第6話 手相占い
その日は、突然やってきた。
いかにも怪しい集団。
貴族の紋章が付いてない、怪しい馬車が、俺が手相占いをしてる路上の前に乗り付けてきたのだ。
まあ、俺も腐っても準男爵家の子息だから、その辺の貴族のお嬢様になんか緊張しないよ。
実際、今迄も、何人か貴族の奥様や令嬢に手相占いしてやった事があったし。
だけど、今回の貴族令嬢は、一目見ただけで物が違うのだ。
まず、高貴過ぎるオーラが抑える事が出来ていない。
身分を隠す為に、敢えて、貴族の紋章を付けてない馬車に乗ってきたと思うのだが、そもそもこのクラスの豪華な馬車など、最低でも、侯爵クラスの貴族しか乗らないし。
という事は、侯爵か、辺境伯か、公爵レベルの貴族令嬢と分かってしまう。
これは、丁寧に応対しないといけないと、トトは緊張する。
「お嬢様。どうやら、この椅子に座るようです」
お付の侍女に伴われて、貴族令嬢は椅子に座る。
椅子と言っても、ただ路上に置いてある普通の椅子。
最初は、椅子1つ置いて手相占いしてたんだが、最近では、ちゃんとテーブルもお客さん用の椅子も置いてあるのだ。
だからと言って、高貴な貴族令嬢が座るような高価な椅子じゃないんだけどね。
その貴族令嬢は、俺と同じ位の歳に見える。髪の色は、平民に多い茶髪。だけれども、目鼻立ちは整い、どう考えても高貴な生まれなのがビンビンに伝わってくるのだ。
「ええと……何を占いましょう?」
俺は、恐る恐るお伺いを立てる。
「病気の妹を治す方法を、占って欲しいのです」
貴族令嬢は、俺の目をしかと見て言う。
威厳に満ちた金色に光り輝く瞳は、俺を、思わず萎縮させる。
「ええと……もしかしたら、妹さんを治す方法を占えるかもしれませんが、その……直接、妹さんの手相を見ないと占えないのですが……」
「そしたら、城……じゃなくて、屋敷にいらして下さいませ!」
「お嬢様! それはなりませんよ!」
お付の侍女が、慌てて、お嬢様を止める。
というか、今、城とか言ったよね?
「でも、サクラの手相を直接、見ないといけないと言ってますし……」
「それでも、駄目でございます。そもそも、この者の占いが当たるとも限りませんし!」
侍女は、俺をギロリと睨みつけてくる。
俺、何か不味い事でも言った?ただ、妹の手相を直接見ないと分からないと、言っただけだよ。
このやんごとなき貴族令嬢の手相見ても、本人のステータスしか見えないし。
病気にしても呪いにしても、その掛かってる本人のステータスを見ないと、何も分からないのである。
「ならば、私の手相を見て貰いましょう。それで、この者の占いが、本当に当たるかどうか判断すれば良い事ですしね!」
この貴族令嬢は、相当切羽詰まってるのかグイグイ来る。
「ですが……」
「ですがも、ひったくれも無いです!私の可愛い妹、サクラの生命が掛かってるのです!」
やんごとなき貴族令嬢は、侍女を振り切り、ナイフとフォークより重い物など持った事もないような華奢な手の平を、俺の前に突き出した。
まあ、占えばいいんだよね。
手を触った瞬間に、不敬罪とか言われないよね。
俺も、一応、貴族の末席に座る準男爵の子息だし、大丈夫と思うしかない。
俺は、やんごとなき貴族令嬢を包み込むように握り、手相じゃなくて、ステータスを確認する。
『て?!エェェェェェェーー!!』
俺は、思わず、心の中で唸り声を上げてしまう。だって、この人、じゃなくて、このお方は……
取り敢えず、このお方のステータス。
名前: クレア・フォン・マール
年齢: 13歳
職業: マール王国長女
趣味: 人助け
好きな人: サクラ・フォン・マール
嫌いな人: 嘘をつく人
まあ、他にも色々開示されてるのだが、これ以上はプライバシーの侵害になっちゃうので自重しておく。
「それでは、手相占いを始めます。まずは、ズバリ! 貴方は、地位の高い人ですよね?」
俺は、無難にクレア姫に聞いてみる。
「そうです!」
クレア姫は、俺の手をしっかり握り。前のめりに答える。
「お嬢様! 誰しも、お嬢様を見れば、高貴な身分だと分かりますから!」
侍女が、慌てて、俺とクレア姫を引き離す。
「貴方には、父と母と兄と妹がいますね」
「ハイ! 居ます!」
「ですから、お嬢様。それくらいの事なら、適当に誰でも言えますからね!」
またまた、前のめりになって、俺の手を握りしめたクレア姫を、再び、侍女が引き離しにかかる。
「でも、全て当たってるんですよ!」
「それでも、それくらいの事なら、私でも、簡単に言い当てれますので!兎に角、冷静になって下さいませ!」
侍女が、俺からクレア姫を引き離し、少し落ち着いたようなので、再び、手相占いに戻る。
「貴方は13歳ですね?」
「そうです!」
なんか、クレア姫の目力が強い。
今度は、手を握り締めない代わりに、目で主張してきた。
「そして、貴方のファーストネームはクレア」
「何故、お嬢様の名前を?!」
ここで、侍女が反応する。流石に名前をズバリ当てるとは思わなかったのだろう。
ここまで来ると、侍女も俺の手相占いに興味を持ち出したようだ。
まあ、手相占いじゃなくて、ただ、ステータスを見てるだけなのだけど。
「そして、ラストネームは、マ……これ以上は、私の口からは言わないでおきます。どこに貴方を狙う間者が居るか分かりませからね」
まあ、流石に、これ以上は、俺の口から言えない。クレア姫が、この国のお姫様と当てて良いものかどうかも分からないし。
「なんと……王族の証である銀髪を、魔法で茶髪に変え、鑑定スキル対策として、鑑定阻害魔法を使ってたというのに、それなのに、私を王族と当ててしまうとは……」
この姫様、自分で正体あかしちゃってるよ。
俺は、敢えて、言わなかったのに。
ていうか、わざわざ、髪の色まで変えてたのね。
まあ、王族が銀髪なんて全く知らなかったのだけども。
しかも、鑑定阻害?やはり、俺の『握手』スキルは、鑑定とは別物であるようだ。
「マドレーヌ! 良いわね! この者を城に連れて行っても!」
クレア姫は、鼻息荒く。侍女のマドレーヌさんに確認を取る。
「ハァ~……もう、お嬢様自身が、王族だと正体を明かしてしまっていますので、今更ですよね……」
侍女のマドレーヌは、呆れた表情をして了承した。
ーーー
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