第3話 不連続殺害事件
今までの凶悪犯を思えば、今回の殺人も、
「殺害方法としては、凶悪だ」
といえるのではないだろうか?
その死体が発見されたのは、一週間くらい前のことだった。
一人の女性が、会社からの帰り道、いつもの公園を歩いて帰っている時、普段はあまりいない野良犬が、2匹ほど大きな木の根っこのあたりをほじくっていた。
その公園は、児童公園というよりも、自然公園という雰囲気で、少し大きな公園になっていて、公園の中心には、池というには大きいくらいのところがあり、そのまわりには、いくつもベンチが置かれていて、早朝であれば、ジョギングをする人が休憩に使い、昼間は、散歩する人や老人が使い、夜になると、カップルが使うのではないかと思えるような場所だったのだ。
そんなところだったので、
「市民の憩いの公園」
ということになっていた。
だから、
「ジョギングコース」
として整備されたところでは、ジョギングの道、散歩道、そして自転車道と、それぞれ、接触しないように分けられていた。だから、それぞれを合わせて一本の道だと考えると、かなり広い道を形成していたといってもいいだろう。
そんな遊歩道から、池と反対側には、いろいろな気が植樹されていて、四季折々の顔を見せてくれるということで、いくつもの森のようになっていた。
中には、芝生になっていて、ピクニック気分を味わえるところもあるが、それ以外のところは、小さな森のようになっていて、普段は、人が入り込むようなことはない。
昼間であれば、まだしも、夜ともなると、遊歩道の明かりだけでは、森を照らすこともできずに、ほとんど真っ暗な状態で、
「気持ち悪い」
といってもいいだろう。
それを思うと、その日、森の中にいる犬たちの行動が、少し武器に見感じたのも、無理のないことなのかも知れない。
その女性には、その時にいた犬たちの様子が、まるでオオカミのように見えたのだ。
「ウォーン」
という低い声で、しかも、絞り出すような声がしたかのように思うと、それが、
「オオカミの遠吠え」
であり、まるで、仲間を呼んでいるかのように響くと、背筋が寒くなってくるように感じたのであった。
本当であれば、気持ち悪くてすぐに通り過ぎてしまうのだろうが、犬たちは、彼女がそこにいると感じたのか、急にビビったかのように、その場から、ゆっくりと退散していくようだった。
まるで、何か悪いことをしているかのような様子に、彼女も少し大胆になった。
「何も私がビビる必要もないんだ」
と思ったのだ。
彼女は、そこにいるのが人間だったら、急いで通り過ぎていただろう。何しろ、彼女は、まだ20代と思しき乙女であり、男から性的な目で見られても不思議のない体系をしていて、服装も、下手をすれば、
「男の気を引いている」
とでも思わせるかも知れないと、自分でも感じるファッションをしていた。
とはいえ、
「同年代の女の子は、もっと奇抜で、きわどい服を着ている女の子は、たくさんいる」
と感じていた。
だから、
「私が狙われるのなら、もっと他の人を狙うでしょう」
と思っていたのだ。
日が暮れてからの、女性の一人歩きは、本当は気持ちの悪いもので、もっと明るいところを歩けばいいのだろうが、あいにくと、そういう通りはあまりなかった。
駅から歩いて、家まで20分、それが公園の遊歩道を通るから可能な時間だった。
他の道に入ると、
「5分はロスをする」
といってもいいだろう。
しかも、そっちは、住宅街を通るので、それこそ、人通りが少ない。公園を抜ける方が、まだ散歩やジョギングをする人、あるいは、
「帰宅を急ぐ、彼女のような人」
というのが結構いるので、却って安全だといってもいいだろう。
犬たちが何かをまさぐっていたのは分かっていたので、怖いのを承知でそこに覗き込もうとした。
すると、
「どうかしたんですか?」
ということで、後ろから、一人の男性が声を掛けてきた。
不意を突かれてびっくりした彼女が振り向くと、そこには一人の男性がキョトンとした表情で立っている。
その男性に見覚えがあった。
「いつも同じ電車に乗っている人だ」
と感じた。
電車というのは、ほとんどの人がくせになっているのか、それとも、便利のいいところというのを、意識的にか無意識にか、その場所を利用するものだ。
だから、同じ駅で降りるのであれば、
「一番改札口に近いところ」
ということで同じ車両に乗っているのが分かるというものだ。
しかし、彼女は女性で、そんなに歩くのが早いわけではないので、いつも、駅を降りると、その人は、自分に背中を見せて、足早に視界から消えていくのだった。
だから、駅からすぐに、どっちにいったのか分からなくなっていたので、そこまで気にする人ではなかった。
しかし、その日は、後ろからやってきたということは、
「次の電車で帰ってきた」
ということになるのだろう。
いつも彼女が帰ってくる電車は、普通列車であったが、その後ろの電車というと、ちょうど、彼女が降りた電車と、その駅で待ち合わせてやりすごすという急行電車があるので、それで帰ってきたということになるのだろう。
だとすれば、数分の違いしかないので、彼が今自分を見つけて声を掛けるというのも、別に不思議なことではなかった。
「ああ、ごめんなさい。何やら、そこで野良犬が二匹、何かをまさぐっているように見えたので、気になって少し覗いていたんです」
と彼女がいうと、
「ほう、野良犬が?」
といって、その男性は、若干興味を示したかのようだった。
「ちょっと覗いてみましょうかね?」
というので、彼女も、
「男性がいてくれるのであれば、安心だわ」
と思った。
他にも徒歩の人はいるが、こちらに人がいるのを分かっているのだろうが、ほとんどの人が無視していく。
それはそうだろう。
彼女としても、自分が他の人の立場なら、気にすることのない素振りで通り過ぎていくことだろう。
それを思うと、
「普段の私が、どれだけ人に関心がないか?」
ということが分かるというものであった。
そこには、男性も数人いた。
しかし、女性にこんなところで声を掛けるのは、よほどの勇気がいるだろう。もし相手に不審がられて、逃げられれば、下手をすれば警官を連れてきて、不審者呼ばわりされてしまう可能性があるからだ。
それにも関わらず、彼が声を掛けてきたというのは、やはり、彼女のことを彼も意識していて、彼女が自分を意識しているということが分かったからではないだろうか?
それとも、彼女の様子に、よほど不審なところがあり、気になって声を掛けたとも言えなくもない。
実際に、あとで警察の事情聴取では、
「そのどちらも」
ということだったのであった。
恐る恐る近づいている男性の背中に寄り添うように、
「これ以上近づいてはいけない」
という境界線というか、
「結界」
のようなものを感じながら、彼女も彼にしたがった。
男性は、腰よりも少し低い垣根のようなものをかき分けて中に入っていったが、
「なるほど、これくらい高い垣根だと、昼間であっても、中が見えることもなく、人の目があるので、森に侵入しようという気が起こらないようにしているのだ」
ということを、彼女はいまさらながらに感じたのであった。
「さぞかし、昼間だったらきれいなんだろうな」
と彼女は感じた。
ほとんど夜か、早朝の、
「通勤にしか使わない道なので、朝も、まわりをほとんど気にすることなく、駅に向かってまっしぐらなので、公園内を気にすることはなかった」
特に早朝というのは、
「これから仕事ということになるので、精神を集中させなければいけない」
という考えで、逆にいえば、
「行きたくない会社にいかなければいけないのだから、気持ちを集中させなければいけない」
ということになるのだった。
それを思えば、
「公園などに気を遣うことはしない」
といっても、無理もないことである。
森の中に入っていくと、垣根の向こうから、その大きな木までが、思ったよりも距離があることに気が付いた。
ということは、
「その木は、自分が感じていたよりも、もっと大きいということになるのではないか?」
ということを感じたのだ。
普段から、
「いつも何かを考えている」
と感じている彼女としては、それくらいの発想は、
「いつものことだ」
といえるのだろうが、その考えているということも、最近では、ほとんど無意識になってきたのであとになって、
「あの時、何かを考えていたな」
とは思うのだが、それが少しでも時間が経つと、時系列で意識することが苦手な彼女にとって、特に考えていたことというのは、まるで、シャボン玉のように、一度消えてしまうと、記憶からも消えるのだった。
いや、覚えているのかも知れないが、それが時系列に乗れないので、それがいつのことだったのかということが分からなくなり、
「分からないということは、思い出すことができないほど、昔のことだったんだ」
と感じたことで、却って分からなくなってしまうということになるのだろう。
それを考えると、
「時系列って大切なんだな」
と思うのだ。
しかし、最近の彼女は、
「記憶力というものに、時系列は関係ない」
と思うようになってきた。
それは、高校生の頃に感じたことの方が、大学時代に感じたことよりも、身近に、しかも、
「まるで昨日のこと」
のように思い出されるということもあるというものであった。
それを思うと、
「自分にとっての記憶というのは、実に曖昧なものだ」
というようなことを、知っている男性に声を掛けられてから、
「入ってみましょう」
といわれるまでの、寸時に感じていたようだった。
男に言われて、寄り添うようにして歩いていると、男の心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
「この人も緊張しているんだ」
と思った。
「一人だったら、絶対にこんなことはしない」
と思ったことで、彼にとっても、彼女がいることは心強いということであろうか?
男とすれば、
「発見してしまったものを、知らなかったということでその場をスルーしてしまう」
ということになると、
「気になって、その日眠れないんじゃないか?」
と感じたのだ。
彼女としても同じことで、だから、その場から立ち去れなかったというのも分かるというものだ。
しかも、男に声を掛けられるまで、そんなに時間が掛かっていないと思っていたが、いくら男が歩くのが早かったとはいえ、彼女に追い付くには、数分は掛かったことであろう。
それを思うと、彼女は、
「自分の中で、何かの覚悟をもつには十分な時間だったかも知れないけど、彼としては、瞬時のことで、まだまだ戸惑っているのかも知れない」
と感じた。
だから、胸の鼓動の大きいのは分かる気がするのであって、
「彼にとって、私も頼もしい存在なのかも知れない」
と思うと、彼女としても、
「自分の存在が、男性にとって頼もしいと思わせるのだとすれば、これほど愉快なことはないだろう」
と感じたのだ。
ただ、それはまだ、そこに何があるのかということが分からない状態だっただけに、彼女には、まだ余裕があったといえるのだろう。
「うわっ」
と男が声を挙げたので、彼女は、反射的に、その場から目をそらした。
本当であれば、反射的にその方向を見るものだと思っていた彼女としては、自分が思っているのと正反対の行動をしたことにびっくりしてしまった。
「どうしたことなんでしょう」
と感じたが、いつまでも目をそらしているわけにもいかず、今度は、恐る恐る見つめた。
「あっ」
彼女も、思わず叫んでしまった。
掘り起こされたであろう土の中から、何か白いものが光っているようにさえ見えた。その光景は、明らかに不気味なもので、彼女はそれを、
「考古学の発掘現場」
にでも入り込んだ気がしたのだ。
光っているように見えたのは、何か厚めのビニールシートが光っているからだったのだが、その白いものも光っているように感じた。
掘り起こされた土が、丁寧に、山のように築かれていたのも印象的だったのだ。
そのビニールシートに包まれたものは、いくつか発見された。光っていることで、それが何か分かるまでに、そんなに時間が掛からなかったと思ったが、さっきまでの経験から、
「本当にそうだろうか?」
とも感じたのだった。
「急いで警察に連絡しないと」
と男はそう言って、スマホを取り出し、警察に連絡しているようだった。
彼女はその白いものから目が離せなかったが、気持ちは半分放心状態になっていて、警察家の連絡が終わった彼から、
「警察がすぐに来るから、俺たちも待っていないといけない。もう少し明るいところに行こう」
といって、近くのベンチに座ったのだ。
「警察が来るまで、見えるところで見張っておかなければいけないだろうね」
と彼がいうので、
「現場保存ということ?」
と聞くと、彼は頷いた。
その様子を見て、
「ああ、私たちは、何か犯罪に絡むものを発見したんだ」
ということを、その時に、やっと理解した気がした。
それにしても、さっきのあの白いものが、
「人間の白骨死体だ」
ということは分かった。
だとすれば、
「殺人事件」
ということなのか、それとも、
「死んだ人間を穴に埋めた」
ということでの、
「死体遺棄事件」
のどちらかであることに違いない。
そこに、
「何かの組織がかかわっているのではないか?」
と、彼女は感じたが、
「ああ、ミステリー小説の読みすぎかしら?」
と感じたのだ。
ミステリー小説は確かに好きで、よく読むことはあるが、
「謎解きしてみよう」
と思って読み始めても、結局最後は、
「その謎解きの描写に魅了されて、自分で考えるということをしなくなっている」
ということに気づき、
「ああ、そこまで考える必要なんかないんだ」
と感じて、
「やっぱり読書というのは、受動的な趣味なんだ」
と思うのだった。
「静かな場所で、読書を楽しむ環境を自分で作って、本を読む」
それこそが、
「高貴な趣味」
だといえるのではないだろうか?
