第7話 王城

 

 俺は、クレア姫の手相占いを終わると、そのまま馬車で拉致されてしまった。

 どうやら、このまま城に連れていかれるらしい。


「貴方の事は、既に調べています。カスタネット準男爵家の三男。13歳で『握手』スキルが開眼。最初は握手すると名前が分かるだけのスキルだったのだけど、握手をする事でレベルが上がり、色々な派生スキルが発言したのですよね?その中の1つが、手相占い。これで合ってますか?」


 馬車に乗ると、対面の席に座るクレア姫がグイグイ質問してくる。

 というか、俺の『握手』スキルの事は、もう調べ済で、それを知ってて敢えて、俺に接触して来ていたようである。


「そうです。本当は、手相を見てるんじゃなくて、握手して、相手のステータスを見てるだけでした」


 俺は、もうここまで調べてるのなら、嘘を付いても仕方がないので、正直に種明かしをする。だって、ステータスに、クレア姫は嘘つきが嫌いと書いてたし。ここで嘘を付いてしまうと、怒りを買ってしまうかもしれないし。


「で、それで『握手』スキルで、どこまでの事が分かるのですか?」


 クレア姫が、目を輝かせて質問してくる。


「ええと……名前、年齢、職業、趣味、好きな事、嫌いな事、病気の有無、病気の治し方、等々ですね……」


 本当は、もっと分かるのだが、等々で誤魔化した。

 というか、今では、俺の知りたい事なら、何でも分かるようになってるんだけど。

 家のお金の隠し場所やら、恥ずかしい性癖や、犯罪履歴等々、なんでも。

 あんまり言うと、危険人物だと城に幽閉されちゃうかもしれないから、言葉には伏せとくけど、全ては、等々……に含まれてるので、嘘ではない。


「病気の種類と、治し方まで解るのですね!」


 対面の席に座ってた、クレア姫が、突然、俺の手を握り締める。


 というか、泣いている?

 クレア姫の瞳から、ポロポロと涙が溢れ出ている。


 今迄、原因不明の病気に侵された妹を治そうと、四苦八苦していたのだろう。


 そして、最近、王都でも話題になってる俺の噂を聞いたと。


 それで、藁をも掴む気持ちで、ダメ元で俺の元まで来てしまったのだ。


 そんなの、部下か誰かに頼めばいいものを。自分の目で、俺の実力を確かめる為に……


「ありがとう……本当にありがとうございます……」


 クレア姫は、号泣しながら、俺の手を強く握り続けている。

 ありがとう……て、まだ、俺、妹さんの手も握ってないのに、俺が、妹さんの病気が解らなかったら、どうなっちゃうのだろう……

 本当に、不安でしかなくなる。


「あの……まだ、病気の種類が解るか、病気の治し方も解るか、解らないのですけど……今迄も、鑑定スキル持ちの人とか、治し方が解らないのであったのなら、私の『握手』スキルでも、解らない可能性が有ると思うのですが……」


 俺は、結構、自信はあるのだが、予防線を引いておく。だって、ここまで期待されていて、解らなかったら、どうなっちゃうのだろうと思ったから。

 考えただけでも、恐ろし過ぎる……


「トトさんなら、大丈夫です。私の第六感が、トトさんなら、全てを解決してくれると直感で教えてくれるのです!」


「そ……そうなんですか……」


 ちょっと、なんかヤバい。難病に侵された病人が、藁をも掴む思いで何でも信じてしまうような感じ?効きもしない高価な薬を買ってしまったり、怪しい呪い師の祈祷を受けたり、そんな感じの精神状態になってるとしか思えない。


 本当に、逃げ出したいのだけど。

 だけど、手をガッチリ握られちゃってるし。

 俺、本当に、どうなるのだ。不安でしかない。


 そうこうしてる内に、王城に着いてしまっていた。

 歩きで3日かかる距離で、普通の馬車でも丸1日かかる距離なのに、たったの5時間で着いてしまうとは、本当に、王家の馬車はトンデモない。


 俺は、逃げられないように、クレア姫に手を握られたまま城の中に連れてかれ、全てを素通りして、クレア姫の妹、サクラ姫の部屋に通される。

 城で働いてる、兵士やメイドや使用人などは、俺とクレア姫を見て、ギョッとした顔をしてたし。本当に、普段では有り得ない事なのであろう。


「さあ、トト様!妹を占って下さいませ!」


 イヤイヤイヤ……こんな感じで?

 まさか、直接、妹の部屋まで連れて来られるとは、思ってなかったし。心の準備も出来てないし。


 しかも、妹は、どう見てもヤバい感じだし。

 身体は痩せこけ、青白い。王族の象徴である銀髪も、たくさん抜け落ち薄くなってるし。

 もう、死を待つ状態と言っても過言ではない。

 多分、このまま何もしなかったら、後、数日で死んでしまうだろうと俺でも分かる。


 まあ、この妹を見れば、クレア姫がとても焦っていたのも納得できる。だがしかし、


 これ、今更、俺が手相というか、『握手』スキルを使って、この子の病気が解ったとしても、ここまで衰弱してたら治らないんじゃないの?


 もしかしたら、俺の『握手』スキルの派生スキル、癒し手の能力なら治るかもしれないけど。俺の癒し手の能力は、まだまだ未知数。


 だって、『握手』スキルで調べたら、聖女の能力と同等の能力があるらしい事は解ったのだけど、実際は、手荒れを治してあげたり、ちょっとした切り傷を治した事しか無いのである。


 骨折も治した事も無いし、ましてや欠損部位を治した事もない。ちょっと、風邪をひいたなと思った時、自分を治した事があるけど、その程度の検証しか出来ていないのだ。


 クレア姫の顔を見てると、俺に手を合わせ、悲愴な顔して祈ってるし。本当に、神頼み?俺、神などでは無いのだけど。ただの人間なんだけど。


 それほど、クレア姫は、切羽詰まって、藁をも掴む気持ちだったのだろう。


 俺なんか、ロートルの貧乏貴族の三男にさえ頭を下げ、わざわざクレア姫自ら、田舎のカスタネット準男爵領に赴き、俺を城に連れて来るくらいだし……


 もう、ここまで期待されているならやるしかない。

 例え、サクラ姫の病気が何か解らなかったとしても、それはそれ。


 一国の王国のお姫様が、俺なんかに頭を下げているのだ。

 ここで、やらなかったら男がすたる。


 そもそも俺の人生、誰かに期待された事など皆無。実の父親にだって、無能と見放されたのだ。

 それなのに、クレア姫は、俺なんかに期待してくれている。


 なので、俺は、期待してくれているクレア姫を安心させる為に、しっかりと、目を見て言葉をかけたのだ。


「任せて下さい!私が命に換えても、必ず、サクラ姫を救ってみせます!」と。


 ーーー


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