第34話 本妻と妻
「トトー! タオル持って来たよー!!」
アマンダさんと、婚約と冒険者パーティーを組まされる約束をさせられた後、今更ながら、サクラ姫が遅れてやってきた。
「あら、サクラちゃん。新しいお姉ちゃんですよ~」
アマンダさんは、もうノリノリ。もう、俺の奥さんにでもなったかのように、サクラ姫に対応する。
「私のお姉ちゃんは、クレアお姉ちゃんだけよ!」
「サクラちゃんには、お姉ちゃんもいるのね!そしたら、近いうちに挨拶に行かなきゃ!」
いやいやいや。王族に気軽に挨拶に行ったら駄目でしょ!
「エッ! クレアお姉ちゃんに……」
「そう。クレアお姉ちゃんって言うのね!」
流石に、サクラ姫も、クレア姫の事を口に出した事に、しまったと思ったのか、たじろいてしまった。
名前が、サクラとクレアときたら、この国の感の良い者なら、王族と分かってしまうと気付いたのだろう。
「えっと! 説明すると、アマンダさんと俺は冒険者パーティーを組む事が決定したから」
取り敢えず、取り繕う為に、俺は事と次第を端折って説明する。
なんて説明すれば分かんないし、アマンダさんのパンツを脱がしたから、婚約させられたなどとは言えないし。
というか、アマンダさんのパンツを脱がす羽目になったのは、そもそもサクラ姫のせいだった気が……
「なんで! 私という可愛い奥さんが居るのに、違う女とパーティーを組むなんて!」
サクラ姫は涙目。
「いいわよ! 私もトト君を別に独り占めしようとしてる訳じゃないし、サクラちゃんのような可愛い妹の為なら、トト君の2号さんでも良いわよ!
最初に、トト君に目をつけたのは、血の繋がりのない妹のサクラちゃんの訳だしね!
私は、トト君とも、サクラちゃんとも仲良くやっていきたいの!」
アマンダさんは、簡単に俺の2号さんになる事を受け入れた。
「まあ、それならいいかも。男たる者、奥さんの2、3人は養う甲斐性がなければならないと、お父様も言ってたし、それを受け入れる度量がなければ、私も、第一夫人の資格などないと思うもん!」
何故か、サクラ姫が無い胸を張って威厳見せつける。
多分、王族的感覚だと、王である家の主には第二夫人、第三夫人とかが居るのは当たり前という考えなのかもしれない。
「それじゃあ、早速、3人で住む家を借りに行きましょ!私の借りてる家に来てもいいけど、流石に、3人で住むのは手狭だしね!」
ん?何言ってんの?アマンダさん?3人で住む?って……
「エッ!? トトと一緒の部屋に住めるの!」
なんか知らんが、サクラ姫も色めき立つ。
自分がこの国のお姫様で、実家が、この王都で一番目立つ所にある大きな城という事を忘れてないかい?
マール城より良い物件など、この国に存在してないのだよ……
それより何もりも、俺とアマンダさんが、冒険者パーティーを組んだとしても、暫くは、俺も王都の外から出れないから一緒に行動出来ないのだけど。
一緒に行動できない前から、家だけ一緒とかおかしいだろ。
「それは却下な!サクラは実家暮らしだし、俺も現在、サクラの家に居候してるし!」
俺は、アマンダの意見を丁重に断る。
というか、絶対に無理だし。俺は良くても王様が許さないだろ。
「アレ? トト君って、確か、カスタネット準男爵家の三男じゃなかった?」
「ん?そうだけど」
「それなのに、何で妹さんであるサクラちゃんの実家が、王都にあって、居候してる訳?」
何故、アマンダさんが俺の出自を知ってるか知らないけど、俺は、どう言い訳すればいいか分かんなくなる。
だって、どう説明すればいいか、本当に分かんないんだもん!
「私はてっきり、妹さんのサクラちゃんもカスタネット領に住んでたと思ったのだけど?」
なんか、意外とアマンダさんは俺の事を調べている。本当に、なんと言い訳すればいいんだ……
「トトは、良いスキルを持ってたから、フルート侯爵家に養子に行ったのよ。そして、フルート侯爵の娘である私とは兄妹になったの。そして、フルート侯爵がもってた爵位の一つである子爵を継いで、今のトトは、カスタネット子爵となってるの。私はそんなカスタネット子爵であるトトの婚約者なの!」
何、その設定?!
「エッ!? 何?貴族社会の難しい事は分かんないけど、トト君って正真正銘のお貴族様だったの?私は、てっきり家を継げない三男だと思ってたのに……それに、サクラちゃんって、侯爵家のお姫様だったの?!」
アマンダさんも、ビックリ仰天驚いてる。
まあ、俺の方が驚いてるけど。
サクラ姫のあまりに完璧過ぎる説明に。
俺が、フルート侯爵の養子になったのは本当の事。そして、フルート侯爵が所持してた子爵の爵位を俺に譲ったというのは、嘘か本当か分からない。
高位貴族は、自分が
嫁いできた奥さんの実家が何かの理由で途絶えた時とか、その爵位をそのまま引き継いだりとかね。
そして、家を継げない次男、三男に、そんな持ってる別の爵位を継がせるなんて事も結構あったりするのだ。
実をいうと、俺もそんな感じで爵位を譲って貰ったのかもしれない。
まあ、詳しい事はよく分かんないのだけど。
兎に角、王様が上手い事やって、俺に爵位を与えた事だけは確かな事。
そんでもって、サクラ姫はフルート侯爵の娘という設定にする事で、俺とサクラ姫の兄妹設定を完璧なものとし、しかも、俺とサクラ姫が将来結婚する事で、カスタネット準男爵家とフルート侯爵家は、完璧な血縁関係になるという訳だ。
まあ、全ては設定の話なんだけど。
嘘と本当を、上手くミックスして完璧な設定として成立してるし。
「という訳だ! だから俺とサクラは、アマンダと一緒には住めないんだ!」
もう、これだけ完璧な設定なら、俺も乗るしかないっしょ!
「なるほど、分かったわ。私はトト君の妾って事になるのね! 私、トト君に尽くすから、決して捨てないでね!」
本当に分かったのか? アマンダさん。何だか嬉しそうだし。俺が正真正銘な貴族だった事が嬉しかったのか?
貴族の妾って、そんなに良いものなのだろうか……
俺の母親もカスタネット準男爵の妾だったけど、幸せな人生など送ってないと思うし。
まあ、俺が物心つく前に蒸発して消えちゃったから、母親の本心なんて分からいんだけど。
兎に角、将来、サクラ姫が俺の本妻になり、アマンダが妾になるという事は、完全に決まってしまったようである。
本人達が受け入れちゃってるからね。まあ、サクラ姫がカスタネット準男爵家の継母みたいに、妾であるアマンダを虐めないでくれるといいのだけど。
俺は、ただ祈るしかない。俺のような不幸な子供が産まれないように。サクラ姫と、アマンダが仲良くやって欲しいと、心から祈るしかないのだ。
俺は、結婚する前から、本妻、妾問題に直面して、勝手に、神経をすり減らすのであった。
ーーー
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