第3話

――王宮内の会話――


家出したセレナの事を秘匿することにいっぱいいっぱいになっているフルードの裏で、すでにその情報を掴んでいる人物がいた。

フルードにとっては弟にあたる、グライス第二王子である。


「(フルードお兄様、あなたにはがっかりさせられましたよ…。まさかこんな形で婚約者を傷つけ、その関係を終わらせてしまうだなんて…)」


グライスはどちらかと言えば内向的な性格で、あまり表に出ることを好まないタイプだった。

それゆえに王子としての権力をフルードと争うこともなく、自分は別に一番になりたくもないからとその身を前に乗り出すこともなかった。

…しかし、今回の事態はまじめな性格の彼の中ではいろいろと思うところがあった様子…。


「(これまではお兄様のことを全面的に信頼してきましたが、人々の上に立つ第一王子たる存在であるあなたがそんな事をしてしまうようでは絶対にいけません。僕は僕で、自分の正義を貫かせていただきます)」


心の中でそう言葉をつぶやきつつグライスが向かった先、それは自身の父であるロビン国王の元であった。


――フルード視点――


「いいから、なんとしてでもすぐにセレナの事を見つけ出すんだ!!まだそんな遠くには行っていないはず…。こんなことがお父様やグライスにでも知られてみろ、大変なことになってしまうぞ…!!」


僕は久方ぶりに心の中に緊張感を抱きながら、自分が信頼を置く部下たちに命令を下していた。

いなくなったセレナの事は、おそらく今もバレていないはず。

これをこのまま片づけることができなたら、きっとこれ以上の事態にはならずに済むのだ。

ゆえに、今が踏ん張り時なのだ…。


「なにかあったらすぐに報告するんだ!なんとしても二人に掴まれる前にセレナの居場所を突き止める!!」


――王宮内の会話――


「国王様、少しお話をさせていただきたいことがあるのですが」

「ほう、お前が来るとは珍しいな」


フルードがセレナの事を探し回っていたその時、グライスはもうすでにロビン国王の元を訪れていた。

二人は同じ王宮内にて生活をする身同士ではあるものの、非常に広大な土地を有する王宮内においてはそう顔を合わせる機会は多くなく、いずれか一方が積極的に会いに行かない限りは自然に話が生まれることもない状態だった。

そんな中にあって、ロビン国王の元を訪れたグライス。

そこになにか理由があるのであろうことは、ロビンもすぐに察した。


「お前が話したがっている事、うすうすは見当がついているが…。さて、何の話だ?」

「ほかでもない、お兄様に関しての事です」

「ふむ」


やはりそうか、という雰囲気を発しながら、国王は自身の腕を組んで反応を見せる。


「セレナ様がそのお姿を消されてしまったという話を聞きました。しかもその原因は、お兄様の方にあるものであるとも。これではセレナ様が可愛そうでなりません。国王様、どう思われますか?」

「そうだな…」


グライスの性格を考えれば、彼がすぐにこうして乗り込んでくるであろうことを国王はすでに察していた様子だった。

その証拠に、この話がすでに初見でないかのような口調で言葉を返し始めたのだから。


「今回の一件、私も完全にすべてを把握したわけではない。しかし、その情報は耳に入ってきている。今こうしている間にも、フルードが事態の鎮静化を図って裏で動き回っているということもな」

「その通りです。きっとお兄様は自分の責任を追及されることを恐れて、セレナ様の家出から始まる一連の事態をすべて隠すつもりなのでしょう。それこそ自分自身の首を絞めることになりかねないというのに…」


第一王子でありながら後ろ向きな行動ばかりを見せるフルードの事が非常に気に入らない様子のグライス。

それに関しては国王も全く同じ思いを抱いている様子だった。


「…あいつは知られていないと思っているようだが、実はこれまでにも似たようなことが何度もあったのだよ。私はその度にフルードに対して遠回しに警告を発し続けてきてやったのだが、あいつは学習する気がないらしい」

「そんなことがあったのですか??」

「今度こそは更生するかと期待してやつの行動を見守り続けてきてやったのだが、どうやらそれもここに来て裏切られてしまったようだな…。もはやこれ以上あいつに情けをかけることは、国益を損ねることになるかもしれん」

「…ということは、国王様、いかがなされるおつもりなのですか?」


グライスの発した質問は、非常に険しい意味をはらんでいた。

それもそのはず、その返答次第によってはこの先の王宮の秩序や勢力図を根底からひっくり返してしまいかねないからだ。


「…第一王子の座に置き続けるかどうか、それは貴族たちの判断となるところが大きいだろう。これらの話を全て表にして、彼らがどのような反応を見せてくるか、見守ることとしよう」


それは、ここまで事態を秘匿し続けてきているフルードが最も恐れる事態である。

しかし、状況はすでにすべてを隠せるような段階にはなく、後はどこまでフルードがその傷を浅く済ませることができるかどうかを問われている段階に移っているのだった…。

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