54「タロウ無双」
「シュタミナー村までは十日ほどだったな」
「ええ、問題なく行ければそれくらいです」
タロウとロボの訓練がありますから、あの晩からロップス殿が先行するスタイルは取っていません。
元々ロップス殿が先行する意味なんてほとんどありませんし。
マエンの森からロゲルの町までは平和でしたね。ずっとああだと本当に良いんですが。
『次の戦いには参加するでござる!』
「俺もっす!」
「二人とも、やる気があるのは良いですが、ナギーさんレベルの敵の場合はダメですよ」
まだまだ有翼人達との戦いは早いです。
僕やロップス殿でさえ厳しいんですから。
「分かったっす!」
『承知でござる!』
聞き分けが良くて素晴らしいです。
山道を行きます。
ここから見える最初の山頂手前、途中疎らにある林を抜けた先にシュタミナー村があります。
その山頂から遠望できる、もうひと回り高い山が明き神の住まう山です。まだまだ先は長いですね。
ロゲルを出て五日目のお昼前、巨体を揺らすマチョと遭遇しました。どうやら逃げる素振りはありませんね。
「でっけぇイノシシっす。ター村長くらいっす」
「向こうはやる気ですね。タロウ、やってみますか?」
「あ、良いんすか? 強そうっすけど」
「前にタロウが倒したマガクより断然強いですが、きっと平気でしょう」
「おっす! やるっす!」
タロウが一人進み出ました。
杖を手に構えるタロウ。
言っちゃなんですが構えは隙だらけですね。
循環させていた僕の魔力を体に纏わせました。そしてそこから、纏わせた魔力が徐々に青味を増していきます。
「かかってこいっす!」
「ぶひん!」
マチョがタロウに狙いを定め突進しました。マトンにはない長い牙が厄介ですが、タロウももちろん牙を警戒しているでしょう。
早くも杖を捨てたタロウが
杖を構えていた意味は全くありません。
「止めたったで!」
そんな無茶しなくても……
「危ない! その牙は伸びますよ!」
「え? うぉっ?」
マチョが牙に魔力を籠め、タロウの腹部を指し貫こうと一時的に牙を伸ばしました。
――が。
「土の大壁!」
「ぶひぃ!!」
マチョの顎の下、地面が急激に盛り上がり、そのまま顎を強打しつつマチョの頭をかち上げました。
伸びた牙はタロウの肩の上を抜け、危機を脱したタロウが少し後退しました。
「危なかったっす! お返し!」
魔力を纏わせた右腕で土の大壁を殴りつけ破壊、その砕けた土塊がマチョを襲います。
意外と武闘派な戦い方をしますね。
土塊の直撃を受けたマチョが首を振って体勢を立て直し、改めて再度の突進です。
「まだまだ魔力あるっすよ! 喰らえ! 風の刃の嵐っす!」
タロウの全身から飛び出した大量の風の刃がマチョに襲い掛かりました。
…………………
なんて量ですか。
やられたマチョは細切れです。
「あ……やり過ぎたっすか?」
「やり過ぎです。マトンよりは落ちますが、マチョの肉も美味しいですのに」
「しかし良くやった! やるではないか!」
『タロウ、強カッタ』
『タロウ殿はただの軽い人族ではなかったでござるな』
「そぉっしょー! みんなもっと褒めてくれーっす!」
これは想像以上でした。
ちょっと魔力を使い過ぎですが、正に圧勝。
「魔力はどれくらい残っていますか?」
「自分の魔力は分かんないっすけど、ヴァンさんの魔力はまだまだあるっす。貯まってた分の三割くらい使ったっす」
あ、そんなに残っています?
タロウの魔力を混ぜて使っているのと、タロウの魔力量がはっきり分からないので難しいですが、僕ら全体の
もちろんタロウの命が最優先ですので、強敵と前線で戦う事は想定していませんが。
「嬉しい誤算です。いざともなれば、タロウに蓄えた僕の魔力は回収が可能ですし、これからの戦いが断然楽になりますね」
「俺、ようやく役に立ちそっすか?」
「ええ、とても」
「よぉっしゃ! 俺の時代が来る!」
『そ、それがしも! 今度はそれがしが戦うでござる!』
マチョの肉は諦めて埋めました。
本当に残念ですが、肉も内臓もごちゃ混ぜになって
その後の数日間で、次に現れたマチョをロボが、さらにそのあと現れた単体マチョ、単体マロウ、数頭のマエンをタロウが一人で全て撃退しました。
二人ともちゃんとマチョの肉は確保できる様にです。
「それでもまだまだヴァンさんの魔力あるっす! これはもう、タロウ無双っす!」
『そ――それがしの出番まで取らんで欲しいでござる!』
実際に普通の魔獣ならタロウの相手にもなりません。タロウが無双しています。
「タロウ、調子に乗って油断していてはいけませんよ。さらに強い魔獣も、有翼人もいますからね」
「そうだ。何よりも、豊富な魔力量に頼った戦い方であって、体術は全くダメ。魔力枯渇とともに戦闘力ゼロだぞ」
んー、と考えるタロウ。
「……んー。確かにロップスさんの言う通りっすね。魔力無くなったら戦い方分かんないっす」
「そうであろう。なので私の華麗な奥義を教えてやろう!」
「いや、ロップスさんの厨二技はいいっす。ノーサンキューっす」
のーさんきゅー?
きっとニホンゴではないチキュウの言葉ですね。まだたまに分からない言葉がありますが、今のはなんとなく流れで分かりました。
その気持ちもわかります。
成長したタロウとロボという新たな戦力のおかげで、特に危機に陥ることもなく、シュタミナー村まで辿り着けました。
……が。
なんだか様子がおかしいですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます