第77話 氷の貴公子

 

 サクラ姫とアマンダさんの新たな武器を新調して、俺達『銀のカスタネット』のフルメンバーは、再び塔のダンジョンの66階層に挑む。


 そして、改めて思ったのだが、ナナミさんはやっぱりトンデモ無かった。


 66階層の強力な魔物を、その杖と思わせて、実は棍棒の十一文字金剛権蔵棍棒で、ぶっ飛ばしちゃうし。かと思えば、地面を捲って魔物達をスっ転ばしちゃうし、本当にハチャメチャ。


 俺達は、ナナミさんがぶっ飛ばしたり、ころばした魔物達を倒せば良いだけ。


 これ、絶対にナナミさんって、プラチナレベルだよね。

 戦い方は、ちょっとアレだけど。


 魔法もあんまり使ってないし、土魔法で地面を捲ってたと思ってたけど、もしかしたら、その怪力で捲ってるんじゃないかと思えてくるし……


 本当に、何で魔法使いの格好をしてるんだろう?


 もしかして、ただのファッションじゃないよね?

 しっかり、冒険者ギルドでは魔法使いと登録してるみたいだし。


 これで、魔法まで使いだしたら、本当にどうなるのだろう。


 本当に、ナナミさんは底が知れない。


 そして、順調に66階層を攻略していき、俺達は、ついに66階層のフロアーボス部屋に到着したのだった。


「ん? 先客が居るな」


 フロアーボス部屋の扉は、つっかい棒で扉が閉まらなくなっている。


 中を覗いて見ると、違う冒険者パーティーが、66階層のフロアーボスと戦っている所だった。


「ねえ! アレって有名人だよ!ほら! あの水色髪のサラサラヘアーの冒険者って、プラチナ級冒険者の氷剣のアレックスで間違いないよ!」


 アマンダさんが、騒ぎ出す。

 確かに、氷剣のアレックスという人だけ動きが1人だけ違う。

 でも、その他のメンバーが……


 氷剣のアレックスが団長を務める『氷の貴公子』は、所謂、ハーレムパーティー。団長のアレックス以外は、美少女で固められているのだ。

 まあ、全員、金級冒険者ではあるのだが、ハッキリ言うと、俺やナナミさんアマンダさん、それから銀級冒険者のサクラ姫より弱かったりする。


 まあ、『銀のカスタネット』の場合は、ナナミさんは実質プラチナ冒険者だし、俺とアマンダさんは、多分、金級上位。サクラ姫も実際は金級冒険者の実力なのだろう。


 実を言うと、金級冒険者って、1番実力差が激しい階級で、金級上位と金級下位の実力差は雲泥の差だったりするのだ。


 戦いを見てると、次々にハーレム要員の美少女金級冒険者達が脱落して行く。

 なんとか、フロアーボスであるキングリザードマンの取り巻きである、リザードマンメイジと、リザードマンウォリアーは倒したが、どうやらそこまでであったようだ。


 早々に、回復役の美少女冒険者が脱落してたので、氷剣のアレックスが、キングリザードの強烈な槍突きを腕に食らった所で、ゲームオーバー。


『氷の貴公子』一行は、逃げるようにフロアーボス部屋を飛び出て来たのであった。


「氷剣のアレックスさんですか?!」


 少しミーハーの所があるアマンダさんが、空気を読まずに、悲愴な顔をして飛びだして来た氷剣のアレックスに話し掛ける。


 すると、


「これはこれは、素敵なお嬢さん。こんな所で出逢うとは、運命の出逢いに間違いないです!

