第36話 金級冒険者試験

 

 そして、ついにトトの金級昇格試験が始まった。


 小さな女の子に攻撃を仕掛けるのは、何だかイケナイ事をするような気がして気が引けるがしょうがない。

 これは試験だし、実際、ナナミさんは俺より、相当歳上だという事だし。


 一応、年齢を聴いてみたのだが、女の子に年齢を聞くのは野暮とか言われてはぐらかせられた。


 仕方が無いので、俺は、刀をスラリと抜く。

 じゃないと、俺って、めちゃんこ弱いからね。

 俺が強くなるのって、何かを握ってる時、限定で強くなるのだ。

 いきなり、魔法攻撃なんか受けたら、多分、何も持って無かったら受止めれないと思うし。


 俺の見立て通りなら、剣を握ると剣豪になれる派生スキルなら、普通に、剣で魔法を弾く事が可能だと思うのだ。


 だって、凄腕の剣士は、剣で魔法を弾き返す事が出来ると聞いた事あるからね!


 しかも、持ってる刀も元 武蔵野国三賢人が1人、坂田権蔵が打った十一文字権蔵だし、魔法を弾けない筈ないのである。


「ムッ! その刀は、もしや十一文字権蔵なのでは?」


 俺の刀を打った坂田権蔵さんと同じ種族のドワーフ族だからか、ナナミさんは、すぐに俺の持つ刀が、十一文字権蔵だという事に気付いたようだ。


「ふっ! 気付いてしまいましたか! だとすれば俺が十一文字権蔵を持ってる理由が分かりますよね?

 俺は、元 武蔵野国三賢人が一人、坂田権蔵に認められ人間であるという事を!」


 俺は、自信満々に言い放つ。

 ナナミさんは、俺よりかなり歳上だという事なので、しっかり敬語も使ってね。


「フフフフフ。成程、君がお爺に認められ人だったという訳か! ならば、僕も最初から本気で勝負するしかないよね!」


 お爺?まさか、坂田権蔵さんが、本当にお爺さん。

 まあ、マール王国の王都って、そんなにドワーフが住んでないから、同じドワーフ同士で仲良くなって、坂田権蔵さんの事を勝手にお爺と呼んでるだけかもしれないけど。


 まあ、それは置いといて、ナナミさんが本気になったのは分かる。体に闘気を漲らせてるのが分かるし。


 因みに、闘気とは達人だけが発せられる気の一種。

 俺も、刀を持ってなければ、相手が闘気を発してるかどうか全く見えないのだけど、今の、刀を握ってる俺には、ハッキリとナナミさんが、闘気を発してる事が分かるのだ。


「じゃあ、行くよ!」


 本職魔法使いの癖に、ナナミさんは杖を振り上げ、襲いかかってくる。その杖は、もう杖というより殆ど棍棒。

 だけれども、俺の持ってる得物は、大業物の十一文字権蔵!木で出来た棍棒など、俺の持つ十一文字権蔵にかかれば、真っ二つなんだよ!


 そう思って、ナナミさんが繰り出す棍棒を、十一文字権蔵で受け取めたのだが、


 カキ~ン!


 どう考えても、棍棒と刀が当たった音ではない、金属音が鳴り響く。


「エッ! 何でだ?!」


 俺は、有り得ない状況にビックリ仰天驚いてしまう。


「ふふふふふ。この杖は、お爺が、鍛えた十一文字金剛権蔵棍棒! その辺の有象無象が使ってるような、ただの棍棒ではないのだよ!」


 なんか、杖ぽい形だったけど、どうやら正真正銘の棍棒だったようだ。しかも、どうやら作者は、俺の十一文字権蔵と同じ、元 武蔵野国三賢人が一人、坂田権蔵作。


 という事は、このドワーフの少女も、坂田権蔵によって認められた戦士という事で間違いないのかもしれない。


「やるな!」


 俺は、上から目線で言い放つ。


「君もね。流石は、お爺が認めただけの事はあるよ! だけれども、まだ僕には到底及ばないね!」


 そういうと、ナナミさんはラッシュを掛けてくる。

 その一撃は、見た目お子様からは想像もできないくらい重い、全てが必殺の一撃。


 だけれども、俺も、なんとか受け止める事が出来る。

 感じとしては互角?まあ、互角なら、俺の方がやはり分がある。

 だって、剣を握ってる俺は、『握手』スキルの派生スキルが発生して、決して疲れないのだ!


