第3話 長男カーク

 

 握手スキルのレベルアップと、金儲けも兼ねて、街の路上で手相占いの仕事をしていたら、ついに、握手スキルがLv.15になった。


 すると、今度は今までと毛色が違う能力が発現した。その能力とは、握手で人の手を握り潰す事が出来る能力。簡単に言うと、握力アップね。


 握り潰すって、どんな時に使えばいいんだよ?とか、思っていたが、その時は、割と直ぐに訪れたのだ。


「オイ! トト! お前最近、羽振りがいいそうだな! 聞いたぜ。お前、街で占いの真似事をして荒稼ぎしてるようじゃねーかよ!

 領主の子が、路上で商売するって、恥ずかしくねーのか!取り敢えず、路上で稼いだ金は没収する!

 俺は、カスタネット準男爵の跡取り息子だから、売上を税収として貰うのは当然だよな!」


 家の廊下を歩いてたら、突然、長男のカークが理不尽な事を言ってきた。

 コイツは、本当にムカつく奴。なんの能力もない癖に、いつも俺に、難癖付けてくるのだ。

 俺からしたら、次男のニコルの方が、剣術の腕前も、勉強も出来るし、人格者なので、カスタネット準男爵を継いだ方が良いと思うのだけど、この国は、何も無ければ長男が家を継ぐと決まってるので、カークは、それを良い事に胡座をかいてるのだ。


「ほら、寄越せよ! 今日の売上持ってるんだろ?」


 カークは、右手を俺の目の前に出し、金を要求する。やっぱり、ニコルが家を継いだ方がいい。ニコルは、俺にも普通に接してくれるし。勿論、俺が、街で上手くやってると知ってるけど、頑張れよ!と、言ってくれて、応援もしてくれるし。


『誰が、金なんか渡すかよ』


 俺は、こいつに今迄、散々、嫌がられせを受けて来ている。

 裏山で見つけた綺麗な色の石とか、大切にしていたものを奪われ捨てられたり、夕飯の時椅子に座ろうと思ったら、椅子を引かれて転ばされたり、その他、諸々。本当に、細かい嫌がらせをしてくるのだ。多分、何も持ってない僻みだろう。


 でもって、まあ、今迄、溜まりに溜まってた鬱憤があったんだろうね。


 俺は、無意識に、カークの手を握り。そして、ゴキゴキゴキと握り潰していたのだった。


「グギャーー!!」


 カークは、右手を押さえ、のたうち回る。

 俺も、しまった!と、思ってすぐに手を離したんだけど、多分、指の骨の2、3本は折れてしまっているだろう。


 ちょっと、ヤバい……どうするか悩んだけど、俺は、知らないフリして、自分の部屋に逃げ込んだ。自業自得だっちゅーの。


 後で、継母が怒って、俺の部屋に乗り込んでくるかもしれんが、もう、知らん。

 家を出て行け!とか言われたら、すぐに出て行くし。貯金もあるから、街で部屋を借りて、一人暮らしするのもいいかもしれない。


 そんな事を、悶々と考え、頭を巡らしていたら、


 トントン!


 部屋をノックする音が聞こえる。


「はぁ……来やがったか……」


 俺は、覚悟を決めて、扉を開けると、そこには、継母でも、カークでもなく、次男のニコルが立っていた。


「お前、ついにやったな」


「ああ。やっちゃったよ」


「カーク兄、相当、お前の事、怒ってたぞ」


「俺は、今回ばかりは、絶対、謝らないからな!」


 俺は、現在、自立するだけのお金を持ってるので、強気にでる。


「だけど、執念深いカーク兄の事だから、きっと、近い内に何か仕掛けてくると思うから、気を付けてた方がいいぞ」


「その時は、また、手を握り潰してやるさ!ところで、カーク兄の手は、どうなった?」


 俺は、気になってた事を、ニコルに質問する。


「それなら、家に置いてあった緊急用の上級ポーションを勝手に使って、治してたぞ」


「緊急用の上級ポーション、勝手に使っちゃったのかよ! アレって、相当、高いんだろ! 指の骨折ぐらい、教会の治癒士に治療して貰えば、良いものを……」


「だな、父さんにバレたら、カーク兄は、こっぴどく怒られると思う」


「でも、どうせ、俺のせいにするんだろ?」


「だな。だけど、何かあったら、父さんに、俺の方からも一言、言っといてやるよ!

 上級ポーションを使ったのは、カーク兄だって!」


 ニコルは、ベットに腰掛けてた俺の頭を、おもむろに撫で回してから、俺の部屋から出ていった。


 こういう所が、やはり、ニコルは常識人で優しい。

 まあ、この家で耐えれれたのは、やはり、ニコルが居る事が大きい。それと、妹のリーナね。


 リーナとも、母親が違うけど、なんか知らんが、俺に懐いているのだ。


「トトお兄ちゃん、穴掘り、私にも教えてー!」


 て、何故に、穴掘りに興味を持ってるのか、本当に謎だ。


 まあ、兎に角、継母が、俺の部屋に怒鳴り込んで来ない理由は分かった。


 カークが、勝手に上級ポーションを直ぐに使ったので、継母は、カークが、俺に怪我をさせられた事を知らなかっただけだろう。


 知ってたとしたら、絶対に怒鳴り込んできて、「家から出ていけ!」と、言われてた筈だしね。


 ーーー


 面白かったら、お気に入りにいれてね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです! 飼猫 タマ @purinsyokora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画