第19話 騎士団
俺は、武蔵野国三賢人が一人、坂田権蔵さんから、5000万マールもする十一文字権蔵を貰ってウキウキが止まらない。
「はぁ~早く試し斬りしたい」
俺が、城へ帰る道すがら独り言を言ってると、
「トト! それなら騎士団の訓練所に行こ!訓練所なら、試し斬りするものとか有ると思うよ!」
城の事をよく知ってるサクラ姫が提案する。
「なるほど。確かに、騎士団の訓練所なら、試し斬りできそうな丸太とか、なんか有りそうだしな! そこでできれば、少し剣の訓練もしてみたいし!」
剣を握ると『握手』スキルの効果で、形の上では、剣豪になるという事なのだが、如何せん、俺は今日生まれて初めて剣を握ったのだ。
剣豪になったと言われても、まだ、ピン!と来ないし、本当に、剣豪になったのかも疑心暗鬼なのである。
てな訳で、俺はサクラ姫に案内されて騎士団の訓練所に来たのだが、
「なんか、アウェイ感がハンパないんだけど……」
「仕方が無いよ。みんな、私の騎士になる事を狙ってたんだから!」
サクラ姫が、無頓着に答える。
「何、それ?」
「王族は、15歳になる前に、自分の護衛騎士を決める風習があるの! 王族直属の騎士になる事は、騎士の名誉だし。誰もが憧れる栄誉職なの。王族の護衛騎士だけが、ミスリルの鎧を装備できるしね!」
サクラ姫が、端折って説明してくれる。
「そうなの?」
「そうだよ! だから、トトも格好良いミスリルの鎧が着れて、良かったよね」
「いやいやいや、そこじゃなくて、正直、ミスリルの鎧なんかお金さえあれば誰でも装備できるし、王族直属の護衛騎士って、そんなに人気がある職業だって所!
王族の護衛騎士って、良いところの身分が高い貴族の子息なんかがなる、形だけの閑職かなんかじゃなかったのか?」
俺は、王族の護衛騎士って、自分の子供を戦争などで怪我を負わせたくない上級貴族達が、コネかなんかを使ってさせるものだと思ってたのだ。
「違うよ! 騎士にとってミスリルの鎧が着れるのは、名誉な事なんだから!
みんなミスリルの鎧を着る為に、切磋琢磨して自分を鍛えてるんだよ!」
なんか知らんが、サクラ姫は、ミスリルの鎧を強調する。
確かに、フルメイルのミスリルの鎧になると、とんでもないお値段になると思うけど、それほど、装備したいものなのか?
まあ、目立ちたがり屋は装備したいと思うけど。
だけれども、王族の護衛騎士だぜ?
ずっと、王族に付きっきりで自分の自由も無くなっちゃうし、普通の騎士団に所属してる方がいいと思うけど。
俺なんか、サクラ姫の子守りだぜ。
まあ、俺の場合、王都内限定でやりたい事やらせて貰ってるけどね。
逆に、そんな自由な感じで、サクラ姫の騎士をしてる俺の事を、修練中の騎士達は許せないのか?
まあ、確かに、今の俺の状況を見れば、俺がサクラ姫を連れ回してるようにしか見えないし……
俺は、剣の試し斬りをしたいばかりに、とんでもないアウェイに来てしまったようである。
「騎士団長! トトが初めて剣を手に入れたから、試し斬りさせてあげて!」
そんな俺の気持ちも知らないで、サクラ姫が空気を読まずに、騎士団長に試し斬りさせて貰う為に、掛け合ってくれている。
なんか、今の状況、俺がサクラ姫を使って命令してるようにしか見えないのだけど。
「ほほ~サクラ姫の騎士殿が、初めて剣を手に入れたと」
なんか、騎士団長が、値踏みするように俺を見てるし。そもそも、サクラ姫の騎士の癖して、今迄、剣を持ってなかった方が問題だったような……
なんか、サクラ姫の話を聞いていた騎士団の人達が、物凄く怒ってるような気がする。
まあ、サクラ姫の話を聞けば、俺は剣を握った事もないのに、サクラ姫の騎士になったという事だし。
剣の腕を磨いて、サクラ姫の騎士を狙ってた人達は、そりゃあ、怒るよね……
「何か、丸太とか無いですか?」
いやいやいや、サクラさん、空気読まな過ぎですから。
この何とも言えない、殺伐とした空気が解らないの?
「なるほど、丸太ですね。そしたら、王族であるサクラ姫様の騎士様に見合った、ぶっとい丸太を用意しましょう」
なんか、騎士団長、俺に恥をかかせる気、満々じゃないの?
そして、俺の無様な姿をサクラ姫に見せつけて、俺ではない、本来、サクラ姫に見合った新しい凄腕の騎士を、サクラ姫の護衛騎士に選んで貰おうという作戦なのではないのか?
そうこうしてるうちに話は進んで、ぶっとい丸太が何本か、騎士団の練習場に並べられた。
「それでは、アルフレッド! 見本として、サクラ姫の護衛騎士殿に、試し斬りを見せてやれ!」
「ハッ!」
アルフレッドとかいう、若手の、如何にも凄腕そうなイケメン騎士が、指名されて前に出て来る。
きっとコイツは、ずっとサクラ姫の護衛騎士になる事を狙ってたに違いない。
というか、俺の事を一瞥して、ニヤリとしやがった。
もう、俺を事を恥かかせる気満々である。
そして、丸太の前まで来ると、剣を構えて、精神を集中する。
やはり、これだけぶっとい丸太を一刀両断する為には、それなりの集中が必要なのだろう。だって、クマの胴体ほどの太さの丸太なんだよ。せめて、人の太さの丸太にしてくれよ……
「ハアァァ~チェイスト!!」
ズザン!!
変な掛け声と共に放たれた、鋭い斬撃によって、ぶっとい丸太は真っ二つ。
この若手のイケメン騎士が、相当な凄腕だという事が分かる。
「それでは、トト殿。剣を初めて手に入れたという貴方が、丸太が斬れるかどうかは分かりませんが、別に斬れなくても恥じる事でもないので、私のようにやってみて下さいませ」
口では、丁寧な言葉を並べて喋ってるが、このイケメン騎士の目は、俺に恥をかかせる気満々である。どうせ、俺が斬れないとも思ってるのだろ。
だけどな、イケメン君よ。俺が持ってる剣は、かの武蔵野国三賢人の一人坂田権蔵が、丹精込めて打った十一文字権蔵なんだぜ!
もし、俺の腕が劣ってたとしても、多分、俺の十一文字権蔵が、俺の剣の腕を補う余りある性能で、ぶっとい丸太を真っ二つにしてくれんだよ!
てな事を、内心思いながら、トトは精神統一し、腰に差してた十一文字権蔵の鞘を握った。
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