いや、ダサいわ…………」
「素材は良いのに……どうしてああなった。残念イケメン」
俺は首をかしげながら、集合先の渋谷ハチ公前に立つ。
すると、おそらくは姫川さんが走ってきた。
なんというか綺麗なお嬢様って感じの服装で変装だろうか、サングラスをしている。
俺の目の前でサングラスをとって、にこっと笑う。
「白虎君! すみません、お待たせしましたか?」
「あぁ、全然。さっききたとこ…………なんかさ、周りにめっちゃみられるんだけど。なんか変かな?」
俺は自分の服装をみせながら姫川さんに聞いてみる。
父さんを疑うわけではないが、もしかしたら田舎オーラが出ているのかもしれない。
「え、えーっと…………わ、私は好きですけどね! 個性的な服装かもしれません。私は全然いいと思いますけど!」
「個性的か……父さんが、これが流行ってた。都会はこれだ! って、くれたんだけど」
「ちょっと…………だけ。ほんのちょっとだけ流行りはすぎちゃったかもですね! ほんのちょっとだけですよ」
「そっか…………正直、流行りとかまったくわからなくて」
「あ! じゃあこうしましょう! 私と一緒に服、買いに行きませんか? お手伝いさせてください! お礼として!」
「いいの!?」
「はい! 私これでもモデルですんで、任せてください! ぜひ買いに行きましょう! ほんとに! ぜひ!! 行きましょう! すぐに行きましょう!! はやく行きましょう!」
なんかすごい切実って感じだが、都会っ子の姫川さんならきっと良い服を選んでくれそうだ。
そして俺達は移動を開始した。
「はぁ…………よかった。白虎君の趣味じゃなくて」
「ん? どうしたの?」
「な、なんでもないですよ! さぁいきましょ!」
渋谷、道玄坂。
おしゃれな店が立ち並ぶおしゃれスポットに俺は姫川さんに連れていかれ、言われるが服屋に入店する。
「ここ早乙女さん一押しのすごく良いブランドなんです。うちの事務所もよく使ってるんですよ」
「あ、そうなんだ。わぁすごい。かっこいいな……店構えがもうかっこいい」
白い看板に、黒い英語の一文だけの看板。
中には、黒と白を基調としたシンプルな服がたくさんある。
こういうのをモノトーンというんだっけ? とりあえずなんかかっこいい。俺の語彙ではそれぐらいしか言えないが、とりあえず俺達は中に入った。
「これと……これ。あとはこれかな。うーん……これも合わせたらかっこいいと思う。あ、これすごくタイプ」
「す、すごい……なんて速さだ」
ものすごい勢いで服を取捨選択していく姫川さん。
これがプロか。さっきまでのふわっとした優しそうな雰囲気はなく、獲物を狩る目だった。
そして俺は試着室に押し込められ、どんどん渡される服を着ていく。
「ど、どう?」
「かっこいい…………」
「姫川さん?」
「あ、す、すみません! すごくかっこいいですよ! ほんとに! じゃあ次これ着てください。これも合わせて! はやくはやく!」
「なんか楽しんでない? 目がキラキラしてるんだけど」
「いいからいいから!」
それから一時間ぐらい着せ替え人形をさせられた。
正直……すごく疲れた。服を着替えるだけなのに、これなら修行で100キロ走ったほうがましだ。
「うん! さすが白虎君。なんでも似合いますね! モデルやりませんか?」
「はぁ……疲れた。たぶん向いてないから遠慮しとくよ。じゃあ買ってくる」
「あ、私が!」
「あぁ、いいよ。服ぐらい安いもんでしょ」
そして俺は姫川さんが選んでくれた服、ベスト10を上下セットでまとめて購入した。
これで一気に私服が増えたな。
「お会計、85万8000円になります」
「ぶぅ!?」
85万!? え? 1万ぐらいで買えると思ったけど85万!?
