第37話 トト、晴れて金級冒険者になる

 

「ああ! 負けてしまった! 僕は君の顔に負けてしまったのだ~! ああ、悔しい!君の顔が好みに合いすぎて、恋の駆け引きに負けてしまったんだー! てな訳で、僕の負け。

 君は、晴れて、金級冒険者! 金級上位の僕がお墨付きを上げたんだから、実力も申し分ないよ!

 それに、お爺が認めた人物なんだから、間違いは絶対にないね!」


 なんか、よく分からいが、俺はナナミさんに勝った事になってしまい、晴れて金級冒険者になる事ができた。


 というか、お爺が認めた人物というのが、ちょっと引っ掛かる所。

 そのお爺は、人斬り殺人鬼に、自分が打った国宝級の刀をタダで上げてしまい、国外追放されるような人だし。


 でもって、


「トトさん! 凄いですよ! トトさんは王都冒険者ギルド史上、銅級のクエストも銀級のクエストも、一度も受けずに、初めて金級冒険者になった冒険者と認定されました!

 これは、物凄い快挙です!」


 受付カウンターに行くと、金級の冒険者証明書を授与され、受け付け嬢に物凄く褒められてしてしまう。


「本当かよ! あの占い師、『狂戦士アマンダ』と、『棍棒ぶっ叩き魔法使いナナミ』に勝って銀級と金級になったのかよ!

 今迄、冒険者試験で、誰も合格させなかったあの2人を倒して金級になったって、これは本当に快挙だぜ!」


「だな!あの2人だけは、誰もが絶対に避ける試験官なのに」


 冒険者ギルドに居た冒険者達も、ワイワイ騒いでる。


 そんな喧騒を余所に、俺は、冒険者カウンターに500枚の金貨を、ド~ン!と、置く。


「これで、引き続き、プラチナ試験を受けさせてくれ!」


「「オォォォーー!!」」


 これには、冒険者ギルドに居た者全員が、驚きの声を上げる。

 まあ、俺が500万マールを持ってた事も凄いと思ったと思うけど、プラチナの冒険者試験を受ける者が現れる事自体が珍しい事なのだ。


「トト様、すみません。王都冒険者ギルドにも2人、プラチナ冒険者が所属してるのですけど、生憎、2人とも長期クエストに出てまして、暫くは王都に戻って来ないのですよ……」


「嘘だろ……」


 俺は、物凄くショックを受ける。今迄、余りに上手くいってたもんだから、今日中にプラチナ冒険者になって、明日には王様に会いに行って、『プラチナ冒険者になったから、もう、王都の外でクエスト受けてもいいよね!』て、掛け合う予定だったのに。


 まあ、駄目だと言われたら、サクラ姫の病気を治す為に、女神が住まう天空庭園に咲く、『名も無き花』の朝露から作られた『女神のエリクサー』を探す旅に出掛けると言おうと思ってたのだけど……


 俺の予定が、完全に崩れてしまった……

 だけれども、俺は金級冒険者!


 パーティーメンバーには、銀級だけど、バーサーカー化すれば実質金級のアマンダさんも居るし、今さっき、金級上位のナナミさんも加わったのだ!


 このメンバーなら、王都の外に出てもサクラ姫を守りきれるし、危ないダンジョンにさえ行かなければ、大丈夫な気もする!


 てな訳で、一応、王様に聞きに行ったら、あっさり、王都の外に出ても良いと言われてしまった。

 但し、絶対に王都の外に出たら、その日のうちに帰ってくる事を約束させられて。


「やったぜ! 」


 俺は嬉しくて小躍りしてしまう。

 俺は、これでやっと冒険者らしく活躍出来る。


 まあ、強くなれば、王様も少しづつ自由を認めてくれる事が分かったし。これは大きな一歩である。基本、王様はサクラ姫に甘い。

 最初は渋ってたけど、サクラ姫が『お父さんの意地悪!』とか、言ったら、あっさり認めてくれた。


 そんな訳で、王様からOKも貰ったので、早速、アマンダさんとナナミさんを誘って、やっとこさ王都の外のクエスト受けに行こうとした所で、フルート侯爵の使いから連絡が来たのだ。


 カスタネット準男爵領から、兄貴で次男のニコルを王都に無事連れて来て、マール王立学園の学園長の家に送り届けたという連絡を。


 なんか、すっかり忘れていたが、そういえば、次男のニコルをマール王立学園に入学させてあげようと画策してたんだった。


 これは、色々説明しに、ニコル兄に会いにいかなきゃ!

