第27話 高校生活ー4
◇夜虎
「すぐに倒すから待ってて」
俺は、呼吸を整え、気持ちを整える。
「
『寝取ラレノ気分ナリ!! 脳ガ破壊サレルナリ!!』
「何言ってるかわからないが……」
バチバチバチ!!
「――お前を修祓する」
帯電し、戦闘態勢。
それを見て、黒天狗は風を纏って、まるで竜巻のように俺の周りを不規則に回転した。
速い。
これでは雷槍を当てるのは至難の業だろう。例えるなら舞い落ちる葉を、射撃で打ち抜くようなものだ。
やってやれないことはないが……今は、俺にはもっと良い選択肢がある。
「6歳の頃の俺ならきっと……当たらないって苦戦してただろうな。でも……あれからもう10年もたった」
ドン!!
コンクリートの地面を蹴飛ばし、黒天狗へと肉薄する。
慌てて躱す黒天狗。しかしこれぐらい躱すとわかっていたから、ここで一瞬で足に魔力を集中する。
6歳の頃にはできなかった魔力制御の速度で、すぐさま地面を踏みつけ、踏ん張り、止める。
コンクリートの地面がひしゃげ、そしてもう一度、踏みしめ、進む。
「雷歩!!」
黒天狗の躱した先へ、連続で移動。
二段階の追撃、これはあの日……
本当の雷のように、ジグザクとただし確実に目的へとたどり着くための二段階の移動術。
そして、目の前には黒天狗。
ここまで肉薄すれば外すことはない。だからその手に雷の魔力を集め。
『童貞ノママ昇天……無念ナリ』
「雷槍!!」
その右手で、黒天狗を貫いた。
ぽっかりと空いた穴、そして黒天狗は、黒い粒子となって修祓された。
「よし……あとは」
気づけば周りには黒い服の魔術官が何人か集まってくれていた。
俺は大きな声で応援を呼ぶ。
「特級魔術官、白虎夜虎です!
「「了解いたしました!」」
あと処理等は、他の魔術官がやってくれるだろう。
事務処理とかも含めてだ。
俺も報告書だけは記載しないといけない。あれ結構面倒なんだよな。
でも、今はそれよりと俺は姫川さんの方へと走った。
「怪我はないですか?」
「…………あ、足が震えて動かなくて」
「わかりました。ちょっと我慢してください」
「へぇ!?」
俺は姫川さんをお姫様だっこした。
はやく運んであげようと思ったからだ。野次馬も集まってくるしな。
「野次馬が集まってきます。その恰好だし、ここは離れた方がいいと」
「あ、ありがとうございます」
「いや、こちらこそありがとうございました。あなたが命かけてみんな守ってくれて、誰も死ななかったですから」
「…………わ、私はなにも。来てくれなかったら死んでましたし」
「いや、俺はすごくかっこいいと思います」
「あ、ありがとうございます」
「シャッタァァァァチャァァァンス!!!!」
パシャパシャパシャ!!