 今度、素敵なカフェを知ってますので、そこでお茶でもしませんか?」


 先程まで、悲愴な顔をしていたと言うのに、突然、イケメンスマイルを爆発させて、アマンダさんをナンパして来たのであった。


「えっと……それはちょっと……後ろのお姉さん方が、とても怖い顔をしてらっしゃるので……」


 アマンダさんは、丁重に氷剣のアレックスの誘いを断る。

 だって、氷剣のアレックスのパーティーメンバーの女の人達、目の睨みだけで、アマンダさんを殺す勢いだし。


「そうですか。それは残念」


 以外にも、氷剣のアレックスは、簡単に引き下がった。

 それより、パーティーメンバーの怪我の度合いが深刻だったのだ。

 氷剣のアレックス自身も、利き腕を槍で突かれて、もう、戦えそうもなさそうだし。

 多分、フロアーボス部屋を出ても傷を治そうとしないのは、既に、フロアーボス戦で、回復アイテムが底をついてしまってるに違いない。


「あの? ダンジョンの外に帰れそうですか?」


 俺は、とても気になってしまったので、一応、聞いてみる。


「ちょっと無理そうですね……回復アイテムも底を尽いてますし、見てのように、回復役も瀕死の状態ですので……

 もし、宜しければ、回復アイテムや回復魔法を、うちの回復役に掛けてくれれば有り難いのですけど……流石に無理ですよね……

 あなた方も、ここまで来るのに苦労したと思いますし、これからフロアーボス戦に挑む訳ですから、回復アイテムも、MPを使うのも嫌ですもんね……」


 なんか知らんが、ハーレムパーティーの団長なので、イケ好かない奴だと思ってたのだが、氷剣のアレックスは、思いの他、常識人であるようだった。


「いいですよ。回復役だけと言わず、全員回復して上げましょう」


 俺は、良い人には優しく接する人間。


 氷剣のアレックスが、ウチの長男カークみたいにクズ野郎なら、絶対に助けようと思わないが、良い人なら別なのだ。

 それに、俺にとって、『癒し手』スキルを使うのは、レベル上げと一緒だからね。


 まあ、そんな事より、俺は気付いてしまったのだ。

『氷の貴公子』の回復役は、よく見たら、俺の手相占いのお得意様だった事に。


 俺は、金払いの良い、回復役の女の子によく、彼氏の事について相談されていたのだ。

 彼氏さんは、とても女の子にモテて大変なんだけど、悪い人じゃないという話は、回復役の女の子に、これでもかと聞かされていたのである。


 それで、よく彼氏の事を相談されていたので、氷剣のアレックスの人となりを、あまりに良く知ってたのである。

 多分、俺は、氷剣のアレックスの事を、継母や何を考えてるのか全く分からないナナミさんより、良く知ってたりする。


 それに、上客のお客さんである回復役の女の子を死なせる訳にはいかないし。

 知ってる人が死んじゃうのは、目覚めが悪いしね。


 それが、お得意様なら特に。


 そして、俺は、早く治療しないと死んでしまいそうである、回復役の女の子を『握手』スキルの派生スキル『癒し手』の力で、治療して上げたのだ。


 俺が、包み込むように回復役の手を握ると、傷がミルミル回復し、そして、回復役の女の子は目を覚ましたのであった。


「ん……先生……?」


 回復役の女の子は、目を覚ますなり、俺の事に気付く。


「大丈夫ですか?」


 俺は、回復具合を確認する。


「えっと、致命傷の傷を負った筈なんだけど……」


「それは、アレックスさんに依頼されて、治しておきました」


「えっ?! でもここは塔のダンジョンの66階層で、手相占いの先生が来れるような場所じゃ……」


 回復役の女の子が、心底驚いている。

 まあ、回復役の女の子の手相占いをしてたのは、カスタネット準男爵領で手相占いしてた初期の頃なので、俺は、まだ冒険者をやってない頃だったのだ。


「リカさんが知らないのも、しょうがないですよね。最近、王都に出て冒険者を初めたんですよ。リカさんに手相占いをしてたのは、カスタネット領に居た頃ですからね!」


「えっ? だけど、最近冒険者を始めたばかりの人が、塔のダンジョンの66階層には普通来れないでしょ!」


 リカさんが、激しいツッコミを入れてくる。

 まあ、本当にそうだよね。


「僕は、仲間に恵まれてますから」


 リカさんは、俺のパーティーメンバーをチラっと確認する。


「狂戦士アマンダは、王都で有名だから知ってるけど、まだB級冒険者で、塔のダンジョンの66階層に来れる実力は無い筈じゃ……それに、子供が2人って……」


 リカさんは、余計に、頭がこんがらがってしまったようだ。

 無理もない。ナナミさんは相当強いのだけど、基本素材採取してかしてなかったし、王都でも知ってる人は知ってるという感じな人だったし。

 見た目も子供で、強さも全くひけらかしてなかったし。


 まあ、たまたまナナミさんの戦闘シーンを目撃した人は、みんなぶったまげると思うけど。


 俺達『銀のカスタネット』の評判は、まだ、こんなもの。

 王都では、結構、有名になったと思うが、王都から離れた街では、これぐらいの知名度なのだ。


 それなら、トランペット城塞都市でも、俺達の実力を知らしめるだけ。


 現在、俺達は、絶賛売り出し中なのである!

 サクラ姫の正体を明かす時が来た時、『銀のカスタネット』の経絡秘孔突き少女の正体が、実は、マール王国第2王女サクラ・フォン・マールだったと明かす時の為にね。


「まあ、見てて下さいよ。俺達の実力を。今から、フロアーボスを倒しちゃいますから!」


 俺は、何事もないように、リカさんと、氷剣の貴公子アレックス、それから、『氷の貴公子』のパーティーメンバーに言い放った。


『氷の貴公子』の人達に、俺達『銀のカスタネット』の物凄さを、トランペット城塞都市で宣伝して貰う為に。


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