第72話 昇格試験(1)

 

 俺達は、受付け嬢のお姉さんに連れられて、冒険者試験の会場に連れて来られた。


 お手頃な試験官も都合良く居たようで、すぐに試験が始められそうである。


「それでは、銀級の昇格試験を始めますね!サクラさん、準備はいい?

 まだ、サクラさんは若いから、昇格試験に落ちても次があるからね」


 なんか知らんが、受付け嬢のお姉さんは、サクラ姫が落ちる前提で話をしてる。

 無理も無い、まだ13歳になってなく、スキルも授かってない8歳の子供が、普通、銀級冒険者になれないし。


 しかも、ギルドに到着した時、血だらけだったからね。

 多分、サクラ姫は、魔物の解体や魔核の取り出しをやらさていたんだろうと、受付け嬢は推測したようである。


 全く、違うのだけど……


 サクラ姫は、その目の良さで、既に齢8歳児にして、戦う術を持った冒険者になっているのだ。


 しかも、経絡秘孔を突く、魔物を爆発させる技なんて、相当グロテスクだし、突然、魔物の頭が、グニャ! グニャ! グニャ! と不規則に膨らんだり、凹んだりしてから、突然、ヒデブー! だもん。

 サクラ姫が、試験官の冒険者に、経絡秘孔を突かない事を祈るしかない。


 だって、俺の『握手』スキルの派生スキル、『癒し手』でも治せるか分かんないし……


 てな感じで、サクラ姫の銀級昇格試験が始まった。


「お嬢ちゃん、銀級昇格は諦めて、今日は帰った方がいいぞ。

 俺の試験官の報酬は要らなから、今日のところは帰って、13歳になって女神様からスキルを授かったら、改めて、もう一度挑戦する方が良いと思うぞ」


 人の良さそうな試験官のオッサンが、サクラ姫に忠告してくれる。


「大丈夫なのです。私、強いですから」


 サクラ姫は、全く意に返していない。

 自分が弱いと思われる事を理解してるのだ。


 なんか知らんが、スッ! と立って、レイピアを顔の前に持ちポーズを取ってるし。

 本当に、血筋なのか、どうでも良い事が一々様になる女の子なのである。


「本当に、怪我しても知らないぞ?」


「大丈夫です。治療院に行くお金ぐらい持ってますので」


 俺的には、人の良さそうなオッサンの治療費の方が気になるのだけど。


 サクラ姫にレイピアで経絡秘孔突かれたら、ヒデブーするのに……


 絶対に、治療院では治せる訳無いし……

 そうなったら、俺が爆発した肉片をかき集めて、『癒し手』スキルで、治すしかないのである。治るか知らんけど。


 サクラ姫は、ずっとレイピアを顔の前に置いて、ポーズを取ったまま。

 どうやら、カウンターで決める腹積もりであるらしい。


「じゃあ、手加減するから、参ったするんだぞ」


 優し過ぎる冒険者のオッサンは、ゆっくり木刀を振りかぶり、サクラ姫に襲いかかる。

 もう、そんなに遅い動きじゃ、サクラ姫に好きな所を突いて下さいと言ってるようなものである。


 サクラ姫って、トンデモなく目が良いから、60階層の速い動きの魔物でも、ピンポイントで、経絡秘孔や魔核を突く幼女なのだ。


 銀級下位の冒険者のしかも、手加減した動きなのど、ハエが止まってるように見えるであろう。


 そんでもって、いつもなら、大体、一突きで決めるのだが、あまりに余裕が有り過ぎたのか、サクラ姫は、銀級下位のオッサンに向かって、有り得ない速さの連撃?連突きを喰らわしたのだ。


 ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!


 銀級下位のオッサンは、アナだらけ。

 もう、ヒデブーしないのを祈るしかない。


「エッ!? 何だ、体が勝手に動く」


 なんか知らんが、オッサンは冷や汗をかきながら動き出す。

 そして、突然、跪き、サクラ姫の前で土下座したのである。

 本当に、何が起こったのか分からない。

 サクラ姫は、オッサンがそういう動きをする経絡秘孔をレイピアで突いたのか?


 正に神業。


 そして、


「どうですか? 参りましたか?」


 サクラ姫は、土下座し続けてるオッサンに、優しく話かける。


「はい。参りました……」


 オッサンは、大量の冷や汗を流しながら、サクラ姫に参ったしたのであった。


「これで、私は銀級昇格ですよね?」


 サクラ姫は、試験の様子を見て居た、受付け嬢に尋ねる。


「エッ!? どうなったのか分かりませんけど、ワトソンさんが参りましたと言ったのなら、サクラさんは銀級冒険者に昇格した事になります……」


 受付け嬢も、何がなんだか分からなそうだが、取り敢えずは、サクラ姫は銀級冒険者に昇格出来たようである。


「それでは、自由にして差し上げますね」


 サクラ姫は、土下座してる冒険者の首筋を、レイピアの先で、チョコンと、突く。


 すると、


「エッ?! アレ? 体が動く!」


 心優しい冒険者のオッサンの体の自由が戻ったのだった。


「ワトソンさん。今日はありがとうございました」


 サクラ姫は、自由が戻ったワトソンさんに深々と頭を下げたのだった。


 本当に、サクラ姫は、良い子に育っている。

 言葉に気品が有るし、礼節まで弁えてるのだ。


 まあ、姉が正義の人クレア姫だから、心の芯の部分では似ているのだろう。


 こんな良い子が、本当に、将来、俺の奥さんになってくれるとか、本当に嬉しい限りだと思う。


 ーーー


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