第42話 マールダンジョン

 

 スパン!


 ズザン!


 ぱちこ~ん!


 俺達、『銀のカスタネット』によるスライム討伐は、順調。というか、もの凄く物足りない。ハッキリ言ってオーバーキル。


「これは、ちょっとな……」


「まあ、こうなるよね。トト君もナナミさんも金級だし、私も、本来、金級レベルだもんね!」


「そしたら、マールダンジョンに行こう。ちょうどお爺に、アマンダのビキニアーマーに使うミスリル鉱石を取って来てくれと、頼まれてた」


 ナナミさんが、突然、提案する。


「エッ! 私のビキニアーマーの素材?! なら絶対に行かなきゃ!納期が延びちゃうよ!」


「それは、ちょっと……」


 俺とサクラ姫は、王様には王都の外に出ても良いが、ダンジョンに入る事を固く禁じられているのである。


「トト! 大丈夫だよ! これは家族の為に必要な行動なんだよ!

 お父さんだって、家族の為の行動なら、絶対に許してくれるよ!」


 サクラ姫は、一体、何を言ってるの?

 アマンダさんが家族……

 もう、『銀のカスタネット』のパーティーメンバーは、サクラ姫にとって家族になってしまってるみたい。


「だけれども、気付いてるのか?」


 俺は、冒険者に扮して付かず離れず付いて来てる、サクラ姫の護衛の人達を見やる。


「ああ。サクラちゃんの護衛の人達ね!まあ、サクラちゃんは、フルート侯爵家のお姫様だから護衛が付いてるのは当然よね!」


 どうやら、アマンダさんは最初から、サクラ姫の護衛が秘密裏について来てるのに気付いていたようだ。

 まあ、本当は、フルート侯爵家の護衛じゃなくて、王家の護衛なんだけど。


「撒けばいい」


 ナナミさんは、何事でもないように言う。

 というか、王家の護衛を撒いちゃ駄目でしょ!

 まあ、ナナミさんは、サクラ姫が王族だと知らないんだけど。


「だね!」


 アマンダさんも、だね!てっ、怒られるのは俺なのに。


「じゃあ」


 じゃあじゃないから!てか、何で、ナナミさん。杖じゃなくて、棍棒を地面に差したの?!


「ふんぬ!」


 土魔法か何かを使うのかと思ったのだけど、まさかの力技。テコの原理で地面を、まるでカーペットのように捲り揚げ、20メートル先から俺達の事を伺ってたサクラ姫の護衛を、地面ご、ひっくり返してしまった。


「どんな原理だよ!」


「フフフフフ。魔法と物理の力技」


 どうやら、少しは魔法を使ってたようである。だけれども、物理の力技の割合の方が多そう。


「トト! 早く!」


 なんか、サクラ姫が俺の手を握る。

 まあ、手を握られ頼られちゃったら、やるしかないよね。


 俺は、サクラ姫を引き上げお姫様抱っこをし、そのままマールダンジョンに向けて走ったのだった。


「撒いたな」


「だね!」


 アマンダさんが返事をする。


「あそこがマールダンジョン」


 ナナミさんが、杖じゃなくて、棍棒でマールダンジョンを指す。


「じゃあ、もう近くだから歩けるよな」


 俺は、サクラ姫を下ろそうとするが、


「ヤダー! ずっと抱っこしてー!!」


 サクラ姫が甘えている。


「お前な。これから危険が伴うダンジョンに行くんだぞ!

 俺の手が塞がってたら、お前を守れないだろうが!」


「お……お前……トトに、お前呼ばわりされた!嬉しいよぉ~」


 なんか、サクラ姫に変なスイッチが入ってしまった。

 お前呼ばわりされて、嬉しがるお姫様なんて……


「あ~いいな~私も妾なんだから、お前呼ばわりされたいよ~」


 アマンダさんも、おかしな事を言っている。


「僕も、お前って、乱暴に呼ばれたい……」


 ナナミさんまで……


「兎に角、サクラは自分の足で歩けよ!俺も自分の手が塞がってたら、お前を守れないんだからな!」


「は~い!」


 本当に分かってるんだろうか……

 ちょっとダンジョンを舐めすぎ。

 俺的には、将来、世界中を旅する予定だから、サクラ姫には、自分自身を守れるぐらい強さを持って欲しい。


 なので、これからはサクラ姫に厳しく接していくのだ。


 そんな事を思いつつ、俺達『銀のカスタネット』は、マールダンジョンの前に立つ。


 マールダンジョンは、土地が隆起した小高い丘の絶壁部分に入口があり、高さ3メートル、横幅3メートルぐらいの入口には、魔物が溢れて出てこないように鋼鉄の扉が設置されていて、冒険者ギルドが管理している。


 そして、マールダンジョンの入口の辺りには、色んな屋台がたくさん出ていて、冒険者達はそこで食事を取ったり、ダンジョン探索に必要な物資を補給したり、逆にダンジョンで手に入れた素材やら、お宝を買い取ってくれる出張買い取り店まであったりするようだ。


「トト! お祭りみたい!」


 サクラ姫は、嬉しそうに色んな店を見て回ってるし。まあ、お姫様なので、普通、こんな冒険者ばかりの雑多な所には来ないか。


「確かに、活気があるな!」


「これがいつもの状態」


「そうだよ!いつもこんな感じ!そのうち、これが日常になるからね!」


 ナナミさんと、アマンダさんはいつもの光景を見てるだけだから、サクラ姫みたいに騒いでいない。


 ん?俺?