そんなことを思って、ミステリー小説を読んでいたが、まさか自分が、死体の第一発見者になるとは思ってもみなかった。
しかし、それでも死体というのが、
「たった今殺された」
という生々しいものではなかったのが、せめてもの救いであろう。
しかし、白骨というのも、想像しているよりも、かなりのショックだった。
「だとすれば、これが本当の生々しい死体であったら、もっともっとショックが大きかったはずだ」
と感じることであろう。
警察は、それから10分くらいしてから来た。
今回は、それほど、感覚的なものと、実際の時間に差はなかった。
「男性が一緒にいてくれているからだろう」
と彼女は思ったが、
「まさにその通りだ」
ということであった。
警察というものがどういうものなのか、刑事ドラマやミステリー小説などで知っているつもりだったが、初動捜査では、やはり、捜査の邪魔のないところまで行かされて。そこで、事情を聴かれるということになったのだ。
「お二人はお知り合いで?」
と刑事が最初に聞いてきたということは、
「刑事が見ても、知り合いじゃないと見えたからなんだろうな?」
と彼女は感じた。
彼女が答える前に、彼が答えた。
「電車の中で見かけることはありましたが、会話をしたことはありません。今日は彼女が、あの現場の前で佇んで困惑した様子だったので、声を掛けたんです。すると、その茂美の中で犬が何かをまさぐっていたということで気になると言ったので、じゃあ僕が確認しようということになって、その場所に入ってみたんです。すると……」
といって。彼は、口をつぐんでしまった。
「分かりました」
と刑事がいうと、
「じゃあ、それぞれでお話をお伺いしましょうかね?」
といって、もう一人の刑事を呼んで、それぞれに、話を聞くことになったのだ。
「まさか口裏を合わせているとでも、刑事さんは感じたのかしら?」
と彼女は思ったが、
「警察としては、これが当たり前なのかも知れない」
とも思ったのだ。
警察がきた時、一緒に鑑識も来ているようで、第一発見者の二人は、どうやら二人とも、その死体が、
「完全な白骨」
と思っていたようであった。
二人、それぞれに話を聞いているので、
「口裏を合わせる」
ということができるわけもなく、共犯でもない限りは、二人の意見が一致するというのは、
「本当に共犯なのか、それとも、それ以外の発想が思い浮かばないほどに、そう見えた」
ということになるのであろう。
警察は、
「まさか、こんなに古いものを発見したタイミングで、共犯とは思えない」
と考えた。
そもそも、白骨になるくらいまで時間が経っているのだから、
「もし、お互いが共犯だというのであれば、それぞれに、まったく知らない相手としてふるまっている方がいいに決まっている」
ということである。
この発想は、
「犯人が、犯行を犯してからすぐに、現場から立ち去りたい」
という心境に陥るのと、ほぼ同じだといえるのではないだろうか?
つまり、
「本能の感覚」
といってもいいだろう。
いくら時間が経っているからといって、いや、
「時間が経っているからこそ、余計に、二人のことを知られるのは、ここまで発見されなかったことを思えば、よかったということにならないか?」
と感じるのだ。
だが、考えてみれば、
「どこかのタイミングで発見されなければいけない死体」
というのもある。
例えば、動機が遺産相続ということであったとすれば、行方不明のままでは、遺産相続が開始されない。
死体が発見されず、行方不明のままであれば、
「失踪届」
というものを出してから、7年が経たなければ、死亡したことにはならないわけで、しかも、
「死亡が確定したとしても、そこから相続手続きまでには、いろいろと時間もかかるだろう」
ということで、それを考えると、
「目的完遂」
のためには、早く死体が発見されてほしいが、かといってあまり早ければ、
「犯人にとって都合が悪いということになりかねない」
ということであろう。
それを思うと、
「犯人が誰であろうと、発見されたということは、ここから、事件の時間がまた動き出した」
ということになり、警察としては、
「ここから事件が始まる」
ということになる。
まずは、鑑識の報告が先決であり、
「いつ死んで、どのように死んだのか?」
ということになる。
しれによって、
「殺人なのか?」
あるいは、
「死体遺棄なのか?」
ということが分かるというものである。
この事件においては、発見者に話を聞くだけが、初動捜査というものだろうということであった。
ただ、警察としては、証言と、実際が違ったことがあった。
