第2話

「どう!? どうよ! なんかセクシーじゃなぁ~い?」


 買ってきたばかりの水着に着替え、僕の部屋に勝手に入ってきた姉さんは、くるっと回ったり変なポーズをとったりし始めた。


 うん……どうしよう、思った以上に痛々しい。


 姉さんも17歳になったし、水着はビキニかなって思ったんだけど、つーるん、ぺたーんな姉さんにビキニを着せるのは酷だったかもしれない。

 お胸の膨らみは皆無だし、幼児体型のお腹は微妙にふっくらしている。端的にいうとくびれがない。


 店員さんが見繕ってくれた何着かに女児用のビキニがあって、これならって思ったんだけどな……ダメだったか。

 だって試着した姉さんが、「これにする!」っていったから。


「やっぱいいよこれ! あんたいいの選んだねー、センスあるんじゃない?」


 これでまだ、年相応にお胸が育ってくれてたらなんとかなったのかもしれないけど、姉さんのお胸は散々たる状態で、家族なので気をつかったとしても平坦と表現するのが精一杯だ。


 もしかして色か? 白がダメだったのか?

 姉さん色白だし、なんか変に裸っぽいんだよな。むしろ幼児的な、パステル調のフリフリなワンピースの方がまだマシだったんじゃないか。

 無難に小学生に見えるようなの。どうせ姉さんの実年齢を知らない人には、かわいい幼女にしか見えないんだから。


 でもとりあえず、


「うーん、にあうー」


 そう答えるしかないだろう。店員さんオススメ(在庫特価60%OFF)といっても、姉さんを納得させるために僕が選んだということになってるし。


「あッ!? いまバカにしたわよね、ねぇ!」


「し、してないよー」


 バカにはしてない、申し訳なく思っただけ。

 センスのない弟でごめんなさい。女子高生の水着はビキニって固定観念でごめんなさい。

 あと、勉強したいから出てって。


「自分じゃよくわかんないわ。ねぇ、動画撮ってよ」


 めんどくさいことはさっさと終わらせたい。僕はスマホを構えて、


「くるっと回ってー」


「こう?」


 片足でくるっと一回転。なんか、つるんっとしたお尻がやけにかわいいな。僕が幼女好きのヘンタイだったら、鼻血出してるかも。


「うん、なんかポーズとってよ」


 両手で髪をかきあげ、「ぁっ♡」と吐息を漏らす姉さん。いや、そんなセクシーなポーズじゃなくていいよ、似合ってないから。


「プールでそんな変なポーズとるつもりなの?」


「とるわけないでしょ!」


「じゃあ、普通にして」


 普通っていったのに、なんで微妙にリズミカルな、モデルみたいな歩きかたなの。

 ま、いいや。どうでも。


 これ、なんだろう? ペンギンってこんな歩きかたするよな。

 ……うっ、でもやっぱり、微妙に形を変えてふにふにしているお尻がかわいい。


 これまで意識したことなかったけど、姉さんのお尻でドキドキしちゃうほど、僕はお尻好きだったのか!


「ちゃんと撮れてるー?」


「撮れてるよ、かわいいかわいい」


 しばらくの間撮影を続け、撮った動画を確認する。

 スマホの中、動きながらかわいくポーズをとる姉さん。こうしてみるとカメラばえするというか、ちゃんと実物通りの魅力が記録されている。

 僕なんかカメラ写りめっちゃ悪くて、写真も動画も嫌なんだけど。


「ちょっと正直にいうわ」


「どうぞ」


「めっちゃかわいくない!? わたしっ」


 それは、自分でもわかるのか。


「かわいいよ。そういってるじゃん」


 実際姉さんは小学4年生女児としてみると、キッズモデルレベルのかわいさだと思う。

 長いまつ毛でぱっちりした目元、鼻は小さめだけどそれはそれで愛らしい。何も塗らなくてもつやつやしてる桜色の唇が、一番印象的かも。遠くからでもなんか目立つし。


 体型も幼児のそれだけど、手脚は細くて長く、色白肌の黒髪ロング。気に入ってるのか、髪は子どもっぽいツンテールにしていることも多いけど、今はまっすぐに下ろしている。

 こうしていると本当に、小さな清純派お嬢さまって感じなんだよな、見た目だけは。

 別にうちお金持ちじゃないから、お嬢さまはありえないけど。


 まぁ、なんだ。

 要するに弟から見ても、姉さんはすごい美人なんだ。


 ただ、小学4年生としてはね? という言葉はつくけど。

 だって、17歳の高校2年生という現実を見てしまうと、


(やばいほどロリ顔ロリ体型だな。ここまでアレだと、むしろどこかで需要があるんじゃないか?)


 と思ってしまう外見だから。


「あんたが選んだこの水着も、似合ってるし」


 え!?


「そう……だね」


 似合ってないよ。無理に大人っぽい水着を着させられてる、痛々しい幼女みたいだよ。


「でも、高校生には見えないわね。あんたと同級生くらい?」


 どう見ても小4だ、5年生には見えない。中3なんて夢のまた夢だ。


「姉さん、その水着さ。似合いすぎてるから外で着ないでよ」


「えー、なんでー」


 かわいそうな子みたいだからだよ。


「自分でもかわいいっていってたじゃん。そんなかわいい子がプールにいたら、変態野郎に盗撮されるよ?」


 盗撮対策に全力なプールの人ごめんなさい。プールに盗撮魔がいるなんて思ってません。でもなんか、小学生にしては肌の露出が多すぎる気がするんです。

 ロリ痴女? そんな感じなんです。 むしろ姉が犯罪者的なんです。この水着、60%OFFされるわけだ。こんなの、子どもに着させたい親はいない。

 姉さんは自分を「17歳にしては少し子どもっぽい」くらいにしか感じてないから、この水着でも「変じゃない」と思ってるんだろうけど。


「うっわ、マジで!?」


「マジで、マジで」


 なにやら考える顔をする姉さん。そして僕からスマホを取り上げて、動画を確認。


「ねぇ……なんでここ、お尻のアップ撮ってるの。もしかして、お尻スキーなの? 男の子は、お胸派とお尻派にわかれるっていうしね」


 警戒した顔をする姉さん。

 僕、お尻なんか撮ってた!? 無意識で撮っちゃっての?


 ち、違う! だって、小さなお尻があまりにかわいくて……。


 って、どうしちゃったんだ僕! なんでもこんなに慌ててるんだ!?

 そりゃお尻はかわいかったけど、姉さんのだぞッ。


「もう! べ、勉強するからでてってよッ」


 僕は無理やり、姉さんを部屋から追い出した。

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