第18話 十一文字権蔵

 

 種類: 刀

 銘柄: 十一文字権蔵

 作者: 坂田 権蔵

 特徴: 斬れ味抜群。飛んでる蚊でさえ真っ二つ。人斬り御用達の骨まで斬り裂く名刀。

 価格: 5000万マール


「この刀、いいな……」


 俺は、鞘から刀を抜き、その惚れ惚れする刀身を見つめる。


 その刀身は、まるで板の模様のように見える板目肌。焼入れの時に入ったキラキラする地沸が付いている。鍛えには、乱映りが立ち、刃文は、直刃調に丁子及び互の目が交じり、刃中の働きは見事。


 全て、『握手』スキルで解った知識だけど、この刀が凄いという事は、握った感触だけで解ってしまう。

 多分、俺が新たに得た派生スキル、剣を握れば、剣豪になるスキルが働いているのだろう。


「トト! 格好いい!」


 なんか、俺が刀を持ってる姿が様になってたのか、サクラ姫が褒めてくる。


「そうか?」


 俺って、褒められると調子に乗っちゃうタイプなんだよね。というか、今迄、あまり褒められた事が無かったので、有頂天になって、色々と刀を持ってポーズを決めてたら、


「な……なんと……」


 奥の鍛冶場で、オリハルコンと鋼の合金の錬成をしてた筈の武器屋の親父が、手が空いたのか店の方に来ていたようだ。


 俺は、少しだけ焦ってしまう。だって、5000万もする刀を勝手に持って、ポーズを決めて遊んでた訳だから。


「ええと……あの……すいません!」


 俺は、急いで、刀を鞘にしまい、武器屋の親父に返す。


「返さんでもいい! お前さんが持ってけ!」


「エッ?」


「エッじゃない。その刀は、お前さんの刀だ。刀が、お前さんに使いたがってもらっておる。そんな光景を見れる事など、何十年も鍛冶師を続けていても、滅多にお目にかかるもんじゃない! じゃから、その刀はお前のものだ。ワシの打った最高傑作の1つ、大事に使っておくれよ!」


「エッ?ただでくれるんですか?」


 俺は、よく分からん展開過ぎて、思わず聞き返してしまう。


「ワシは、そう言ってる。この武蔵野国で、その人ありと言われた鍛冶師 坂田権蔵に、二言などない!」


 なんかよく分からんが、坂田権蔵さん、男前である。5000万マールもする高価な刀を、普通、ポンとくれるものじゃない。


「そうですか……それなら、有難く頂いておきます」


 俺は、坂田権蔵さんから、十一文字権蔵を受け取り、それから、坂田権蔵さんの事も詳しく知りたかったから、『ありがとうございます』と、握手して手を握ってみる。

 その手は厚く、マメだらけで、ステータスを見なくても、凄腕の職人だと感じられる。


 てな訳で、坂田権蔵さんのステータス。


 名前: 坂田権蔵

 種族: ドワーフ

 職業: 鍛冶師

 スキル: 刀心

 称号: 元 武蔵野国三賢人


 注釈: 気に入った剣士に自分が打った剣をあげてしまう習性がある。

 それだけなら、なんら問題無かったのだが、辻斬りが趣味の人斬りの犯罪者に自分が打った剣をあげてしまい、その人斬りが、その剣で大量虐殺してしまったせいで、責任を取らされ国を追われる。最終的に、マール王国の貧民街に辿り着いた。


 て、武蔵野国三賢人の1人って、俺でも知ってる有名人じゃん!


 たまに、メンバーは入れ替わるが、武蔵野国三賢人は、その時代、その時代の武蔵野国で優秀な刀鍛冶3人が選ばれる名誉職。


 そんな超有名人が、こんなマール王国の貧民街で燻ってたなんて信じられない。


 まあ、見た目は、ずんぐりむっくりした髭面の小汚い親父だから、誰も気付かないと思うけど。


「本当に頂いても宜しいのですか?これ、十一文字ですよね?」


 俺は、握手スキルで得てた情報を示してみる。


「ん?知ってたか?やはり、お前さん程の達人なら、十一文字一門の事を知っててもおかしくないな」


 本当は、全く知らなかったけど、全ては握手スキルのお陰なんだけど。ここは知ってた体で話す事とする。

 だって、刀の価値を知らないで貰ったと思われるのは嫌だったしね。俺は、違いが解る人間と思われたいのだ。


「まるで板の模様のように見える板目肌。焼入れの時に入ったキラキラする地沸が付いていて、鍛えには、乱映りが立ち、刃文は、直刃調に丁子及び互の目が交じり、刃中の働きは見事。銘は彫ってませんが、十一文字権蔵で間違えないと思います。ね?武蔵野国三賢人が一人、坂田権蔵さん?」


「ワシが、元 三賢人の一人と見抜いておったか。如何にも、ワシが元武蔵野国でその日と有りと言われておった元 武蔵野国三賢人が一人、坂田権蔵だ! で、ワシのこと知ってれば分かるだろ?ワシは気に入った者に自分の打った刀をあげてしまう癖がある。まあ、それで身を滅ぼしたんじゃがな……だが、ワシは、過去を後悔しておらん。あの刀は、間違いなくあの人斬りを欲していた。あんなベストマッチは、今日、お前さんと、その刀を見るまで皆無じゃった!ワシは、ワシの打った刀自身が使われたいと思う人物に、刀を使って貰いたいと思っておる。その点、お主は合格じゃ! 刀が泣いて喜んでおった!」


 刀の気持ちが解るとか、このオッサン、ヤバい……あっ……もしかしてオッサンが持ってた『刀心』のスキルのせいか?


 その『刀心』のスキルで見て、俺と、この十一文字権蔵がベストマッチと見抜いたと。


 というか、そもそも俺って今日初めて、刀を持ったんだよね。それなのにこんな初心者の俺を、業物の刀である十一文字権蔵が認めてしまうとか……


 俺の、剣を手に持つと剣豪になってしまうスキル……もう、ハンパねぇ~と、思うしかない。


 ーーー


 面白かったら、フォロー、☆☆☆押してね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る