第22話 勝利ー1
◇
「……はぁはぁはぁ。今……なんか変だった?」
成功したようだが、何か違和感を感じる。
でも間違いなく、今俺の雷槍が
後ろを振り向くと、黒い粒子になって消えていく。
俺は安堵と共にその場に大の字で倒れた。
血を流しすぎたようだし、魔力を酷使しすぎた。もうしんどい。
「夜虎!!」
ローラが俺に走ってきた。
そしてぎゅっと俺を抱きしめる。
俺は倒れながらローラの頭を撫でた。
「ありがとう、助かった。完璧だったよ、ローラの魔術」
「死んじゃう……かと思った……夜虎が死んじゃうかと」
俺はローラの頬を流れる涙を拭いて、ニコッと笑った。
「死なないよ。僕は。もう……絶対に死なない。そして死なせない」
「うん…………」
するとまた警報が鳴り響く。
『
様子を見に行きたいが、正直そんな余裕はない。
すると遠くから救急車の音が聞こえてくる。お迎えきたわ。
「夜虎ぁぁぁぁぁぁ!! 大丈夫かぁぁぁぁ!!」
「夜虎!」
と同時に、聞きなれた声がした。
父さんと母さんだ。父さんは腕が反対方向に曲がっているし、血だらけでそっちが大丈夫かと言いたくなる。
多分
「父さん、あとはお願いね」
そして俺は限界が来たので目を閉じた。
「ん?」
目を覚ますと、あぁまた病院か。
前にもあったなこんなこと。
すると俺の手が誰かに握られていることに気づく。
体を起こしてそちらを見ると。
「すぴーすぴー」
ローラがずっと俺の手を握っていたのだろう。横で眠っていた。
俺はその頭を撫でた。
「ん? 夜虎…………夜虎!! 起きた!!」
「うぉ!?」
するとローラが俺に抱き着いてきた。
ぎゅっと強く、抱きしめる。
「夜虎……夜虎……夜虎…………」
俺もぎゅっと抱きしめ返した。
怖かったんだろう。ローラのお母さんのように……俺が死んでしまうと怖かったんだろう。
でもそのトラウマを克服して、ローラは魔術を使ってくれた。俺を助けるために。
「ありがとう、ローラのおかげで勝てたよ」
「もうあんな無茶しないで」
「ローラを守るためならしちゃうかもな」
「…………じゃあ強くなる」
「え?」
ローラは顔を上げて俺を見た。
その眼には涙と、そして確かに覚悟のような感情が灯っていた。
「夜虎を守れるぐらいに、強くなる。夜虎の隣に立てるように強くなる」
「なら僕はもっと強くならないとな」
「ふふ、負けない。絶対に追いつく。絶対にだよ」
「あぁ、約束だな」
にこっと笑い、涙を拭いたローラ。
その笑顔を見て、もうこの子は大丈夫だと思った。
過去は変わらない、母を亡くした痛みは消えないだろう。
でもその痛みを知っているからこそ、きっと誰よりも優しく……そして強い魔術師……いや、エクソシストになれるはずだ。
「起きたの、夜虎!」
「夜虎君!!」
「起きたか、夜虎!!」
すると父さんと母さん、アリシアさんが扉を開けて入ってきた。
それから事の事情を全て話して、あれから何が起きたのかも全部父さんが放してくれた。
「紫電竜馬…………そうか。あいつが」
「知ってるの?」
「同じ釜で飯を食った。ともに技を磨き、ともに
「酒呑童子?」
「そうだ。紫電家を執拗に狙う…………
「そっか」
やっぱり紫電竜馬と父さんは知り合いだったらしい。
そして……静香お姉ちゃんのお父さんでもあるのだろう。
どうしてそうなったか……酒呑童子が何かしたのか。それは俺にはわからない。
「しかし、よくぞ竜馬を撃退し、
「いいよ、父さんは母さんを守って、花火大会に来てた人達も全員守ったんでしょ。誰も死ななかっただけで大成功だよ。それより腕は?」
「あぁ、折れただけだ。すぐ治る」
「よかった」
すると待ちきれなかったのか、母さんが俺を抱きしめた。
「無茶して……もう、夜虎。
「元々僕の我がままだし、僕が守らなきゃ。確かにすごく強かったけど」
「夜虎君!」
するとアリシアさんが立ち上がった。
「今回の件、本当にありがとう。感謝してもしきれない。君がいなければ間違いなく姫様も私も命を落としていただろう。姫様の護衛として、北欧連合として、そして私個人として……心から感謝する。本当にありがとう」
「アリシアさんも、大丈夫ですか? 結構深く刺されてたような」
「あぁ、幸い内臓は無事だった。出血もすぐ氷結させて止めたので大事ない」
そういってお腹をめくるアリシアさん。
痛々しい凍傷の痕がある。
