第25話 高校生活ー2
俺は施設のモニターを操作する。
色んな訓練メニューがあって、ゲーム感覚でちょっと楽しそう。
お! これなんてめっちゃ凄そうだ! 百人組手地獄モードEX! いいぞ! いい具合にきつそうだ!
「うぃーす、お疲れ。夜虎」
「ん? あ、清十郎。久しぶりだな! 会合以来だから……半年ぶり?」
すると修練場に入ってきたのは、金髪短髪黒ピアスのチャラ男だった。
名を貴人清十郎。
魔術局局長――国家魔術官試験で面接をしてくれた貴人家当主、貴人千歳さんの息子だ。
初めて会ったのは、貴人家の道場だったな。
模擬戦をやってくれと頼まれたので……まぁ普通に倒してしまったのを覚えている。
年は俺と同い年で、親同士の繋がりもあってか、頻繁に交流があり、もう10年来の付き合いになる。
腐れ縁……というよりは普通に友達だな。
「上京して、入学式の後、すぐ修行とは恐れ入る。お前ほんと修行好きな。今日ぐらい遊べよ」
「もう癖みたいなもんだな。やらない方が気持ち悪い」
「今に始まったことじゃねーけどさ」
すると清十郎は、椅子に座った。
見学でもするつもりか? まぁいいか。
「邪魔しにきたわけじゃねーし。友達が上京してきたんだ。終わるまで待ってるよ。飯いこうぜ」
「そうか? 了解! あと3時間後ぐらい待って!」
「やり過ぎだろ、この修行バカ……まぁまた戻ってくるわ」
清十郎が修練場を出て言ったので、俺は再度修行を始めた。
うぉ! すげぇ! マネキンがめっちゃ現れた! これ全部雷槍叩きこんでいいのか!?
バチ!!!
これなら新技開発が捗るぜ!!
◇
清十郎は、修練場を出る。
背後から雷鳴が聞こえてきて苦笑いした。
「もしもし。あぁ親父? わかってるって……夜虎にはあったよ。また修行してんだ、あいつ……あぁ、じゃあ。また魔術局に顔出すわ」
魔術局局長であり、自分の父親の千歳から電話がかかってきた。
内容は、夜虎のこと。
父は夜虎のことを気に入っているし、とても気にかけている。
夜虎との出会いは、6歳の頃だ。
幼い頃、初めて会った日にボコボコに負けた。才能というものを実感した日だった。
嫉妬したこともあったが、今となってはすべて飲み込んでいる。
あれは、この国になくてはならない傑物だ。
それぐらい次期、魔術局局長になるであろう自分は理解している。
そして電話を切って、ベンチに座る。
缶コーヒーを開けながら、昔のことを思い出していた。
最強を目指してもがいていた幼い自分、そして本物と出会った日。
打ちのめされ、悔し涙を流し、それでも頑張って勝とうとした。
この国で最強の魔術師になりたい。そんな幼い頃の夢を捨てた日。
「あれで糞野郎ならまだよかったんだがなぁ……努力する天才に、凡人が勝てるわけねぇよ」
ベンチに座りながらコーヒーを飲んで時間を潰す。
昔は対抗意識もあったし、努力で上回ってやるなんて青臭いことも考えていた。
しかし、相手は努力も化け物ときた。暇さえあれば修行修行の毎日。
自分も天才と呼ばれたりはしたが、物が違う。そして何よりも……その精神が違う。
自分は夜虎に勝ちたい。父に認められたい。そんな不純で普通な動機だったが、小学生ぐらいのときに夜虎になぜ強くなりたいのか聞いた。
『僕が強くなれば、死ななくていい人を死なせなくて済む。だから強くなるんだ』
そのとき、自分ははっきりと負けを認めたことを覚えている。
そこから少しぐれて今はこんなんだが、今は自分は自分なりの戦いをしようと思っている。
自分の役割は夜虎の友達だ。
別に誰かに命じられたわけではない。しかし、そうあるべきだし、そうするべきだ。
父や、周りの大人たちもそんな打算があったのだろう。
同年代である俺を夜虎の友達にしようと、何度も白虎家に通わされた。
当時は、あれが嫌で仕方なかったが今なら理由がわかる。
情の鎖で夜虎を縛るためだ。
夜虎という何物にも縛れない最強の存在を、情という鎖でこの国に縛るためだ。
そのために、友人で、家族で、情で……あの優しい天才を縛ろうとした。
「そんなこと子供にさせんなよなぁ……グレるぜ。普通」
春。
桜散る少し肌寒い季節の空を眺め、気づけば3時間近くがたっていた。
清十郎は立ち上がって、修練場に戻る。
