第10話 サクラ姫の騎士になる

 

「トト様、すいません。妹の命の恩人に対し、このような仕打ちになって……」


 無駄に正義感が強過ぎるクレア姫は、俺に頭を下げる。


 今日は、内々の受勲式。

 俺は、サクラ姫の騎士に任命されてしまったのだ。

 しかも、国のお姫様の騎士ともなると、地位が低い準男爵の子息だと体裁が悪いのだとか。

 しかも、俺の場合は、爵位も継げない貧乏準男爵家の三男。体裁が悪い所ではないのである。


 最初に、宰相閣下のフルート侯爵家の養子になり、その後、カスタネット子爵という爵位を受勲した。

 まあ、晴れて、カスタネット準男爵家からは独立出来たが、俺は、完全にマール王家に首輪を付けられて、鳥籠の鳥になってしまった事を意味する。


「何かあったら、何でも頼るように」


 養父になった、恰幅の良い髭面のフルート侯爵が、内々の受勲式が終わった後、言ってくる。


 本当に、この受勲式。急遽行われて、実は、俺がサクラ姫を救った次の日に行われてたりする。なので、俺の身内というか、カスタネット準男爵家の人間は、1人も呼ばれていない。


 というか、クレア姫が俺に会いに行く前に、既に、俺の身辺調査は完璧に終わっていて、マール王国は、俺のカスタネット準男爵家での仕打ちについても、しっかり調べが付いてるとの話だった。


 そして、そんな身辺調査の情報を加味した上で、敢えて、カスタネット準男爵の人間は呼ばれなかったという話である。


 それにしても、まさか俺が子爵になっちゃうとは。本当にビックリなんだけど。

 しかも、フルート侯爵とか、国の重鎮が後ろ盾だよ。

 俺の事を無能とか思ってた親父とか、継母とかが知ったら驚くのだろうな……


 まあ、だけれども、俺は一生、城の中で過ごさなきゃならなくなるんだけど……


 俺は、急に偉くなれて嬉しい反面。城から出られ無くなる事には、相当、ショックを受けている。


 王様や王妃やクレア姫にしたら、俺を逃がす訳にはいかないのは分かる。

 だって、俺が居なくなるとサクラ姫が死んでしまう訳だし。


 だけど、俺が1週間に1回程度、城に訪れてサクラ姫にHPとMPを与えれば良いだけじゃないかもとも思うのだが、そんな単純な話でもないんだよね。

 俺が、何かの拍子で死んでしまったり、もうイヤになって失踪したら、サクラ姫はそのまま死んでしまうのだ。


 なので、王室は不測の事態に備えて、俺を城に軟禁しておくのが間違い無いと判断したのだろう。まあ、それだと、サクラ姫を救った俺に悪いと思って、子爵の爵位とサクラ姫の騎士という飴も与えたのだと思う。


 飴と鞭。本当に染み渡るぜ……


 まあ、サクラ姫の呪いを解いてしまえば、全て解決するのだけど、世界最高の魔術師と言われているバツーダ帝国の宮廷魔術師ヨセフ・アッカマンを殺害するのは、ほぼ不可能。

 女神が住まう天空庭園に咲く、『名も無き花』の朝露から作られた『女神のエリクサー』を手に入れのは、もっと不可能だしね。


 だけどね。俺だって自由が欲しいのだ。

 折角、可能性の塊の『握手』スキルを手に入れたんだよ。


 俺の元々の夢って、カスタネット準男爵家から独立して、冒険者になる事だったんだよね。


 実をいうと、手相占いをしてたのだって、金を稼いで、装備を整えて、それから最終的には、子供の頃からの夢だった冒険者になって、世界を旅しようと思ってたのだ。


 そう。『握手』スキルには可能性を感じるのだ。

 このままレベルを上げていけば、戦闘系の派生スキルも手に入れられたかもしれないし。

 城の中に居たのでは、人と握手しづらいし、レベルを上げるのは、ほぼ不可能。


 今の状態でも、相当、レベルが上がってきてるので、次のレベルに上げるには、後、5000回も握手しないとならないのである。


「はぁ~俺、これからどうなるんだろう……」


 まあ、ため息もでるよね。


「トトは、私の旦那様になるの!」


 サクラ姫が、無邪気に話し掛けてくる。

 俺は、サクラ姫の騎士になってからというもの、いつもサクラ姫と一緒に行動しているのだ。


「ハイハイ。また、その話ね。俺とサクラ姫は身分が違うから、結婚はできないの!」


 サクラ姫を助けてからというもの、サクラ姫はずっとこんな感じで話してくるもんだから、俺も、最近ではフランクに話を返す。


「私は、命を助けてくれたトトと必ず結ばれるの。私の知ってる物語では、全部、そういう結末と、相場が決まってるの!」


「それは、物語の話であって、現実じゃないからね」


「トトは、私の事、嫌いなの?」


「嫌いではないですけど」


「じゃあ、結婚するの!」


「ハイハイ。じゃあ、サクラ姫が大人になって、まだ、俺の事が好きだったら結婚しましょう。でも、サクラ姫が、俺以外に好きな人が現れたら、その人と結婚して下さいね!」


「お父様とお母様が言ってたの。私は、トトが居ないと死んじゃうって! だから、私はトトと必ず結婚するの!」


 それって、俺が、サクラ姫の生殺与奪権を持ってるから、俺から離れられないと言ってるのと同意の話だよね。


 まあ、アッカマンを殺すのも、女神のエリクサーを手に入れるのも、ほぼ不可能な事だから、どうせ、ずっと俺と一緒に居るのなら結婚してしまった方が早いと、サクラ姫は子供ながらに考えたのかもしれない。


 なんか、そう思うと、サクラ姫がとても不憫な子に思えてきた。

 サクラ姫は、俺以上に、自由が全くない籠の中の鳥なのだ。


 何とかしてあげたいとも思うのだが、城の外に出れない今の俺には、何もしてあげる事もできない。


 せめて、城の外に出て、王都で手相占いか何か出来れば、もしかしたら『握手』スキルのレベルが上がって、何か役に立つ派生スキルが得られるかもしれないのだけど……


 そんな事も考え、俺は、ダメ元でクレア姫に、王都からは絶対に出ないから、城下で手相占いをして良いか相談してみる事にしたのだ。


 ーーー


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