第5話 握手スキルで井戸掘りしちゃう

 

 俺は、初めて、『握手』スキルを、井戸掘りに利用する事に決めた。


 まあ、実は、俺の新たに得た『握手』スキルの派生スキルを使えば、井戸掘りなど、簡単に出来てしまうんじゃないかと思ってたのだ。


 まずは、今迄使ってた土を井戸から運ぶバケツから、その3倍の大きさがある洗濯桶に。それに、今迄使ってたロープより太いロープに括り付ける。

 そして、スコップも今迄使ってたスコップより、一回り大きなスコップに持ち替え、井戸の底に降り立つ。


「ウオォォォーー!!」


 俺は、雄叫び発しながら猛スピードで、今迄より大きいスコップで、普通のバケツの3倍の大きさの洗濯桶に土を入れていく。


 ヤバい。本当にヤバい。全く腕が疲れない。

 これも、どんな重い物も持てる『握手』スキルの派生スキルのお陰。


 井戸をロープを伝って登るのも、腕だけ使えば、全く疲れない。

 基本、握手の握る動作だけしてれば、何でも出来てしまうし、全く疲れない。


 洗濯桶に山盛りに入った土を、地上から引き上げるのも、本当に、空気を引き上げるくらいに楽。兎に角、俺が握った物は重さを感じないのだ。


 今迄、得た『握手』スキルの派生スキルのうち、その時、使いたい派生スキルが、勝手に発動する感じ。


 俺の『握手』スキル、想像以上に凄すぎた。


「お兄ちゃん!凄い!」


 なんか、妹に褒められて興奮しちゃう。

 俺って、どうやら妹好きだったようだ。


 あれよあれよという内に、1個目の井戸と同じ深さの30メートルに到達してしまった。

 1個目の井戸を掘るのに3年も掛かったのに、本当に信じられない。


 しかし、今回の俺は、ここでは終わらない。


 俺は、妹に尊敬されるお兄ちゃんになりたいのだ。


 そのままの勢いで、猛スピードで井戸を掘り続ける。そして、深さにして50メートルに到達した所で、アッ!


 井戸の底から、水が染み出て来た。

 そして、もう少しだけ深く掘ると、みるみる水が湧き出て来る!


「リーナ! お兄ちゃん! やったぞ!!」


 俺は、井戸の底から水を掘り当てたと、リーナに伝える。


「お兄ちゃん! 凄い! 格好いい!!」


 俺は、リーナの尊敬を得る事に成功したのだった。

 でもって、この井戸については、カスタネット準男爵家の使用人達にも喜ばれた。

 実際、カスタネット準男爵家で使う水は、近くの小川から、使用人がバケツで何往復もして汲んできていたのである。


 なんか、カスタネット準男爵家の使用人の俺に対する人気も、爆上がり。


 今迄、毎日、握手を求めてくるキショい奴と思われてた気がするが、今や、向こうから握手を求められる始末。

 まあ、これまで通り、キショい奴と思われ続けるのもアレなので、俺の握手スキルは、握手するとレベルが上がり、出来る事が多くなると教えたら、今度は、使用人の方から毎日、俺と握手してくれるようになった。


 しかも、セクハラと言われると困るので、女子の使用人には握手を求めてなかったのだが、女子の使用人にも、握手を求められようになってしまった。


 やはり、女の子の方から握手を求められのは嬉しい。若くて可愛い使用人も居るから、ちょっと興奮もするし。


 ついでに、癒し手の力で、手荒れも治してやったら、評価爆上がり。

 今迄、使用人に挨拶もされない、カスタネット準男爵家の要らない子だったのに、女子の使用人の方から挨拶されて、毎日、熱烈に手を握れちゃうって天国かよ。


 まあ、デレデレした顔をして、若い女の使用人と握手ばかりしてると、妹のリーナが焼き餅焼いて、「お兄ちゃんのバカ!」と、特攻してくるのだけが、気になる所。


 そして、また、気になる事もある。

 いつも俺に対して、嫌がらせをしてた継母の視線が熱いのだ。


 もう既に、俺の『握手』スキルが覚醒した事を、使用人を通して知ってると思うし、井戸を掘り当てた事でも、分かってると思う。


 しかし、今迄、俺に、酷い仕打ちをして来ていたので、俺に面と向かって話し掛けられないのである。


 まあ、今迄の俺に対する酷い仕打ちを心の底から謝ってくれたら、手相占い(相手のステータスを見て、適当に話すだけ)くらいしてやってもいいが、やはり、今迄の酷過ぎる仕打ちを考えたら無理だよね。


 最低、土下座して、地面に顔を擦り付けて1ヶ月間ぐらい謝り続けたら許してやってもいいけど。


 実際、プライド高そうな継母は、絶対に俺なんかに頭は下げないでしょ。


 俺も、謝れる事を望んでないから良いのだけどね。


 それより、今迄通り、罵ってくれて、家を出る切っ掛けが欲しいくらいだし。


 本当に、人って、やって欲しい時にやってくれないもんだよね。


 俺は、こんなに継母に罵って欲しいと感じたのは、初めての感覚。俺って、もしかしてMだった?そしたら、今迄の継母の罵りは、ご褒美だったのか?


 そんな、しょうもない事を考えつつ、いつもの日常に戻り、街で手相占いをしてたら、また、トンデモナイ事件が起こる。


 まさか、この国。マール王国のお姫様が、俺の元に、手相占いをしにやって来たのだ。

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