 俺は、サクラ姫と一緒になって、少し高揚してたりする。

 まあ、初めてのダンジョンだから、しょうが無いよね!


「おっととトト君。そろそろ行こう。じゃなければ、今日中にミスリルを採取して帰れなくなる」


 ナナミさんが、俺の服の袖を、後ろから摘み話し掛けてきた。


 うん。今日中に帰れなければ、確かに不味い。

 既に、サクラ姫の護衛を撒いてきてるのだ。

 これ以上の自由過ぎる行動には、流石の王様もブチ切れると思うし。


「あの……それより、ナナミさん。おっととトト君は、止めて下さいと、言った筈なんだけど……」


「じゃあ、我が主……行こう」


 なんかナナミさんは、どうしても俺を変な呼び名で呼びたいらしい。

 まあ、いいんだけどね。ナナミさんは、俺より相当、歳上だというし。歳上だからお子様の俺をからかっているのだろう。


 そんな感じで、俺達はマールダンジョンの扉をくぐる。


 マールダンジョンの一階層は、石造りで出来た神殿のよう。

 所々に、彫刻が彫られていて、何だか幻想的。出てくる魔物は、スライムやゴブリンやホーンラビットとかで、俺達の敵ではない。


 ナナミさんとアマンダさんは、結構広くて迷路のような1階層の地図が頭に入ってるようで、ズンズン進んで行き2階層に下りる為の階段があるフロアーボスがいる部屋に到着する。


「あれ?ここってボス部屋だよね?何でフロアーボス居ないの?」


 俺は疑問を口にする。

 知識として、ダンジョンの各階層の最奥には、フロアーボス部屋があって、フロアーボスを倒さなければ、先に進めないと知っていたのだ。


「ああ。それはいちいち冒険者が通る度にフロアーボス倒してたら面倒臭いでしょ!


 誰かが、フロアーボス部屋に入って、フロアーボスと対峙してたら、誰もフロアーボス部屋に誰も入れなくなっちゃうからね!


 なので、1階層のフロアーボスを、最初から冒険者ギルドの職員が殺しておいていて、尚且つ、フロアーボス部屋の扉をドアストッパーで止めて、フロアーボスが新たに湧かないようにしてるんだよ!」


 確かに、フロアーボス部屋だというのに、椅子や机などが置かれていて、普通に、冒険者ギルドの職員が5人くらい働いていてるし。


「そうなんだ……フロアーボスも世知辛いんだな……」


 そんな、たわいも無い話をしながら、2階層に続く階段を下りようとすると、


「おっととトト君! そっちじゃないよ。コッチの転移陣。これで一気に30階層まで下りる」


 ナナミさんが、後ろから俺の袖を引っ張って教えてくれる。

 それに、すかさず、アマンダさんが補足してくれる。


「一応、銀級冒険者は、10階層と20階層に続く転移陣。金級はそれ以外にも30階層と40階層に続く転移陣が使える規則になってるんだよ!」


「でも、アマンダさんは銀級だし、サクラに至っては銅級なんだけど?」


「まあ、その点は、所属するパーティーメンバー内に誰か金級が居れば30階層にも40階層にも行ける規則だから大丈夫なんだよね!

 うちの場合は、トト君とナナミさんが居るから、40階層までは魔法陣で、ビュン!と行けちゃう訳!」


「ミスリルが採取できるのは、32階層」


 言葉少なな、ナナミさんがボソっと言う。

 もしかして、ナナミさんって、恥ずかしがり屋なのか?

 俺の事を変な呼び名で呼ぶのも、俺の名前を直接呼ぶのが、恥ずかしいだけだからかもしれない。俺より、大分歳上なのに……


「トト君! 冒険者ギルドの職員に、金級の冒険者証明書を見せてあげて!そしたら、30階層に続く魔法陣を使わせてくれるから!」


 俺は、取り敢えず、アマンダさんに言われたように、ギルド職員に金級の証明書を見せる。


「確認しました。どうぞ」


 ギルド職員が魔法陣の場所まで案内してくれたので、俺達『銀のカスタネット』のメンバーは、魔法陣の上に乗る。


 そして、ナナミさんが杖じゃなくて、棍棒の柄を地面に付けて魔力を流すと、魔法陣が青白く輝き、そして、辺りの景色が、一辺した。


 ーーー


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