「だ、だめですって!! 肋骨折れてるんですよ!」
「お、お願い!! もう一枚だけ!! 滅茶苦茶良い写真なの! お姫様を救った王子様みたいで、めっちゃ良い写真なのよぉ! これを取らなきゃカメラマンじゃないのぉ!!」
そう叫びながら、迫力のあるオカマ? さんが連れていかれた。
「よかった、早乙女さん元気そうで」
「知り合いでしたか、よかったです」
「あの人はほんとに無茶するんだから……あ、あはは。もう大丈夫そうです! ありがとうございます。あ、私、姫川姫野って言います!」
「えーっと、白虎夜虎です。姫川……姫川? どこかで聞いたような」
俺はなんか聞いた名前だなって思いながらも、姫川さんを降ろした。
どうやら何かの撮影だったようで、撮影スタッフが走ってくる。
「服、洗って帰しますね。白虎夜虎君」
「え、いいですよ。そのままで……それに」
「大丈夫です。明日返しますから! 太陽学園ですよね? 替えの制服ってありますか?」
「え、一応もう一着あるけど……」
「夜虎魔術官! 修祓作業、お疲れ様です!!」
「お疲れ様です!」
「ん? あ、お疲れ様です!」
すると俺の後ろには、黒い衣服を着た魔術官が二人ビシッと敬礼している。
「お疲れのところ大変恐縮ですが、状況確認よろしいでしょうか!」
すると、次々と魔術官が集まってきて現場の検証だったりを始めていた。
彼らは初級魔術官……まぁつまり事務処理や後処理をしてくれる戦闘が許可されていない魔術官だ。
ほぼ全員が年上というか基本的に社会人ばかりなのだが、魔術官は縦社会なので高校生ながら特級魔術官の俺に対して、みんなすごく畏まってくれる。
俺としては、普通に高校生扱いしてもらっていいんだけど……年上に敬語使われるのは居心地が悪いし。
「もちろんです。あ……じゃあごめん、姫川さん。仕事みたい」
「大丈夫です。お仕事頑張ってください! あ、最後にもう一度…………」
そして姫川さんは俺の手を握って、そして頭を下げた。
「本当に助けてくれてありがとうございます。このお礼は絶対しますから!」
「気にしないで。仕事だから」
「ダメです! 絶対にします! じゃあ……また明日。学校で!」
「学校で?」
俺は学校まで制服を届けにきてくれるのかな? と首を傾げながらも一旦その場を後にした。
◇その日の夜……姫川姫野、自宅。
「ふぅ…………疲れた」
私は、日課の半身浴をしながら今日のことを思い出していた。
死ぬほど怖い目にあった。人生で一番怖かっただろう。
でも立ち向かえたことは誇りに思う。
「ちょっとでもお母さんに近づけたかな…………」
そしてやっぱり思い出すのは、あの人。
白虎夜虎……おそらく名門白虎家なのだろうが、名前でネットで検索してみる。
「うわ、史上最年少特級魔術官? すごい……でも納得」
強いなんてものじゃない。罪度4の罪を圧倒していた。
あれが特級……規格外の魔術官だけがなれる最高位。
だが、それと同時に。
*
『もう大丈夫、誰も死なせない』
*
あんなに優しく、笑ってくれた。
そしてその力強い言葉は、彼の性格からしてうぬぼれなんかじゃ絶対にない。
安心させたい。
その一心で、言ってくれた言葉なんだとわかった。
その笑顔を見るだけで、あんなに怖かったのに安心できたのだから本当にすごい。
きっと心から優しい人なんだろうな。
私はお風呂につかりながら、今日のことを思い出していた。
「かっこよかったなぁ…………え?」
思わず口にした言葉、異性に対する好意的な言葉だった。
それに気づくと、私は顔がとても火照っていくことに気づく。
少し、長風呂しすぎたかな?
「よし、明日。お礼にご飯でも……白虎夜虎君。白虎夜虎君…………」
私はその名を何度も繰り返し、また顔が赤くなった。
◇夜虎
翌日、 太陽学園。
「おはようございます。白虎君! これ制服です! クリーニングしておきました!」
「あぁ……そういうこと」
俺の隣に座っていたのは、姫川姫野さんだった。
なるほど、まさかのクラスメイトだったとは。そういえば清十郎が姫川姫野って人が同じクラスだとか言ってたような。
しかし、まさか隣の席とは。
「改めて、姫川姫野です。昨日は助けていただき、ありがとうございました! 白虎夜虎って名前を聞いてすぐにピンっときました! 席隣の人だって!」
「いえいえ、仕事ですからほんとに気にしないでください」
「白虎君! 同級生ですよ。畏まらないでください! 私の敬語は癖なんで気にしないでくださいね」
「そ、そう? わかった」
「はい! じゃあ、今日の放課後。お礼をさせてくださいね! 絶対ですよ!」
「いや、修行が……」
「お願いします! 夕食だけでも!」
すると前の席に座る清十郎が振り向いた。
「いってやれよ、夜虎。上京したんだろ? 一回ぐらい遊んで来い。何事も経験よ?」
「…………わかった。じゃあ……お願い」
「はい! 任せてください!」
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