第4話

――フルード視点――


「た、大変ですフルード様!!!」

「こ、今度はなんだ!?」


この事は内密に動けと何度も言っているのに、次から次へと大声で報告をもたらしてくるクメール。

セレナに関する情報は当然緊急性を有するものであるもっとばれないように動いてもらいたいものだ。

僕のようにな。


「セレナの姿が見つかったのか!?どこにいた!?」

「そ、そうではないのです!!」

「そうではない??それじゃあ何があった?」


こいつの言いたいことをストレートに察することができず、やや心をイラつかせてしまう。

しかし、その後クメールの口から語られた言葉は僕の想像を絶するものであった。


「すでにロビン国王様が、セレナ様の失踪に関する情報を集められているとの知らせがもたらされました!もう完全に、お気づきになっている様子です!」

「なっ!?!?」


…それだけは、僕が絶対に聞きたくない知らせであった。

それを避けるため、こうして内密に内密に動き続けてきたというのに、知られてしまったとあってはこれまでの頑張りが台無しとなる…。


「こ、国王様はどこまで気づいているんだ!?まさかセレナを追い出した責任が僕にあるなどとは思われていないだろうな!?」

「げ、現在のところ詳しい事は分かりません…。ただ、こちらがつかんだ情報によれば国王様はグライス様と情報を共有されていて、セレナ様が失踪されたという事実に非常に憤りを感じておられる様子なのです…」

「っ!?!?」


国王様だけでなく、グライスまでしゃしゃり出てくると言うのか…!?

あいつほどくそまじめな性格をしている男を僕はこれまで見たことがない。

逆に言えば、あいつほど真面目な男であれば今回の僕の行いに対してどのような感想を抱くのか、手に取るように分かってしまう。


「グ、グライスはこれまで僕に逆らうような事はしなかった…。元が大人しい性格だからな、あまり表にも出たがらず、第二王子でありながら権力を欲することもなかった…。しかし、こうなってしまったら話は別だ…。持ち前の正義感のままに、僕の事を蹴落としにかかってくるに決まっている…。そこに国王様まで味方をしているとなると…。これはまずい…!」


考えれば考えるほど自分の立場が苦しくなっていることを理解していき、次第に考えが滞っていってしまう。

しかし、ここであきらめてしまってはこれまで築き上げてきた第一王子としての威厳がすべて水の泡。

なんとしても僕自身の立場だけは守らなければ…!


「…セレナの家に手紙を出そう」

「もう何度も出されているのでは?」

「そうじゃない。内容を変えるんだ」

「どのように?」


事態を重く見ていたフルードはすでに、セレナが元いた家に手紙を送っていた。

その内容はシンプルであり、自分を裏切るような真似をするんじゃない、今すぐに戻ってきたら今回の事は大目に見てやる、というものだった。

…しかし、今の状況を考えるとそんな余裕をみせることはできなくなってしまった様子。


「今すぐに王宮に戻ってくるよう、少し頼みこむような文章にしてみよう。それなら向こうも考えを改めるかもしれない…」

「フ、フルード様…。そもそもあの家にセレナ様が戻っているのかどうかも分からないままですから、文面を変えた手紙を出したところでなにか変わるとは…」

「いいからやるんだよ!!国王様まで出てきてしまっているんだ!もうなににもかまってなどいられない!!」


焦りの色を隠せないフルードの姿は全く第一王子の見せるそれではなく、完全に勢いを飲まれてしまっていた。


「わ、分かりました…。セレナ様に関する調査も引き続き続行させていただきますので、なにかあったらすぐにご報告に伺います」

「あぁ、頼む…。こうなってしまっては、先にセレナと話をして僕の側に引き込むしかない。もしもグライスや国王様に先にセレナに接触を果たされてしまったら、それこそ僕はどうなるか分からないぞ…」

「りょ、了解いたしました…。それでは…」


フルードもようやく自分の置かれている状況を正しく理解し、すでに後のない状況にあることを把握した。

…それほど彼にとって、国王が動きを見せ始めたという点は大きなものだった様子。


「(落ち着け…。まだ完全に詰んだわけじゃないはずだ…。国王様とて、動きを見せるにはまだ時間がかかるはず…。セレナと近しい関係にあったこちらの方が有利であることに変わりはないはずなんだ…。グライスの相手も国王様の相手が終われば勝手に片付いてくれることだろう。そうなればこの僕にあだなす者はいなくなるわけだが、その後の事も考えないといけないな…)」


一応の緊張感は持っている様子のフルードであるが、自分がセレナを追い詰めてしまったことに関しては全く思うところもない様子。

そういった彼の無神経さこそが後に彼自身にとどめを刺すこととなるのであったが、結局フルードがその事に気づくことは最後までないのだった…。

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