第8話 サクラ・フォン・マール

 

「任せて下さい!私が命に換えても、必ず、サクラ姫を救ってみせます!」


 言ったからには、もうやるしか無い。


 俺はベッドで横になっているサクラ姫に近づき、膝をつく。


 近くで見るサクラ姫は、髪は所々禿げ落ち、痩せこけ、肌も唇もカサカサ。呼吸も浅く、生きているのもやっとと見受けられる。


 俺は、深呼吸してから、もう、骨と皮しかなさそうなサクラ姫の手を、両手で包むように、壊れないように優しく握る。すると、


 名前: サクラ・フォン・マール

 年齢: 9歳

 職業: マール王国次女

 状態: 呪い極大

 HP: 0.2

 MP: 0.8

 呪い種類:

 毎日、少しづつHPとMPを蝕み、最終的には死を迎える呪い。


 解除法:

  呪い主であるバツーダ帝国宮廷魔術師ヨセフ・アッカマンを殺害するか、女神が住まう天空庭園に咲く、『名も無き花』の朝露から作られた『女神のエリクサー』でのみで治す事ができる。


 トトは、サクラ姫のステータスを見て、愕然とする。


 どうやら、サクラ姫は病気ではなく、呪いを受けていたようである。


 しかも、呪い主であるバツーダ帝国の宮廷魔術師ヨセフ・アッカマンを殺すか、女神のエリスサーでしか治す事ができないと書いてあるのだ。


 これって、最早、サクラ姫の呪いを解くのは不可能な事を意味する。

 バツーダ帝国の宮廷魔術師ヨセフ・アッカマンは、世界最高の魔法使いと言われてる人物で、そんな人物を殺害するなんて不可能。


 そして、もう1つの『女神のエリクサー』の方は、そもそも女神が住まう天空庭園が、どこにあるかも分からなのである。


 伝説によると、大陸中央にある難攻不落のアニエスダンジョンの頂上に有ると言われているが、誰も、アニエスダンジョンを攻略に成功した者などいない。


 というか、そもそも、もう時間が無いのだ。

 サクラ姫のHPは、僅か0.2しか無い。

 もしかしたら、もう1日も持たない程、消耗してるのかもしれない。


 試しに、癒し手の能力で治そうとしてみたが、ステータスに書いてある通り、やはり、ヨセフ・アッカマンを殺すか、女神のエリクサーでないとサクラ姫を救う事が出来ないようである。


 そうこうしてる内に、目の前に表示されてるサクラ姫のステータスのHPが、0.1になってしまった。

 多分、HP0になってしまったら、サクラ姫は死んでしまうのだろう。


 クレア姫に、今のサクラ姫の状況を説明しようと思ってたのだが、最早、そんな悠長な時間など無い。


 何度も、癒し手を発動してるのだが、全く効果が表れないのだ。


『クソクソクソ、どうする。考えろ……』


 癒し手も効かないとなると、もうどうする事も出来ないのだが、トトは、クレア姫に必ずサクラ姫を救ってみせるとタンカを切ってしまっているのだ。


 それなのに、タンカを切った数分後にサクラ姫が死んでしまったら、一体、自分はどうなってしまうのだろう……


 兎に角、今、死なれてしまうとトトは困ってしまう。

 自分がサクラ姫の手を握ったせいで、サクラ姫が死んでしまったと思われてしまうかもしれないし。もう、状況がそんな状況なのだ。


 そうこうしてるうちに、サクラ姫のHPが、0.05になってしまった。


 ヤバいヤバい。ヤバすぎる。兎に角、今、サクラ姫が死ななければいいのだ。


 遅らせるだけでも、サクラ姫の殺害疑惑が持たれない筈だ。


 で、どうする。


 テンパリ過ぎて、頭が回らない。

 俺の『握手』スキルの派生スキルに何かあっただろ?


 て、ゲッ!もう、HP0.02だと!


 サクラ姫の元々無かった体温が、氷のように冷たくなってきてるし、それからなんかサクラ姫の体が硬くなってる気がする。


 もしかして、死後硬直が起こりかけてる!?


 ヤベヤベヤベ! 本当に、この状況はヤバ過ぎるぞ!


 て、もうHP0.01……


 俺の人生終わった。折角、『握手』スキルを得て、人生勝ち組になったと思ってたのに!


 トトは、ほんの数秒の間に、今迄の人生が走馬灯のように思い出される。


 カスタネット準男爵の三男として生まれて、継母に虐められ、ハズレスキルの『握手』スキルを得たと思ったら、実は、『握手』スキルが、チートスキルで、その『握手』スキルを使って、手相占いの仕事をして、お金を稼いで、ウハウハになって、たまに手相占いの間に手荒れを治してあげたり、元気の無い人に自分のHPを分けてあげたり……


 ん?! 『握手』スキルの派生スキルによって、俺のHPを分け与えれたんじゃ?


 ていうか、もうHP0.0001しかないよ!!


 トトは、もう考える暇もないので、一か八か、サクラ姫に自分のHPを分け与えてみる。


 すると、ミルミル、サクラ姫の血相が回復し、抜けてた髪も生えてきて、見た目だけは元通りになってしまった。


 そして、その様子を見てた、クレア姫は、俺を押し退け、サクラ姫に抱きついた。


「あぁぁぁサクラーー!良かったよぉ~」


 クレア姫は、相当、嬉しかったのだろう。

 人目も憚らずに大泣きしてしまってるし。

 だけれども、この状況も不味いだろ。


 実際は、俺の『握手』スキルの派生能力、HPギフターで、サクラ姫のHPを一時的に回復させただけで、サクラ姫の呪い自体は治っていないのである。


 暫くしたら、また、徐々に、サクラ姫のHPとMPを蝕んでいき、また、HPが0.001になってしまうかもしれないのだ。


 まあ、自分が居ない時に死ぬなら俺のせいにならないかもしれないのだが、まだ、サクラ姫が完全に治ってない事は、クレア姫にも、周りで喜んで居る人々にも伝えなければならない。


 サクラ姫の呪いを解く方法は、バツーダ帝国の魔術師団長ヨセフ・アッカマンを殺害するか、女神のエリクサーを使うしかないという事を。


 そうこうしてると、サクラ姫が治ったと聞いた、マール王国の王様と王妃様までやってきてしまった。


「おお~! サクラが回復しおる!!」


「私のサクラ。本当に治ってくれて良かった……」


 ちょっと、ますます説明しづらい状況に陥ってしまい、トトは、取り敢えず、皆が落ち着くのを待つしか無かった。


 ーーー


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