第24話 スライムの生き〆殺し

 

 俺とサクラ姫は、銅級に上がる為に必要な、鉄級クエスト30回を軽く成し遂げ、晴れて銅級試験を受ける事となった。


 会場は、冒険者ギルドの屋上訓練所。

 俺とサクラ姫の他に、数十名の受験者がいる。


 冒険者になる者は、大体、攻撃的スキルを授かった者や、魔法スキルを授かった者。それから冒険者に役立つスキルが授かった者達が殆ど。

 中には、攻撃的なスキルを持ってないのに冒険者になる者達も居るが、それはまあ、お金に余裕が無い家に生まれた者や、孤児やら様々な理由があるようだ。


 そんな何も持たない者達は、直ぐに死んでしまったり、危険でない仕事を受けて、なんとか生計を立てるしかない。


 まあ、俺には怖くて出来なかった事だ。

 俺が冒険者になりたかった理由は、冒険者になって、家を出て、世界を旅したかったから。

 世界を旅するのに魔物を満足に倒せなかったら、危なっかし過ぎるからね。


 そんな点でも、攻撃的なスキルを持ってないのに、冒険者になろうと志す者を、俺は密かに尊敬してたりする。


「ケッ! 臭い獣人がいるぜ! それに、まだスキルも授かってないガキンチョもいやがるのかよ! いつから冒険者ギルドは、動物と子供の保育所になったんだ!」


 いかにも、ボンボン貴族の三男坊といった感じの男がヤイヤイ言っている。


 まあ、獣人は攻撃的スキルを持ってなくても、元々の身体能力が高い場合があるので冒険者向きなのだが、ガキンチョというのは、サクラ姫も含めて、お金が稼げない孤児の子供達の事だろう。


 孤児の子達は、まだスキルを授かれない13歳前でも、お金を稼がないと生けていけないので、13歳前に冒険者に成る事が、多々あるのだ。


 冒険者になれば、身分が保証されるし、冒険者ギルドが受注した仕事もある。

 街の人々も、その辺の孤児には安くても仕事を頼まない。

 やはり、冒険者ギルドの後ろ盾があってこそ仕事を頼むのであって、信用ってのは、ヤッパリ大切なのである。


 それにしても、本当に、貴族上がりの冒険者って嫌な奴が多い。貴族上がりと言っても、家を継げなかった次男、三男ばかりなのだけど。


 て、俺も貴族の三男坊だったわ!


 でも、俺は決して、あのイケ好かない貴族のボンボンじゃない。どう見ても、今迄、何不自由なく暮らしてそうだし。装備も良い物を身に付けてるし。俺は、どう考えてもアイツとは違うのだ。


 て、俺って、5000万マールもする十一文字権蔵持ってた!あのイケ好かない貴族の三男坊より、良い装備持ってるし!


 とか、しょうもない、1人ノリツッコミ妄想をして時間を潰してたら、


「みんな揃ってるな! それじゃあ、今から銅級冒険者試験を始めるぞ!」


 試験官と思われる、ゴッツイ冒険者が来て号令をかける。


「試験は簡単だ! このスライムを倒せた者が銅級に上がれるぞ!」


 試験官が、これみよがしにオリの中に入ったスライムを、訓練所に開け放つ。


「ケッ! 今更、スライム退治かよ!こちとら、もう、ゴブリンだって倒してるんだぞ!」


 貴族の三男坊が、ブツブツ言いなが剣を抜く。


「コレは、街の外で依頼が出来るかどうかを見極める試験だ! まあ、鉄級のクエストにも、ゴブリン退治やスライム退治はあるが、子供達には、まだ荷が重いからな!

 なので、銅級に上がる試験は、街の外で魔物と遭遇した時の対処の仕方も兼ねている!