 長期戦になったら、必ず勝つ自信があったりする。

 ナナミさんも、これほど力強い必殺の一撃を放ち続けるのは無理だと思うし。


 とか、思ってたら、ナナミさんは棍棒での攻撃を止めて、俺との距離をとる。


「ちょっとだけ、お爺が認めた腕を確かめてみたくて打ち合ってみたけど。まあ、合格ライン。そして、ここからが本番。僕は、魔法使いが本職!」


 そういうと、ナナミさんは杖じゃなくて、棍棒からファイアーボールを放ってきた。


「そんな攻撃効くかよ!」


 俺は、刀でファイアーボールを叩き斬る。

 まあ、斬れるとは思ってたけど、魔法が斬れて、本当に良かった。

 デカい口叩いてたのに斬れなかったら、本当に恥ずかしかったし。


「フフフフフ。じゃあ、刀じゃ斬れない魔法を使ってあげるよ!」


「俺の十一文字権蔵に、斬れぬ魔法など無い!」


 ファイアーボールを叩き斬った俺は、この時、本当に調子に乗ってたのだ。

 まさか本当に、そんな単純な魔法が俺に効くとは思って無かったし。


「それじゃあ行くよ! スリープ!!」


 ナナミさんは、俺に、棍棒を向けて基本的な魔法であるスリープの魔法を放った。


「そんな単純な魔法効くかよ……て、アッ……眠い……」


 ガクッ!


「トトーー!!」


 俺は、サクラ姫の悲愴な叫び声を聞こえた後、試験中だというのに物凄く眠くなってしまい、そのまま意識を失ってしまったのだった。



 ーーー


「トトに触るなーー!!」


 俺は、サクラ姫の悲鳴とも取れる叫び声と共に、目を覚ます。


「ここは……」


 俺の目の前には、幼い見た目のナナミさんの顔があり、俺の顔をマジマジ観察していたようであった。


「君が、僕の魔法で眠ってしまったようなので、このように僕の膝枕を使わせてあげてたんだよ。なんてったって、君はお爺に認められた人間だからね」


 ナナミさんが、まだ、俺の顔をジーと見ながら淡々と話す。


「そ……そうなんですか……」


「君、聞いた話だと、冒険者パーティーを結成したんだよね。その冒険者パーティに、僕も入れて貰おうと思って、こうやって、君が目覚めるのを待ってたという訳さ」


「ヤダー! トトを倒したアンタなんか、絶対に、『銀のカスタネット』に居れてやんないんだから!」


 サクラ姫は、ヤイヤイ言って暴れてるが、軽くナナミさんに片手で押さえ付けられて拘束されてるし。どんだけドワーフ族って力持ちなんだよ。


「僕、お爺に、早くひ孫の顔を見せろと五月蝿く言われてるんだよね。

 その癖、お爺が認めた相手以外、結婚は認めないとかいうもんだから、誰とも結婚は疎か、付き合う事も出来ないし。

 その点、君なら既にお爺に認められてるし、暫く、君の顔を観察してたんだけど、どうやら僕の好みにも合ってるからOKって事で!」


 ナナミさんが、あっけらかんと言うが、俺には、本当に、何を言ってるのか理解する事ができない。

 というか、好みの顔か調べる為に、じっと俺の顔を観察してたという事?


 だけれども、分かった事が一つだけある。


 ナナミさんが、俺に十一文字権蔵をくれた元 武蔵野国三賢人が一人、坂田権蔵さんの本物の孫だという事だけは。


 俺も、坂田権蔵さんに、タダで5000万マールもする刀を貰ってるので、ナナミさんの事を無下にも出来ないし。

 よく見ると、俺も、ナナミさんの事が好みのタイプだという事が分かった。


 だって、俺の下半身レーダーが、膝枕をされてモッコリしてしまってるし。


 もう、ここまで来たら、妾2号さん、3号さんが居てもいい気がしてきた。なんせ、俺って、爵位持ちの子爵様だし。


 俺は、もう自分が貴族である事を、完全に受け入れる事にしたのだ。


 だって、お貴族様なら、妾が2、3人居ても、全くおかしくない事だからね。

 貧乏準男爵の俺の親父だって、俺の母親である妾を持ってた訳だし!


 俺の仕事は、本妻になるであろうサクラ姫と、今後、増えるであろう妾の仲を取り持つ事。


 俺は自分の父親であるカスタネット準男爵を反面教師として、本妻と妾が仲良くなるように、骨を折ろうと心に誓うのであった。

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