「す、すみません、ちょっと待ってもらえますか? 白虎君! ここ結構高いんですよ!」
「じゃあ、カードで」
「え? ブラックカード…………初めて見ました」
「いや、服の値段には驚いたけどこれでも結構稼いでるからさ。服みたいな必需品なら使わないと。それにこの前、特級案件の臨時収入も入ったし」
「そういえば、白虎君。特級でした。年収、一億軽く超えてますよね」
「あぁ……はは、一応ね。このカードも父さんが、特級になったお祝いとしてね。『男なら、金がないと恥をかく時がある!』 ってほぼ無理やりだけど」
魔術官は、給料が高い。
中級ですら、一般的な平均よりも高水準。
そこから指数的に上がっていき、特級ともなれば年収一億は基本給だ。
しかも、
ちなみに、昨日の天狗で5000万が昨日ふりこまれた。
俺が赤ちゃんの頃、バカ高い魔力回復薬を大量に買えたのも、父さんが頑張ってこの手当をたくさんもらってくれたおかげだな。
というわけで、俺は金持ちなのだ。
が、俺の金は基本的に母さんが全て管理していたので俺の金銭感覚はとても健全である。
なんせ中学生の頃の小遣いは月3000円だったからな。毎日100円しか使えなかった。
だが、義務教育も終わり、高校生になったことで解禁された。
「なんか……奢ってあげるのがまったくお礼にならない気がしてきました」
「いや、金はあっても何を買えばいいかわかんなかったから。姫川さんが選んでくれてすごくありがたかった。ありがと」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
そして俺は服を購入し、着替えた。
黒いパンツに、黒いシャツ。
中には白いTシャツを着て、シンプルイズベスト!って感じだ。これが都会のかっこいいか。
「お買い上げ、ありがとうございました!!」
俺と姫川さんは外に出た。
おぉ、周りからのひそひそと笑われる視線が消えた。
が、もっと見られている気がするが。
「あのカップル、美男美女すぎる!」
「あれ? あの女の子って姫ちゃんじゃ……」
「サングラスしてるからわからねぇ……でも絶対美人」
「彼氏さん、すっごいかっこいい。二人ともモデル?」
すると姫川さんが、俺の手を引っ張る。
「さ、行きましょ。お腹すいちゃいました!」
「あぁ、そうだな。もう7時だしな。お腹ペコペコだ」
それから姫川さんに連れていかれて、なんかおしゃれなカフェに連れていかれた。
ちょっとレトロで、アンティークの雑貨が所狭しと並んでいる。
まるで絵本の中のような不思議な空間だった。
「ここ前から来てみたかったんです! 彼氏ができたらいこって!」
「じゃあ、今日は俺が彼氏役だ」
「あ! ち、違うんです。いや、違わないことはなくて……今のはその……そう思ってたぐらい素敵なところだから白虎君にお礼をしたくて!」
「わかってるって。姫川さんはめちゃくちゃ綺麗だからな。俺と釣り合わないよ」
「そんなことないです! 白虎君はすごく素敵です! むしろ釣り合わないのは……私の方で」
やはり姫川さんは良い子だ。
社交辞令でも俺を傷つけないように、フォローしてくれる。
俺はずっと修行ばっかりしてきたせいで、服のセンスもないし、女性を楽しませるとかそういうのは全く分からないからな。
都会のモデルまでしてる姫川さんとは、さすがに釣り合わない。
「あ、何か頼みましょう!」
「俺はパスタで……あぁ悩むな。トマトも美味しそうだけどカルボナーラもいいな」
「じゃあ両方頼んで半分にシェアしましょう!」
「お、いいね」
そして俺達はパスタを違う味で頼んだ。
少し疲れたなと背もたれにもたれて水を飲む。うわ、水までなんかおしゃれだ。レモン入ってる。
うん、うまい! もう一杯。
「白虎君、お代わりどうぞ」
「あ、ありがとう。そういえば夜虎でいいよ。父さんも白虎だから全員、俺を夜虎って呼ぶんだよ。白虎君って呼ぶの、今のところ姫川さんぐらい」
「え? や、夜虎君?」
「いやなら全然白虎でもいいんだけど」
「そんなことないです! じゃ、じゃあ…………夜虎君」
「おう」
「じゃあ! 私も姫野でいいですよ。さんもいらないです! 同級生ですし!」
「そう? じゃあ、姫野って呼ぶよ。よろしく、姫野」
「…………」
「姫野?」
「あ、はい! す、すみません。あ、ちょ、ちょっとお手洗いに行ってきますね!!」
そういって慌てて姫野は言ってしまった。
◇
「今日なんか変……私、なんか変! ずっと……なんかドキドキしてる」
姫野は、トイレで自分の心臓を抑えながら深呼吸していた。
顔が火照って、心臓の鼓動が早い。
極めつけは、姫野と呼ばれた瞬間だった。まっすぐと目を見て、姫野と言われた瞬間。
顔が沸騰するかと思って、慌ててトイレに逃げ込んだ。
「ふぅ…………ふぅ…………よし! 気のせい、気のせい!」
そして鼓動を整え、呼吸を整え、平常心平常心と繰り返しながら 化粧を直してトイレをでる。
もう大丈夫だと席に戻ると。
「お! 料理きたよ、姫野。さぁ、食べよ!! すっごい美味しそう! はんぶんこね!!」
キュン!
その屈託のない無邪気な笑顔を見ると、あの戦っている時とのギャップなのか。
また心臓が痛いほどに高鳴った。
「ふぅ! 食った食った!」
「美味しかったですね。夜虎君結局、8皿?」
「すみません、全部奢って頂いて」
「いいんですよ! じゃないとお礼にならないですから! たくさん食べてくれて嬉しいです!」
結局足りなくて、腹の音が鳴り、笑う姫野に腹いっぱい奢ってもらってしまった。
プルル♪
すると姫野の電話が鳴る。
「あ、すみません。はい……姫川です。あ、早乙女さん!? 体調は……それはよかったです! え? あぁ…………実は今となりにいて。え!? ち、違います! ベッドの上なんかじゃないです! 変なこと言わないでください!」
「何の話してるんだろう」
「はい……はい。え? うちの社長が勝手に? はぁ!? そ、それは……はい……はい。私から謝っておきます」
「何の話してるんだろう」
すると電話を切った姫野が、とても申し訳なさそうにしている。
「夜虎君、あ、あの……ですね。ついさっき」
「ん? どうした?」
「…………出ちゃったみたいです」
「なにが?」
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