 スライム程度倒せなくては、銅級に上がる資格が無いという事だな!」


 どうやら、銅級に上がる試験は、まだマトモに戦った事のない子供達を護る為の試験だったようだ。

 孤児の子供達って、金を稼ぎたいから報酬が良いクエストを受けたがるもんね。


 確かに、魔物を倒した事もない、実力も何もない子供が、いきなり街の外に出たら魔物に殺される可能性が高い。

 なので、鉄級から銅級に上がる試験は、試験官が見てる前で、魔物を倒す訓練も兼ねているのだろう。


 銅級のクエストって、街の外でするクエストばかりだし、子供達には危険が伴うクエストばかりなのだ。


「フン! こんな試験、余裕だろ!」


 スパン!


 貴族の三男が、軽くスライムを叩き斬る


「よし! モブルートは合格だな! 合格者は、全ての受験者の試験が終わるまで、見学だ!

 人の戦いを見て得るものもあるのでな!」


 貴族の三男坊は、そうそうにスライムを倒して銅級試験合格。

 まあ、攻撃的なスキルを持ってたら当然だよね。


「チッ! 下らねー。チビ共、こんな簡単な試験、とっとと終わらしやがれ!」


 貴族の三男坊は、何故か、くだを巻いて憤っている。少しの時間も待てないなんて、本当に小さな人間だ。これだから、貴族の三男って奴は…… て、俺もか!


 てな訳で、3度目の妄想ノリツッコミを楽しんだ後、ついに俺とサクラ姫も動く事とする。


「サクラ姫、じゃなくて、サクラ行けるか?」


 俺は、人前なのに、思わずいつもの癖でサクラ姫と言ってしまう。


「大丈夫です! スライムなら子供の頃、狩った事があるのです!」


 何で、お姫様であるサクラ姫が、スライムを狩った事があるのか謎だが、出来るというなら問題ないか。


 サクラ姫は、訓練所に置いてあった子供用の木刀を持つと、そのままスライム目掛けて特攻し、スライムの核に向かって、寸分違わず、突きを食らわし、核だけが、まるでピンポン玉のようにスライムの身体の中から飛び出した。


「オッ! 嬢ちゃん、中々やるな! その歳で、スライムを生き〆で仕留めるとは!その道のプロでも、結構、失敗するスライムの倒し方だぞ!」


 試験官のオッサンが感心してる。

 スライムの生き〆とは、スライムの体を極力傷つけないように、一突きで、核のみを破壊しないようにスライムの体から弾き出す殺し方。


 核を破壊せずに、核だけをスライムの体から弾き出すようにスライムを殺すと、スライム自体は死んでしまってるのに、スライムの体だけは生きてると勘違いして、体が液体に崩壊せずに、そのまままプルンプルンの状態で殺す事ができるのだ。


 そして、そのプルンプルンの状態のスライムの死体は、結構需要があり、食用のゼリーになったり、はたまた人をダメにする枕になったり、スライムが何十匹も使われて作られたベッドなど、それこそ超高級品で数百万もする物もあったりするのだ。


「へへへへへ。昔、自分の枕を自分の手で作ろうと思って、スライムを狩る特訓したんだ」


 この子、何言ってるんだろう。

 普通、姫様は、自分の手で枕を作ろうとしないだろう。

 しかも、その為だけに特訓って、王族ってどんだけヒマ人なんだ。


 多分、お付の人を何人も引き連れてスライム狩りの練習をしたと思われるが、付き合わされたお付の人達も、何で姫様と一緒にスライムを追い掛け回してるか謎だったと思われる。


 本当に多分なんだが、お付の人が何匹もスライムを生け捕りにして、姫にひたすらスライムの核を、玉突きのように突かせたのだろう。


 これぞ、本当の姫プレイ。


 まあ、上手く纏められたので、今度は俺の番だな。


 俺は、満を持して、いけ好かない貴族の三男坊に見せつけるように、十一文字権蔵をスルリと抜いた。


「同じ貴族の三男坊でも、格の違いって奴を見せつけてやるぜ!装備も剣の腕も、俺の方が物凄いんだよ!」


 ずっと、変な妄想一人ノリツッコミしてたせいで、思わず、三男坊のモブルートをディスってしまった。


「お前、俺の事言ってんのか!」


 なんか、やはり三男坊だったのか?モブルートが反応した。


 ーーー


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