第22話 勝利ー1


「……はぁはぁはぁ。今……なんか変だった?」


 成功したようだが、何か違和感を感じる。

 でも間違いなく、今俺の雷槍が罪度ギルティチュード6のシンを貫いた。

 後ろを振り向くと、黒い粒子になって消えていく。

 

 俺は安堵と共にその場に大の字で倒れた。

 血を流しすぎたようだし、魔力を酷使しすぎた。もうしんどい。

 

「夜虎!!」


 ローラが俺に走ってきた。

 そしてぎゅっと俺を抱きしめる。 

 俺は倒れながらローラの頭を撫でた。


「ありがとう、助かった。完璧だったよ、ローラの魔術」

「死んじゃう……かと思った……夜虎が死んじゃうかと」


 俺はローラの頬を流れる涙を拭いて、ニコッと笑った。


「死なないよ。僕は。もう……絶対に死なない。そして死なせない」

「うん…………」


 するとまた警報が鳴り響く。


シンは修祓されました。罪度ギルティチュード5、三体。罪度ギルティチュード6、一体のシンは修祓されました』


 シンが修祓されたことを知らせる警報だな、どうやら父さんのほうも大丈夫みたいだ。

 様子を見に行きたいが、正直そんな余裕はない。

 すると遠くから救急車の音が聞こえてくる。お迎えきたわ。


「夜虎ぁぁぁぁぁぁ!! 大丈夫かぁぁぁぁ!!」

「夜虎!」


 と同時に、聞きなれた声がした。

 父さんと母さんだ。父さんは腕が反対方向に曲がっているし、血だらけでそっちが大丈夫かと言いたくなる。

 多分罪度ギルティチュード5のシン三体を相手に、きっと誰も死なせず一人で倒したのだろう。我が父ながら大概化け物である。


「父さん、あとはお願いね」


 そして俺は限界が来たので目を閉じた。





「ん?」


 目を覚ますと、あぁまた病院か。

 前にもあったなこんなこと。

 すると俺の手が誰かに握られていることに気づく。


 体を起こしてそちらを見ると。


「すぴーすぴー」


 ローラがずっと俺の手を握っていたのだろう。横で眠っていた。

 俺はその頭を撫でた。


「ん? 夜虎…………夜虎!! 起きた!!」

「うぉ!?」


 するとローラが俺に抱き着いてきた。

 ぎゅっと強く、抱きしめる。

 

「夜虎……夜虎……夜虎…………」


 俺もぎゅっと抱きしめ返した。

 怖かったんだろう。ローラのお母さんのように……俺が死んでしまうと怖かったんだろう。

 でもそのトラウマを克服して、ローラは魔術を使ってくれた。俺を助けるために。


「ありがとう、ローラのおかげで勝てたよ」

「もうあんな無茶しないで」

「ローラを守るためならしちゃうかもな」

「…………じゃあ強くなる」

「え?」


 ローラは顔を上げて俺を見た。

 その眼には涙と、そして確かに覚悟のような感情が灯っていた。


「夜虎を守れるぐらいに、強くなる。夜虎の隣に立てるように強くなる」

「なら僕はもっと強くならないとな」

「ふふ、負けない。絶対に追いつく。絶対にだよ」

「あぁ、約束だな」


 にこっと笑い、涙を拭いたローラ。

 その笑顔を見て、もうこの子は大丈夫だと思った。

 過去は変わらない、母を亡くした痛みは消えないだろう。


 でもその痛みを知っているからこそ、きっと誰よりも優しく……そして強い魔術師……いや、エクソシストになれるはずだ。


「起きたの、夜虎!」

「夜虎君!!」

「起きたか、夜虎!!」


 すると父さんと母さん、アリシアさんが扉を開けて入ってきた。

 それから事の事情を全て話して、あれから何が起きたのかも全部父さんが放してくれた。



「紫電竜馬…………そうか。あいつが」

「知ってるの?」

「同じ釜で飯を食った。ともに技を磨き、ともにシンを倒そうと心に決めた。だが……ある日、酒呑童子の再来で……折れてしまった。今はもう裏の魔術師になり、元王級魔術官の犯罪者だ」

「酒呑童子?」

「そうだ。紫電家を執拗に狙う…………罪度ギルティチュード9。史上最強の鬼だ。竜馬も……昔は真面目で正義感溢れる男だったんだがな……」

「そっか」


 やっぱり紫電竜馬と父さんは知り合いだったらしい。

 そして……静香お姉ちゃんのお父さんでもあるのだろう。

 どうしてそうなったか……酒呑童子が何かしたのか。それは俺にはわからない。


「しかし、よくぞ竜馬を撃退し、罪度ギルティチュード6のシンを修祓した。さすが……俺の子だ。それとすまなかった。助けてやれず」

「いいよ、父さんは母さんを守って、花火大会に来てた人達も全員守ったんでしょ。誰も死ななかっただけで大成功だよ。それより腕は?」

「あぁ、折れただけだ。すぐ治る」

「よかった」


 すると待ちきれなかったのか、母さんが俺を抱きしめた。


「無茶して……もう、夜虎。罪度ギルティチュード6なんて……死んでもおかしくなかったのよ」

「元々僕の我がままだし、僕が守らなきゃ。確かにすごく強かったけど」

「夜虎君!」


 するとアリシアさんが立ち上がった。


「今回の件、本当にありがとう。感謝してもしきれない。君がいなければ間違いなく姫様も私も命を落としていただろう。姫様の護衛として、北欧連合として、そして私個人として……心から感謝する。本当にありがとう」

