第26話 高校生活ー3
東京、渋谷スクランブル交差点。
今日も多くの若者が夢を追っている日本の流行の最先端。
「最高よぉ!! 姫ちゃん、最高!! もう一枚ちょうだい!」
そこで一人のモデルが、多くのギャラリーに囲まれながら撮影をしていた。
撮影しているのは、体格の良いオカマだった。
「あれって、姫川姫野?」
「まじ!?」
「すげぇ……顔ちっせぇ」
「足細すぎ。どうやったらあんなスタイルなるの?」
今をときめく超人気モデルであり、インフルエンサー。
名を姫川姫野、現役JKとして日本中で有名だった。
「早乙女さん! 太陽学園の制服着ていいですか?」
「えぇ、もちろんよ! そういう約束だもの! 美しすぎるJK魔術官! これは爆売れするわよぉ!!」
「はい! 魔術官になりたいんです! 私は弱いし
「ええ……お母さんの後を継ぐのよね。よし! みんな! 姫ちゃんの夢応援するためにも、気合入れて撮影するわよ!!」
「「おぉぉぉ!!」」
そのときだった。
ウオーーン!! ウオーーン!!
「あら、
「そうですねぇ。でも大丈夫ですよ。きっとすぐに強い魔術官がきてくれますから!」
発生した場所をスマホで確認する二人。
そして言葉を失い、上を向く。
「え?」
「え?」
なぜなら
「う、う、うわぁぁぁぁ!!」
誰かの叫びを皮切りに渋谷は一瞬でパニックに陥った。
突如現れた
その姿は、まるで天狗だった。
しかし、肌は赤くなどなく、黒い肌に、黒い鼻。その黒天狗が姫川を見る。
そして。
「ひっ!?」
目の前に降りてきた。
姫川はあまりのことで、言葉がでなかった。
死――それが付きつけられるような恐怖。
『麗シキ乙女ヨ、答エヨ』
その天狗は手に持つうちわを姫川に向けた。
『オ前ハ処女カ』
「え? な、なにを言ってるの……」
『非処女ナラ殺ス、処女ナラ…………』
「――!?」
直後、姫川の目の前まで飛んでくる黒天狗。
その鼻を、姫川の胸元に突き刺すように近づきニタっと笑って言った。
『犯シテ殺ス』
思わず全身の毛が逆立つように、震える姫川。
あまりの恐怖に動けなかった。
「わたしの姫ちゃんに何かましてくれてんのよ、変態天狗がぁぁぁ!!」
そのとき、横から早乙女がその天狗に捨て身タックル。
突き飛ばされた天狗は、ふわっと宙に浮きながら早乙女を見る。
『麗シキ……? 乙女? 男? 女?』
「オカマよ!! 姫ちゃん、逃げなさい!! はやく!!」
「で、でも!!」
「はやくぅぅぅ!! あなたはうちの事務所の宝なんだから!!」
姫川は、ぐっとこぶしを握って逃げた。
それを見て早乙女は、よかったと安堵する。
しかし、直後。
「五行霊符・炎猫!!」
呪力がこもった猫のような炎が天狗に向かって飛んでいく。
それは自分の鞄から呪術用の補助霊符を取り出した姫川姫野だった。
「わ、私だって! 魔術官を目指してるの! 大切な人を見捨てるなんてできない!!」
「姫ちゃん…………」
『気ノ強キ乙女、好ミナリ。ソソリ立ツ』
しかし天狗が纏う風に、炎の猫はかき消されて、ぎろりと姫川を見る。
「待ちなさい!! 姫ちゃんには指一本触れさせないわ!!」
『邪魔ナリ、オカマ』
「ぐふっ!?」
うちわを仰ぎ、早乙女を吹き飛ばす。
近くの車に突っ込んで、早乙女は意識を失った。
「早乙女さん!」
思わず手を伸ばす姫川だが、すぐに目の前に黒天狗が阻むように現れる。
そしてうちわを向けて、先ほどと同じ問いを繰り返した。
『答エヨ、乙女。オ前ハ処女カ。非処女ナラ殺ス、処女ナラ犯シテ殺ス』
まるで銃口を突きつけられるような恐怖に姫川は震えた。
己の一挙手一投足が死因になりえる圧倒的強者。
自分ではどうあがいても絶対に勝てない。
なにをしても、どんな策を巡らせても……この
周りを見る。
まだ避難できていない人もたくさんいる。この
そして早乙女がすぐ隣で気絶しているし、周りには関係者やスタッフの人たちもいる。
死なせたくない。
なら自分にできることは一つだけ。
ぐっとこぶしを握って、顔を上げる。
そして。
『オォ!? 積極的ナ乙女、好ミナリ! ソソリ立ツ!』
ゆっくりと……ゆっくりと時間を稼ぐように制服を脱ぎだした。
手が震える、死の淵だというのに、ただ恥ずかしくてどうにかなってしまいそう。
でも一枚一枚と服を脱いだ。
「わ……私は…………私は!!」
時間を稼がないといけない。そしたらきっと強い魔術官がきてくれる。
自分がここで時間を稼げば、きっとみんな助かるはずだ。
だから。
「処女です!」
これが今自分ができる最善だと、真っすぐと黒天狗を見つめて言った。
『ウム! ウム! デハ存分ニ、御賞味御賞味!』
そして黒天狗は、その手を姫川の胸に向かって伸ばす。
ぎゅっと身を震わせて、それでも強い意思で目を背けない。
しかし、やっぱり恐怖は溢れて涙があふれる。
でもせめて魔術官を目指す者として――。
「犯したいなら犯しなさいよ!!」
最後まで誇り高く。
居合わせた魔術官も、目が合うだけで殺される脅威で手が出せない。
その場にいる誰も、姫川を助けることはできなかった。
相手は、街をも滅ぼす
だから。
バチッ!
雷鳴と共に、最強がくる。
「え?」
突然、何かに抱きしめられたかと思ったら気づけば随分と遠くに自分はいた。
そして何かを羽織らされた。
それは太陽学園の男子生徒の上着だった。
羽織るようにかけられたそれは、ほんのり温かく、春先の少し肌寒い素肌を暖める。
「ごめん、遅くなって」
「え? な……にが……え?」
姫川は、何が起きたかわからなかった。
しかし、自分は助けられたのだろうか。
あまりに速すぎて理解すらできない。
『間男、邪魔ナリ!! 萎エルナリ!!』
直後、天狗がうちわを仰ぐ。
風の魔術が、まるで大砲のように飛んできてコンクリートの地面を吹き飛ばしながら向かってくる。
まるで高速でトラックが飛んでくるような衝撃、当たれば人など簡単に死ぬ。
「きゃぁぁ!!」
思わず姫川は、叫んだ。
しかし。
バチッ!!
その風は、まるで何事もなかったかのように消え去った。
夜虎が雷を纏った右腕でまるで虫を払うかのように、消し飛ばす。
それを見て姫川は、驚き言葉も出なかった。
そして夜虎はもう一度、その手に雷を纏い、そして安心させるようにニコッと笑って、振り向いた。
「もう大丈夫、誰も死なせないよ」
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