第17話 武器屋
俺は現在、良さそうな武器屋を物色している。
まあ、物色と言っても、武器屋の中に入る訳ではないのだけど。
色んな武器屋の人の出入りをチェックしてるのである。
ん?何故?
そんなの良い武器屋を見つける為に決まってる。良い武器屋はお客さんがたくさん来るものなのだ。
だからと言って、俺は、客がよく来る人気店を探してる訳ではない。
玄人好みの武器を作る武器屋を探してるのだ。よく武器屋を観察してると、初級冒険者や、中級冒険者までは人気店と思われる店に、みんな吸い込まれるように入っていく。
そして、いかにも上級冒険者と思われる冒険者は、大通りから一本入った店に入るのだ。
「よし。この武器屋が良さそうだな!」
俺は、2時間ほど観察して、入るべき武器屋を決めた。
そして、大通りから一本入った店に入ろうとした所、俺はそいつを見てしまったのだ。
左目に刀傷。黒いマントに覆われてるのに分かる世紀末覇者のような筋肉隆々の体。背中には、どう考えても業物と思われる巨大な剣。覇気を纏ったその出で立ちは、どう考えても只者ではない。
そいつは、大通りから一本入った玄人受けする武器屋を素通りし、殆どスラムに近い城壁付近の古びた武器屋に入っていったのだ。
いつも、俺とサクラ姫に付いてきてる護衛達もピリピリしてる。
普通、姫様は、こんなスラム街なんかには行かないからね。
カンカンカン!
古びたボロボロの掘っ立て小屋のような店の中から、鋼を鍛えてる音が響いている。
「親父! 居るか!」
「ちょい、待っとれ!」
世紀末覇者が声をかけると、中から店の親父の声が聞こえてきた。
というか、壁が薄い。中の声が外にダダ漏れだ。
「で、どうしたんじゃ?」
暫くすると、親父の作業が終わったのか、再び会話が聞こえてくる。
「ウム。ロックドラゴンと戦ってな。ご覧の通り、歯が欠けてしまった」
親父の質問に、世紀末覇者が朴訥と答える。
「ロックドラゴンとな?ロックドラゴン程度で、儂が鍛えた大剣は欠けんじゃろ?」
「それが、オリハルコン混ざりのロックドラゴンだったのだ」
「何じゃと! オリハルコンじゃと?! で、そのオリハルコン混ざりのロックドラゴンは倒したのじゃな!」
店の親父は、興奮気味に世紀末覇者に質問する。
「何とかな」
なんか、世紀末覇者と親父の会話は、ぶっ飛び過ぎている。
そもそも普通の冒険者は、ソロでロックドラゴンを倒せないし、普通の剣では斬れない魔獣。
その倒せない筈のロックドラゴンを斬れる前提で親父は話してるし、実際、世紀末覇者はそのオリハルコン混じりのロックドラゴンを倒してしまっているのだ。
「勿論、オリハルコンは採取して来ておるな!」
親父は、鼻息荒く聞く。
「ああ。少しだけな。どうやら、オリハルコンの部分に剣が当たって欠けてしまったようだ」
「少しだけでもスグ出せ!儂が、オリハルコンと鋼を混ぜて合金を作って、お前の剣を打ち直してやる!」
武器屋の親父は、ヤル気に満ちている。
どうやら、オリハルコンを鋼と混ぜ合わせ、増やす作戦らしい。
「ああ。そのつもりでオリハルコンを持ってきた。俺の大剣を打つには、この量のオリハルコンでは少な過ぎるからな」
「よし! 分かった! 任しとけ!それから、有り金全部置いてけ!」
「ああ」
ズドン!
何やら、大量の金貨が詰まった袋が置かれる音がする。
ん?何故、金貨が入った袋か分かるかって?
そんなの俺のような商売人なら分かるのさ。
金貨の音と、銅貨の音が分からないようでは商売なんて出来ないし。
俺の予想だと、2千万マールぐらいの金額が入った金貨袋だと思われる。
本当に、一流冒険者は半端ないぜ。
「じゃあ、いつものように納期は1ヶ月。その間は、店にある好きな得物を持っていけ!」
「ああ。頼んだ」
暫くすると、入った時とは別の大剣を背中に背負った世紀末覇者冒険者が出て来たのだった。
「ここにするか」
世紀末覇者が去って行くのを確認すると、俺は満を持して、ここで剣を買う事を決心する。
「トト、本気?! この店に本当に入るの?」
サクラ姫は、どうやらビビっている。
そりゃあ、ビビるよね。
世紀末覇者が出入りしてるような店だもん。
見た目も、あばら家にしか見えないし。
「ああ。俺の初めての剣は、ここの親父に作って貰う!」
俺は、サクラ姫は置いといて、意気揚々と、あばら家じゃなくて、武器屋の門をくぐる。
「頼もう!」
カン! カン! カン!
奥の鍛冶場で、鋼を鍛える音が聞こえてくる。
多分、武器屋の親父は、手に入れたばかりのオリハルコンと鋼の合金作りに、早速、着手しているようであった。
「頼もう!」
聞こえてないようなので、もう一度、大声で声を掛ける。
「聞こえてるわい! 手が離せるまで、少し待っとれ!」
どうやら、俺の声は聞こえてたようである。
まあ、貴重金属のオリハルコンを手に入れて、気持ちが高ぶってると思うので仕方が無い事だ。
待てというなら待つさ。結構、業物の剣や刀も無造作に置いてあるので、それを見てるだけでも飽きないし。
「トト! これなんかどう?」
サクラ姫は、東方の国の武器と思われる剣を手に取り、トトに見せてくる。
「どれどれ」
俺は手に取り、東方の国の武器である刀のステータスを見て見ると、
「なんじゃ、これ!」
種類: 刀
銘柄: 十一文字権蔵
作者: 坂田 権蔵
特徴: 斬れ味抜群。飛んでる蚊でさえ真っ二つ。人斬り御用達の骨まで斬り裂く名刀。
価格: 5000万マール
無造作に置いてあった、刀でこの価格で、この性能。どうやら、トトは、とんでもない武器屋に入ってしまったようだ。
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