第66話 継母の告白(2)
私は、物凄く後悔した。
私の自分勝手な行動のせいで、自分と同じようにトトに不遇なスキルを与える結果になってしまった事を。
私だって鬼ではないのだ。トトに対する虐めは、トトが家に居る間だけで、居なくなったら自由を与えてあげようと思ってたのだ。
トトは、きっと、13歳になると実の母親と同じように冒険者に役立つスキルを授かり、冒険者になるだろうと思ってた。
それなのに、私の下らない行いのせいで、未来ある、トトの将来を潰してしまったのだ。
私は、贖罪の気持ちで押し潰されそうになる。
何とかして上げたい。そして、トトに謝りたい。
貴族の子息子女が、不遇スキルを授かる事の意味を、身を持って知ってた筈なのに……自分のせいで息子が不幸になってしまうなんて……
私は、完全に思い違いをしてたのだ。
攻撃的スキルを持ってる夫と、才能ある冒険者だったトトの母親の子供なら、きっと凄いスキルを授かる筈だと。
そんな事も、恨めしく憎らしく思い、トトに辛く当たってしまっていたのだ。
それなのに、実際にトトが得られたスキルは、貴族子息では有り得ない『握手』スキル。
それも、私が馬鹿な事をしたせいで授かってしまったのだ。
そして、『握手』スキルを授かったトトは、早々にカスタネット準男爵に見限られてしまう。
夫であるカスタネット準男爵は、貴族らしい貴族。
騎士道精神を遵守し、貴族とは主である王様の戦争の招集を受けた時、すぐさま馳せ参じて、戦わないといけないと本気に思ってる人である。
それなのに、貴族でありながら、攻撃スキルを授からないという事は、主である王様の役に立たない事を意味するのだ。
ハッキリ言うと、私が大嫌いなスキル偏重主義者。
夫にとっても、私は貴族の嫁としては、失格の部類なのだろう。
なので、実をいうと夫は、トトに期待を寄せてたのかも知れない。
トトの母親は、実際、凄い冒険者らしいので、それもあって、夫はトトの母親を受け入れたのかもしれない。
もしかしたら、トトは凄いスキルを授かるのではと、絶対に期待してた筈なのだ。
それなのに、トトは『握手』スキルという、期待外れのスキルを授かってしまった。
夫の落胆も大きかったと思う。
それ以上に、トトの落胆も大きかった。
あれほど、努力家で何事においても、決して折れなかったトトが沈んでいるのだ。
もう、この世の終わり、人生の終わりのような顔をして。
多分、このまま家を出ずに、目的のない人生を送るのであろう。
本当に申し訳ない。
何とか、顔を前に向けて欲しい。
なんで、私は、トトに再び目標を与える事にしたのだ。
トトには、井戸掘りの才能がある。それに発想力と物作りの才能も。
確かに、物作り系のスキルを持ってる者には敵わないと思うが、それでも凄い才能なのだ。
それを気付かせる為に、私は、もう一度、トトに井戸を掘りなさいと、命令したのである。
最初は、私に言われて渋々、また井戸を掘り始めた。
イヤイヤだが、何もしないよりはマシだ。
それにより、自分の物作りの才能と、諦め無い心、そして、発想力に気付いてくれれば。
そして、暫く井戸掘りを続けていると、突然、井戸掘りをピタリと止め、街に出掛けるようになったのだ。
私は、やっとトトが、自分から何か新しい事をヤル気になったのだと思い、心から嬉しく思ったものである。
しかし、トトは、それだけでは終わらなかった。
トトという子は、やり出したら止まらない。
そんな事は、近くでずっと見てた私には分かる。
トトという子は、やり出したら決して諦めないし、やりきってしまう根性があるのだ。
使用人に話しを聞くと、なにやら街で手相占いをし始めたらしい。
多分、『握手』スキルを使って、人の名前を言い当てたりしているのだろう。
と、思っていたのだが、月日が経つにつれて、何だかトンデモない事となって行ったのである。
トトは、人の名前以外にも占いをトコトン当てて、しかも手荒れまで治す能力があるのだとか。
そして、カスタネット準男爵家の使用人にも、手相占いや手荒れを治してやったり、はたまたニキビだらけだった若い使用人のニキビを綺麗さっぱり治したり、どうやら思ってたよりトンデモない能力を得ていたようなのである。
そんな能力に目覚めたなんて、私は何故だか嬉しく感じしまう。
多分、私のスキルも貴族として役立たずのスキルだと思ってたであろう夫に対して、例え、貴族として役立たないスキルでも、トトは成功出来る事を示したのだ。
まあ、夫の場合、いくら市井で役に立てるスキルであっても、戦闘系のスキルしか認めないと思うけど。
そして、ついに、運命の日が起こってしまったのだ。
トトが、何処ぞの高位貴族に拐われてしまうという事件が……
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