第22話 冒険者登録

 

「ええっと、俺、冒険者になろうと思って」


 俺は、顔見知りの冒険者のオッサンに聞かれたので、正直に答える。


「えっ? お前が冒険者?嘘だろ?お前、手相占いで、結構、儲けてるって聞いたぜ?今更、わざわざ、危ない冒険者なんかする必要ないだろ?」


 まあ、普通はそう思うよね。

 だけれども、俺は平民じゃない貴族の息子。

 攻撃的スキルを持つ事に憧れてたし、長男じゃないから、攻撃的スキルを得たら、家を出て冒険者になろうと、子供の頃から思ってたのだ。


 冒険者になる事だけが、虐げられてきた家から出る方法で、終焉なき井戸掘り地獄から抜け出せる方法だと思っていたのだ。


 そして、自由になって冒険者になったなら、世界を旅しよう。今迄、我慢してやれなかった事を全てやってやろう!と、思っていたのだ。


 なまじ、継母の果てしない嫌がらせに耐えていたので、その思いが、人一倍に強くなって行った。


「俺、実を言うと冒険者になる事が、夢だったんで!」


 俺は、顔見知りの冒険者に、胸を張って言う。


「他に、金儲けできる方法を持ってるのに、変わった奴もいるもんだな。まあ、考えは人それぞれ。取り敢えず、冒険者登録したいなら、アッチな!」


 顔見知りの冒険者は、冒険者カウンターを指差す。


 そこには、マール王国で、あまり見掛けない猫ミミのお姉さん。

 冒険者ギルドは、実力至上主義。強くで、出来る奴が正義。


 冒険者ギルドでは、この国では珍しい獣人も働いている。獣人でも、エルフでも、ドワーフでも、強ければ、誰にも差別されないのだ。勿論、貴族を継げなかった貴族の二男、三男でもね。


 冒険者になってしまえば、もう身分なんて関係ない。冒険者ランクだけが物を言う世界なのである。


 俺は、勿論、最上ランクのプラチナを目指してる。

 冒険者として名を上げて、俺を無能と見限った父親と継母に、俺の凄さを分からせてやりたいのだ。


 ここから、俺の冒険者としての第一歩が始まるのだと思うと、今更ながら緊張してくる。


「聞いてましたよ。冒険者登録ですよね?」


 猫耳の受付嬢が、聞いてくる。


「ああ。俺と、この子のな!」


「文字は書けますか?書けなかったら、代筆も致しますよ?」


「二人とも問題ない」


 俺とサクラ姫は、渡された冒険者登録に必要な用紙を埋めて行く。


 名前は、トト・カスタネットと、職業は、やっぱり剣豪だから、剣士だな。流石に、自分の事を剣豪とか恥ずかしくて書けないし。


 ん? 魔法の属性があれば書いて下さい?

 俺って癒し手の能力があるから、光属性と書いた方がいいのか?

 だけれども、俺の場合って、人の手を握らないと、癒し手の能力は発揮できないので、ちょっと、違うような……


「別に、書ける所だけ埋めてくれれば結構ですよ。冒険者になる人達って、スネに傷がある人達も結構いますから、全ては、冒険者になってからの実績で評価されます。

 勿論、冒険者になってから犯罪を犯したら、即、冒険者資格の剥奪。一生、冒険者にはなれませんから、注意して下さい!」


 なんか、犯罪者であったとしても、冒険者になれちゃうって事?

 だけれども、冒険者になってから犯罪を犯したら、冒険者資格の剥奪?

 誰にも、一度は門戸を開くけど、二度目は無いって事か?


 だけど、どうやって二度目は無いと分かるんだ?用紙に偽名を書いたら、また、簡単に冒険者になれるような気がするんだけど。


 サクラ姫なんて、堂々と偽名書いてるし。


 サクラ・カスタネットって……


「フフフフフ。私は、トトのお嫁さんだから、サクラ・カスタネットなの!」


 まあ、サクラ・フォン・マールって、本名書いたら、髪の色を変えてても、すぐ、王族とバレてしまうからしょうがないか……


「トト・カスタネットさんと、サクラ・カスタネットさん。ご兄妹なのですね?」


「違います!」


「そうです!」


 どうやら、サクラ姫は、嫁じゃなくても、兄妹の設定でも良いらしい。


「まあ、本名じゃなくても、別にいいので問題ないですよ。何度も言うように、冒険者になる人達って、スネに傷が1つや2つある人ばかりですから。しかし、何度も言うように、冒険者になってからは悪い事はしないように。一度、冒険者の資格を失ったら、決して、二度と冒険者にはなれませんから!」


 やはり、偽名を使っていいのに、二度目が無いという事が分からない。まあ、偽名を見破る何かがあるのは、確かだけど。


「それでは、初めの階級である鉄級の証明書です! これが身分証になってますから、何かクエストを受ける時とか、必ず提示して下さい。 それでは、ここに血を垂らして下さい」


 俺とサクラ姫は、なんかカウンターに置いてあったナイフを渡されて、指先を少しだけ切り、鉄で出来た身分証に血を垂らす。


「はい。これで冒険者ギルドにトトさんと、サクラさんの情報が登録されました。これで晴れて、二人は冒険者です! おめでとうございます!」


 なんか、あっさり、冒険者になれてしまった。

 多分、冒険者証明書に血を垂らした事により、ギルドは、冒険者を管理するのだろう。血紋とかいう奴か?これにより、犯罪を犯して、冒険者を追放された者は、血紋を照合して二度と冒険者に登録できないという事だろう。


 冒険者って、やっぱり厳しい世界だぜ。

 まあ、俺は、悪い事する気ないから良いのだけどね。

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