 絶対に戸惑ってると思うし、何で、学園長の家に居候する羽目になってるのか分かんないと思うし。


 そんな訳で、今日は、冒険者ギルドに行くのは止めて、マール王立学園の学園長であるサクラ姫の叔母様の家に行く事にしたのだ。


「ここが、学園長の家?」


 サクラ姫と一緒に来たのだが、やっぱりというか物凄く大きくて立派な御屋敷だった。

 まあ、王妃様のお姉さんの家だから、当然といえば、当然なんだけと。


 まあ、こんな所にいきなり連れて来られたら、俺だったら緊張でコチンコチンに固まってしまう。


 俺達が屋敷に到着すると、勝手に門が開く。

 多分、いつも隠れてこそこそとサクラ姫の護衛してくれてる人達が先回りして、連絡を入れてくれていたのであろう。


 そして、すぐに筆頭執事だというセバスチャンさんが出て来て、俺達を、ニコル兄が居るという応接間に案内してくれた。


「トト~!」


 応接間のフカフカのソファーに、1人ポツンと座ってたニコル兄は、俺を見つけると涙目で俺に駆け寄ってきた。


「良かったな! ニコル兄! マール王立学園に通えるぞ!」


「それは実家に説明に来てくれたフルート侯爵家の人に聞いたけど、何でマール王立学園の寮じゃなくて、俺は、こんな御屋敷に住む事になってるんだよ~」


 もう、ニコル兄は、涙目を通り越して泣いている。

 そりゃあ、こんな豪華な御屋敷に、1人ポツンと待ってたら、不安にもなるよね。


 話によると、学園長は、マール王立学園で勤務中の時間だし。詳しい事を説明してくれる筈の人が不在の為、何も分からず、ずっと豪華なお茶菓子とお茶を見つめて、過ごしてたっぽいし。


「まあ、色々あってね!」


 俺は、ニコル兄の不安を払拭する為に、明るく答える。


「色々じゃ、全く分かんないよ! トトの『握手』スキルは、実はトンデモないスキルだったとかで、フルート侯爵家に養子になったとは聞いてたけど、ここに着いたら、もう、フルート侯爵家から独立して、子爵になったとか、サクラ姫様の護衛騎士になったとか、全く頭が追い付かない状況なんだけど!」


 まあ、それはそうだ。

 俺だって、ニコル兄の立場だったら頭が追い付かない。


「そうだよね。俺もよく分かんないけど、気付いてたら、こうなってた!

 兎に角、良かったじゃん! 念願のマール王立学園に通える事になって!」


「まあ、それはそうなんだけど、何で学園の寮じゃなくて、こんな御屋敷に俺は連れてこられたんだ?」


 ニコル兄は、不安そうに質問してくる。

 まあ、普通、マール王立学園に入学するってなったら、地方の貴族は寮に入るのが普通だしね。


「まあ、それは、マール王立学園って、編入で入るのって、めちゃんこ難しいらしいんだよね。

 よっぽどレアなスキルを持ってたり、物凄~く優秀じゃなければ編入できないんだってさ!

 なので、ニコル兄には、この家、マール王立学園の学園長の家で、暫く猛勉強してもらって、編入試験を好成績で突破してもらわないといけないんだ。

 しかも、マール兄の専属家庭教師は、マール王立学園の学園長ってオマケ付きな!」


「嘘だろ!ここって、マール王立学園の学園長の家で、その学園長が、俺の専属家庭教師だって?!」


 ニコル兄が、あまりにビックリし、その場で腰を抜かして、へたりこんでしまったのは、まあ、仕方が無い話だよね。


 ーーー


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