「アリシアさんも、大丈夫ですか? 結構深く刺されてたような」

「あぁ、幸い内臓は無事だった。出血もすぐ氷結させて止めたので大事ない」


 そういってお腹をめくるアリシアさん。

 痛々しい凍傷の痕がある。


「痕は残るが、これぐらい大したことはない。それと北欧連合の総長……姫様の御父上であるジークフリート・シルバーアイス様より正式にお礼がしたいそうだ」

「いいですよ、そんなの」

「いや、これは国家レベルの話だ。ぜひ。と言われている。君にどうしても一目会いたいそうだ」

「ご多忙でしょうし……」

「だが絶対に都合をつけると言っていたよ。それと…………これだけは伝えておいた方がいいと思ったんだが」


 するとアリシアさんが父さんを見て、頷き言った。


「私は君に、紫電を見た」

「紫電?」

「無意識か……姫様の魔術が発動した直後だ。銀色の氷の中で、確かに私は紫の雷をみたんだ」

「ローラも……見た」

「僕が……紫電を」

「あぁ、その場には私たちしかいなかった。だからこれを知るのは私たちだけだろう」


 そういえば最後の一撃だけ、なにか感覚が違ったな。

 ぎゅっと魔力を圧縮して密度を上げて…………できるだけ速く。

 そう……こんな感じで。


 チチチ。


「あ、出た」

「――!? 夜虎!? それは!!」


 父さんが俺の手を掴んで、その紫の雷を見た。

 なんだこれ。でも……なんかすごく鋭いというか……硬いというか、なんでも貫けそう。


「やはりか。光太郎殿」

「まったく…………お前は、とんでもないことを」

「すごいわ、夜虎! あなたは本当にこの国を……ううん、世界を救うのね!」

「父さん、これは?」

「直接みたことはない。だが…………おそらく100年前に失われた紫電の魔術だ。まさか血継魔術を自ら発動させるとは……確かに古くは紫電家と十二天将家は血は繋がっているとはいえ……」

「さすが私たちの子ね」

「あぁ、そうだな! さすが、俺の子だ! いや、しかし今度ばかりはいつものように楽観できないぞ」


 あ、いつも楽観なのは自覚あったんだ。


「この件、知っているのは、ここにいる4人と……説明するためにジークフリート様にだけです。それ以外、誰にも口外するつもりはない」

「すまない、アリシア殿」

「いえ、これは世界レベルの問題です。敵が分からない今、夜虎君が紫電に目覚めたことを公言するのは大変に危険です。特に……紫電ともなれば猶更。夜虎君は強い。しかし……敵は恐ろしく強大です」

「あぁ、その通りだ」

「どういうこと?」

「実はな、あの日同日。世界中の五大貴族の子供が狙われた。いや、正確には紫電家以外の四つの貴族の子供がだ。幸い全員未遂に終わったが、ロートオリフラム家の子供は今も生死の境を彷徨い、黒王家は、最も才ある妹を守るため、兄や両親に至るまで何人も死んでいる。ヴァイスドラグーン家は子を守るため、母親が死んだそうだ」

「――!? どういうこと?」

「何かが起ころうとしている……としか今は言えない。しかし、そのレベルの犯行が行えるとなると、敵は我々が思っているよりもずっと強大かもしれない。各貴族は警戒を強め、護衛も強めることだろう。もしこれが未来の強者を若い芽のうちに摘んでおこう……ということなら夜虎が紫電に目覚めたことを知られるのはまずい」


 ローラが狙われたように、世界中で五大貴族の跡継ぎが狙われたらしい。

 その意図はわからないが、きっと未来の戦力を削ろうとしたなにか。ということだろう。

 

「なので、ローラ様も今日の夜。帰国することになった」

「え!?」

「え!?」


 ローラと俺は声を上げてアリシアさんを見た。

 ローラは俺の手をぎゅっと握る。


「姫様……今後は、御父上が常にご一緒することになりました。先日現れた紫電竜馬……それに各国に現れた殺し屋もそのレベルです。申し訳ありませんが……私では力不足。仮に王級のさらに上……帝級、果ては世界級まで来たならば、御父上以外守れません」

「そんな……せっかく夜虎と……もっと遊べると……私やっと……」


 悲しそうにするローラ。

 俺もお別れは悲しいが、これは仕方ないことだろう。

 敵が分からない今、留学なんてしてる余裕はない。


 だから。


「ローラ、さっき言ったこと覚えてるよね」

「え?」

「僕たちはまだ弱い。だから…………強くなろう。護衛もいらないほどに強く。一人でだって殺し屋ぐらい追い返せるように、そして僕がローラを守るから、ローラが僕を守って。それぐらい二人とも強くなったらさ…………」


 俺はにこっと笑って、その手を握った。


「もう一度花火大会に行こう。今度は二人きりで」

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