「痕は残るが、これぐらい大したことはない。それと北欧連合の総長……姫様の御父上であるジークフリート・シルバーアイス様より正式にお礼がしたいそうだ」
「いいですよ、そんなの」
「いや、これは国家レベルの話だ。ぜひ。と言われている。君にどうしても一目会いたいそうだ」
「ご多忙でしょうし……」
「だが絶対に都合をつけると言っていたよ。それと…………これだけは伝えておいた方がいいと思ったんだが」
するとアリシアさんが父さんを見て、頷き言った。
「私は君に、紫電を見た」
「紫電?」
「無意識か……姫様の魔術が発動した直後だ。銀色の氷の中で、確かに私は紫の雷をみたんだ」
「ローラも……見た」
「僕が……紫電を」
「あぁ、その場には私たちしかいなかった。だからこれを知るのは私たちだけだろう」
そういえば最後の一撃だけ、なにか感覚が違ったな。
ぎゅっと魔力を圧縮して密度を上げて…………できるだけ速く。
そう……こんな感じで。
チチチ。
「あ、出た」
「――!? 夜虎!? それは!!」
父さんが俺の手を掴んで、その紫の雷を見た。
なんだこれ。でも……なんかすごく鋭いというか……硬いというか、なんでも貫けそう。
「やはりか。光太郎殿」
「まったく…………お前は、とんでもないことを」
「すごいわ、夜虎! あなたは本当にこの国を……ううん、世界を救うのね!」
「父さん、これは?」
「直接みたことはない。だが…………おそらく100年前に失われた紫電の魔術だ。まさか血継魔術を自ら発動させるとは……確かに古くは紫電家と十二天将家は血は繋がっているとはいえ……」
「さすが私たちの子ね」
「あぁ、そうだな! さすが、俺の子だ! いや、しかし今度ばかりはいつものように楽観できないぞ」
あ、いつも楽観なのは自覚あったんだ。
「この件、知っているのは、ここにいる4人と……説明するためにジークフリート様にだけです。それ以外、誰にも口外するつもりはない」
「すまない、アリシア殿」
「いえ、これは世界レベルの問題です。敵が分からない今、夜虎君が紫電に目覚めたことを公言するのは大変に危険です。特に……紫電ともなれば猶更。夜虎君は強い。しかし……敵は恐ろしく強大です」
「あぁ、その通りだ」
「どういうこと?」
「実はな、あの日同日。世界中の五大貴族の子供が狙われた。いや、正確には紫電家以外の四つの貴族の子供がだ。幸い全員未遂に終わったが、ロートオリフラム家の子供は今も生死の境を彷徨い、黒王家は、最も才ある妹を守るため、兄や両親に至るまで何人も死んでいる。ヴァイスドラグーン家は子を守るため、母親が死んだそうだ」
「――!? どういうこと?」
「何かが起ころうとしている……としか今は言えない。しかし、そのレベルの犯行が行えるとなると、敵は我々が思っているよりもずっと強大かもしれない。各貴族は警戒を強め、護衛も強めることだろう。もしこれが未来の強者を若い芽のうちに摘んでおこう……ということなら夜虎が紫電に目覚めたことを知られるのはまずい」
ローラが狙われたように、世界中で五大貴族の跡継ぎが狙われたらしい。
その意図はわからないが、きっと未来の戦力を削ろうとしたなにか。ということだろう。
「なので、ローラ様も今日の夜。帰国することになった」
「え!?」
「え!?」
ローラと俺は声を上げてアリシアさんを見た。
ローラは俺の手をぎゅっと握る。
「姫様……今後は、御父上が常にご一緒することになりました。先日現れた紫電竜馬……それに各国に現れた殺し屋もそのレベルです。申し訳ありませんが……私では力不足。仮に王級のさらに上……帝級、果ては世界級まで来たならば、御父上以外守れません」
「そんな……せっかく夜虎と……もっと遊べると……私やっと……」
悲しそうにするローラ。
俺もお別れは悲しいが、これは仕方ないことだろう。
敵が分からない今、留学なんてしてる余裕はない。
だから。
「ローラ、さっき言ったこと覚えてるよね」
「え?」
「僕たちはまだ弱い。だから…………強くなろう。護衛もいらないほどに強く。一人でだって殺し屋ぐらい追い返せるように、そして僕がローラを守るから、ローラが僕を守って。それぐらい二人とも強くなったらさ…………」
俺はにこっと笑って、その手を握った。
「もう一度花火大会に行こう。今度は二人きりで」
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