66「改めてお友達から」

 ……失敗しましたかね?

 そういう思いを込めてみんなの顔を見ます。


 四人とも難しい顔ですね。

 すみません、浅はかでした。


 山の傾斜を降った方を覗き込むと、烈火の如く怒り狂うウギーさんが周囲の岩を叩き壊しています。どうやら魔力で作り出した黒い棒を打ち振るって……


「クソがぁ! どこに隠れやがった! この岩か! こっちか!」


『さっきと打って変わって怖いでござるな』

『怖イ』

「……改めてお友達から始められんすかね?」


 できたらそうしたいですね。


「このままではらちが開かんな。どうする?」


「選択肢は……

 1.無視してこっそり明き神詣りを続ける

 2.戦う

 3.謝って改めてお友達から

こんなものでしょうか。どれが良いです?」

「4.プックルの眠クナル魔法を使う、ってのはどうっすか?」


『ダメ、絶対、効果ナイ』

「そっすかー。俺でもなんとかガードできるんすもんね」


『イチ』

「1っす」

「2だな」

『3でござるかな』


 割れますね。

 僕も1なんで多数決だとすぐに決まりますが、多数決って絶対に不満が残るんであんまり好きじゃないんですよねぇ。


「どうしましょ――」

「そこだろ!」


 僕らが身を隠した岩、ガォォンという音と共に消滅しました。

 ……ゾッとしますね。


「考えてる時間はない! 行くぞ! 2の戦う、だ!」


 ロップス殿が腰に佩いた刀を抜き躍り出ました。


「プックル! タロウを連れて頂上へお願いします! ロボはやや下がり目で待機!」


 ロップス殿がウギーさんに跳びかかります。


「仲間か! 大人しく死ね!」


 ウギーさんが長い棒を巧みに操ってロップス殿の刀を頭上で受け、回転させた棒でなし、腹部目掛けて先端を突き込みます。


「風よ吹け!」


 魔力を籠めた右腕を振り、ロップス殿に風をぶつけて飛ばします。くうを切るウギーさんの棒。


「そうか。あの山羊はヴァン、オマエと一緒に居た山羊だったか。分からなかったよ」

「お久しぶりですね」


 ウギーさんが身長の倍ほどある棒を立てて、首を回してコキコキと鳴らします。


「ねぇ、頼みがあるんだ」

「なんですか?」


「ヴァンは見逃すから、狼と山羊を置いてってよ」

「ロップス殿はどうするんです?」


「トカゲ人間は要らないから、そうだなぁ、殺すかな」

「なるほど。どちらにしても聞けないお願いですが」


 驚いた顔でこちらを見詰めるウギーさん。


「へぇ! 驚いた、ヴァンが生き残れば旅は続けられるのに? 世界を救えなくなるのに?」


 そうでした。

 ロボ達の事はこの間イギーさんには見つかってしまいましたが、まだ彼らは僕が新しい生け贄だと思ってるんでしたね。


「大切な仲間ですからね」

「仲間……、それって必要なの?」


「そうですね。僕にとっては必要ですね」

「ふーん、良く分かんないや」

「貴方にも仲間がいるじゃないですか」


 少し沈黙。


「仲間? いないよ?」

「あれ? アギーさんやイギーさんは?」


 また少し沈黙。


「ああ、仲間ってそういうことなの?」


 どうやら勘違いだったみたいですね。やっぱり仲間は大事に――


「同じ所から生まれたって事ね。あれ? じゃぁヴァンとトカゲ人間も狼も山羊も同じ所から生まれたの?」


「あ、いや、僕らは生まれも育ちも違いますよ。ウギーさん達は同じなんですか?」

「そうだよ、知らなかった? この世界の外の世界にさ、でっかい星があるんだよ」


 ホシ……。

 前にタロウが言ってましたね。やはりこのウギーさん達、有翼人達は昏き世界の者どもでしたか。


「その星がさ、ちょっとずつ壊れてるんだ。で、その壊れた所から僕たちみたいな生き物が生まれるんだよ」


 ホシから生き物が……?

 ちょっと分からないですね。分かるのは、彼らが僕らとは大きく異なる生き物だと言う事だけです。


「おいヴァン殿。何を仲良く話してるんだ。3の選択肢になったのか?」

「ロップス殿、大丈夫ですか?」

「ああ、さっきは助かった。ちょっと風に飛ばされ過ぎて、岩にぶち当たって山を転げ落ちたが、まぁなんとか大丈夫だ」


 大丈夫なら良いんですが割りと血だらけですよ。

 癒しの魔法を使います。


「重ね重ねすまん」


「トカゲ人間も帰って来たね。じゃ続きしよっか」

「もう少しだけお話を聞かーー」

「もう十分さ。狼さん、僕にくれないんでしょ」


 そう言ったウギーさんの両腕が、ばんっと勢いよく肥大しました。さっきまでの倍ほどもあります。


「行くよ」


 太くなった腕に合わせて魔力で作り出した棒も先端が太くなっています。これはもう棒というより槌ですね。


 大きく振りかぶられたそれが僕とロップス殿の中央に振り下ろされますが、その速さが尋常ではありません。


「跳んで避けて!」

「おうさ!」


 さすがにモーションが大きいので僕もロップス殿も危なげなく両サイドに離れる方向に跳んで躱せます。空を切った槌は大地を穿ちました。


「はい、残念でした」


 ペロリと舌を出したウギーさんが、僕ら二人の間を駆け抜けました。僕らはまだ宙を跳んでいます。


「いかん! いきなり抜かれた!」


 また失敗しました。ロボも頂上へ向かわせるべきでした。


『ロボ、頂上のタロウ達を追って下さい。すぐにそちらに向かいます!』

『承知でござる!』


 風の魔法も使って僅かでも早く地に降り立ちます。着地と共に頂上へ向かって駆け出し、身体強化も施して急ぎます!


「はははっ! 狼も山羊もぼくが貰うよ!」

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