「ふぅ…………よし!! もう1セット追加!!」
おそらくノンストップで修行していたであろう汗だくの夜虎を見る。
それを見て少し笑った。
「お前が世界最強だよ。だーれも勝てねぇって」
しばらく眺めながら、終わるのを待つことにした。
自分は夜虎のことが本当は嫌いだった。昔は顔を見るだけでイラついていたぐらいだ。
でも今は違う。
「はぁ…………しんど。今日はおわりーーーめっちゃ良いなこの修練場!! 毎日こよう!」
「お疲れ。ほら、水」
「ん? お、清十郎。ありがと! まじでずっといたの?」
大の字で倒れる夜虎、自分を見て、屈託なく笑う。
すでに世界最強だろと思うのに、一切驕らず鍛え上げる。
その理由はやっぱり一つなのだろう。
「なぁ、なんでまだ強くなりたいんだ? お前、もう最強だろ」
「最強かはわからないけど……昨日の俺は、今日の俺より弱い。だから、もっと強くなれるし、強くなればもっと死ななくていい人を救えるだろ? 目指せ、
それを聞いて思わず笑ってしまう。
これを心の底から言っていると自分は知っているから。
最強がさらに、最強を目指す。
昨日の自分が最強なら、今日の自分は昨日の自分よりも最強だ。そんな気概で努力する。
「なんも変わんねぇな……お前は」
「ん?」
「よし! 気分がいいからラーメン食いに行こうぜ。めっちゃうまいとこ知ってんだ。上京祝いに奢ってやるよ」
「まじ!? いく!! すぐ準備してくる! やったぁ!」
そして走っていく夜虎の背を見る。
特級魔術官で相当の金を稼いでいる夜虎。
ラーメン代ぐらい余裕で稼いでいるだろうに本気で喜んでいる。
「……こういうのを人たらしって言うんだろうな」
自分は夜虎のことが嫌いだった。
でも今は違う。
友達にならなければいけないとか、この国のためとかそういうしがらみすべてを無くしたとしても。
「よし、いこう! すぐいこう! めっちゃ腹減った!」
「…………おう」
俺はこいつと友達になりたかっただろう。
ここまで良い奴、まっすぐな奴。見たことがない。
そして二人は気ごころ知れた友として、笑いながらラーメン屋に向かった。
ラーメン屋。
「なぁ、替え玉していい? チャーシューのトッピングもしていい? も、もしかして餃子も…………」
「それぐらい、いくらでもしろ。たくさん食ってたくさん
「おっしゃ! 10杯は食うぞ!!」
「…………後で親父に経費で落とさせよ」
清十郎は、少し笑いながらスマホを開き、SNSを見て時間を潰す。
「しかし、姫ちゃん可愛いよなぁ。これが明日から同じクラスだぜ」
「姫ちゃん? 時代劇かなんか?」
「姫川姫野だよ、知らねぇの?」
「知らん」
「インスタとかTikTokとかやってたら毎日見るだろ」
「どっちもやってないな」
「なんでだよ」
「なんか詐欺とか怖くて……あと難しそう」
「敬遠の仕方がもはや爺なんだよ。ほら、これ」
清十郎は、スマホの画面をみせる。
そこには、女性が映っていた。
「この子が同じクラスなのか? すげぇ綺麗な子だな」
「今をときめく超人気モデルよ。フォロワー100万人越え」
「へぇ……すごい……のか?」
「そりゃすげぇよ。あ、なんか近くで撮影やってるみたいだぞ」
「ふーん」
「はい、興味なしと。お前、性欲とかないわけ?」
「いや、あるけど…………」
「へい、お待ち!!」
「うぉぉぉぉ! もう一秒だって待てない! いただきまーーー」
するとラーメンが目の前に置かれ、夜虎は目を輝かせる。
割りばしを割って、涎を垂らし、いただきます! と叫んだそのときだった。
ウオーーン!! ウオーーン!!
『霊度4の罪が顕現しました。周辺住人は、至急避難してください。繰り返します。霊度4……』
「霊度4!? 特級案件かよ!!」
二人はスマホで霊災発生場所を確認する。
そして夜虎は立ち上がった。
その眼には一切の迷いなく。
「悪い、清十郎。食べといてくれ」
「…………了解」
バチ!!
そして夜虎は、雷と化して店から消えてしまった。
清十郎は少し笑いながら、ラーメンをすする。
「最強目指すの諦めてよかったな…………うまぁ」
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