第43話 30階層

 

「ここは……」


 気付いたら、ダンジョンの外?

 普通に空が広がってるし、目の前には森がある。

 ただ、普通と違う所は、足の下に魔法陣があり、目の前に古びた石造りの噴水?水飲み場みたいな設置物がある所。


「ここは30階層のセーフティーゾーン。この泉には、HP回復効果がある」


 元々、金級冒険者で、唯一、この場所まで何度も来た事があるであろうナナミさんが、淡々と説明してくれる。

 というか、だんだん、ナナミさんの性格が解ってきた。

 ナナミさんって、極度の恥ずかしがり屋なのだ。


 なので、必要以上な事は喋らないし、俺の事も名前で呼ばない。

 おっととトト君とか、我が主とか、茶化してしか呼べないのだと思われる。


「我が主、急ごう」


 ナナミさんが、俺の裾を引っ張って急かしてくる。


「ちょっと緊張するね……私も30階層は初めてだから」


 珍しく、アマンダさんも緊張してる。


「アマンダなら心配ない。この階層はそんなに強い魔物はいない。強いて言うなら、動物型の魔物が多いミノタウロスやコカトリスとか……」


「いやいやいやいや! それ、A級でも上位の魔物ですよね!私、B級の魔物しか倒した事ないんですけど!」


「大丈夫。ミノタウロスやコカトリスは、フロアーボス部屋にしか居ないから」


「そうですか……て、ミノタウロスやコカトリスがフロアーボスなら、絶対に避けて通れないじゃないですか!」


 アマンダさんが、前のめり気味にツッコミを入れる。


「大丈夫!ミノタウロスとコカトリスは私が倒す」


 ナナミさんは、自信満々に答える。

 それにしても大丈夫なのか?ちょっと、俺、ダンジョンを舐めてたのかもしれない。

 というか、もっと上層をフラフラするだけだと思ってたのに、イキナリ30階層とか、何か全てをすっ飛ばし過ぎのような……


 まあ、ミスリルって、高級素材だからそんなに簡単には手に入れれないと思ってたけど、これ程とは思わなかった。


「アマンダさんの、家紋入のビキニアーマーの為に頑張ろう!」


 何故か、サクラ姫はヤル気に漲っている。

 余っ程、カスタネット子爵家の家紋付きのビキニアーマーが見てみたいのだろう。


 てな感じで、30階層に慣れているナナミさんを先頭にして先に進む。


 ん?男の俺が先頭に立つべきじゃないかって?


 そんなの無理に決まってるでしょ!

 俺って、まだ、スライムとゴブリンしか倒した事ないのに、いきなり、ミノタウロスやコカトリスとか無理だから。

『握手』スキルの派生スキル。剣を握れば剣豪になれるスキルをもってしても、未知の魔物と戦うのは怖いのである。


「アッ、敵」


 前衛のナナミさんが反応する。


 俺達、なんか、いつの間にか狼型の魔物に囲まれてたようだ。

 というか、絶対絶命の気がする。だって、狼型の魔物が10匹以上居るし。サクラ姫を護りながら戦える気がしない。


 取り敢えず、俺達は、サクラ姫を囲むようにして陣形を組む事にした。


「アマンダ行けるか?」


「戦った事ない魔物だけど、頑張ってみる」


 これ、本当に大丈夫なのかよ?もっと上層部で肩慣らししてから、来てた方が良かったような。


「来る!」


 ナナミさんの声と同時に、狼型の魔物が襲い掛かってきた。


 バチコン!


 狼型の魔物が、ナナミさんの杖じゃなくて、棍棒で吹っ飛ばされる。

 相変わらず、ナナミさんの棍棒による破壊力は凄まじ過ぎる。


 アマンダさんも負けじに、狼型な魔物に対応する。

 というか、アマンダさんも凄まじかった。


「アレ?意外にいけるかも」


 かという俺も、スパン! スパン! スパン!難なく狼型の魔物をスライス出来てしまう。

 やはり、剣を握れば剣豪になれてしまうスキルは凄まじ過ぎる。


「凄い! 凄い!」


 少しだけ不安そうな顔をしてたサクラ姫なんて、もう元気になって応援してるし。


「思った通り、やっぱり『銀のカスタネット』は、強い」


 多分、いつも30階層以上で活動してるナナミさんは、最初から俺達がこれくらいやれるだろうとは予想してたのだろう。


「クックっクックックッ。これで、もっと良い素材を採取できて、お爺に喜んで貰える」


 なんか、突然、ナナミさんがニヒルに笑いだした。やはり、ナナミさんは恥ずかしがり屋では無かったのか?もしかして、淡々とした性格なだけ?良い素材を採取できるって、喜んでるし。


 基本、権蔵爺さんの店って、凄腕冒険者しか来ないから、良い素材の武器しか売ってないんだよね。


 そんな良い素材って、ダンジョンの下層でしかとれないから、上級冒険者であるナナミさんが、権蔵爺さんの店の素材採取を全て請け負ってるらしいし。


 でもって、俺達『銀のカスタネット』なら、更に下層に潜って良い素材を採取出来ると思ったのだろう。


 ナナミさんって、どうやらお爺さん子だから、権蔵爺さんに喜んで貰うのを至上の喜びと感じてるようだし。


 権蔵爺さんが、武蔵野国から国外追放された時も、権蔵爺さんが心配過ぎて付いて来ちゃったみたいだしね。


「おっととトト君。やはり君は、お爺と僕が認めた男だよ」


 やはり、ナナミさんは恥ずかしがり屋の僕っ子では、全然無かったようだ。

 強いて言うなら、欲望に忠実な、ただの天然娘?

 どう考えても、人の目など気にせず、我が道を突き進むタイプにしか見えないから。

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