それは、
「あの死体を発見者の二人は、白骨死体だとおっしゃいましたが、性格にいえば、腐乱死体になるんですよ。また少しですが、肉の部分や内臓、皮膚の部分も残っていました」
と衝動捜査を終えて署に帰った刑事は、捜査本部でそういった。
「なぜそれを二人に告げなかったのか?」
というと、
「あの二人はただの発見者ということですから、気持ち悪い思いをさせる必要はないと思いまして」
ということであった。
実際に見たのであれば、そこまでは気持ち悪いものではないかも知れないが、
「内臓や皮膚まで残っている」
などという生々しいことを口にすれば、間違いなく想像してしまい、白骨だと思っていたものが違ったということになると、それはそれで、吐き気を催すくらいになるのは、必定だと思うのだった。
それを上司にいうと、
「それはそうだな、下手に刺激して、発見時の正確な話が聴けないということはまずいからな」
ということであった、
それを思うと、
「警察も、結構気を遣っているんだな」
と、発見者の二人がこれを知ると、そう思うかも知れない。
そんな状態で、
「第一発見者が二人だった」
というのは、何かあるのかも知れない。
しかし、それは、捜査本部では、その時はあまり気にすることではなかったが、鑑識がもたらした情報から、何か胸騒ぎが起こるような気がしてきたのだった。
鑑識が情報をもたらしたのは、その死体の発見の翌日の昼前くらいであった。
捜査本部では、ちょうど、初動捜査の報告と、付近の聞き込みの第一段階くらいを終えてからのことだったのだ。
付近の聞き込みといっても、
「死体が腐乱死体」
ということでは、
「少なくとも、半年くらいは経っているだろう」
ということで、聞き込みにいっても、ピンポイントで聞くわけにもいかない。
大体の死亡推定の日時が分かったとしても、そんな古いことを誰が覚えているというのか? 分かったものではない。
そういう意味で、
「この事件は最初から難しい」
ということは分かっていた。
ただ、その考えが、鑑識の報告で、少し変わってきた。
というのは、
鑑識の報告として、最初は、形式的な話がされたのだが、
「死体は大体、死後半年前後と思われます。そして、死体ですが、どうやら、一度内府で刺されてから、首を絞められたというのが正解ではないかと思います」
というと、
「その根拠は?」
と本部長が聴くと、
「ナイフでえぐった角度は、肋骨の損傷具合で分かります、どうやら、それが致命傷ではなかったようで、そこで首を絞めたのではないかと思うんです。もちろん、ここまで腐乱していると、確実だとは言えませんが」
というのであった。
「よし分かった」
と本部長はそういって考え込んでいたが、その横から副本部長が機転を利かせて、
「本部長は、先日の隣の署で起こった殺人事件を思い出しておられるのでは?」
というと、
「ああ、そうなんだ」
と本部長はいった。
その事件とは、
「最初に首を絞められて、その後ナイフで刺され、絶命した死体が発見された」
という事件であった。
その事件は、その場で発見されたもので、発生が今から4か月くらい前のことだった。もちろん白骨になっているわけではなかったのだ。
その二つの事件がいかに結びついてくるのかは、その後の事件の進展によることになるだろうが、そのキーになるのが、
「一度では殺せなかったということなのか、二度も凶行に及んでいるということで、そこに、それだけの動機が含まれているのか?」
ということで、この事件が、
「凶悪犯によるものかどうか?」
ということになり、下手をすると、
「連続殺人となるのではないか?」
と思われた。
しかし、今のところは何も分かっていない。
「それぞれはまったく別の事件だ」
ということでしかない。
何しろ、
「こっちの事件は、今発覚したところだ」
ということだからだ。
それに、一番大きな違いというと、
「一つの事件は、穴に埋められていて、もう一つは、普通に発見された」
ということである。
これだけでも、
「二つの事件はまったく関係ない事件ではないか?」
といえるのではないだろうか。
それを考えると、
「これは、連続殺人事件ではなく。不連続殺害事件」
といってもいいのではないかと考えるのだ。
埋められていたということだけでも、
「殺人事件には変わりはないが、殺人者と、死体遺棄とが本当に同じ人間なのか?」
ということを、刑事の中には考える人がいるからだった。
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