第4話

真咲藤和SIDE


俺には彼女というものができました。

あ、間違えた。

彼女を前提としたお友達ができました。


えへへ。

嬉しいです。


でも俺のお友達のあいちゃんは、少し無愛想です。

だけど、可愛いから気にしません。

見た目だけの話じゃないよ。雰囲気とか色々含めてトータル超可愛いって話です。


「あいちゃーん」


昼休みになってあいちゃんを呼ぶ。

あいちゃんは友達と三人で仲良く話をしていて、俺の声にくるっと振りかえった。

友達とこそこそと話をして、それから肘でお腹をつつかれてた。

なにかをからかわれているらしい。


もうーっと怒ったあいちゃんは可愛くて、俺もお腹をつつきたいなって思った。


「先輩。お昼どこ行きます?」

「ん? 食堂か購買。ご飯ないし」

「そっか。じゃあ食堂行きましょっか」

「いいけど、別に」


あいちゃんの見上げて笑う顔が可愛くて、思わず目を逸らして俯いた。

どうしよう。

俺って重症かもしれない。

胸が痛い。

あいちゃんといると胸が焦げそうに熱い。

これを恋って言うんでしょ? 俺知ってるよ。

ただ馬鹿なわけじゃないんだよ、あいちゃん。


「先輩、先輩。なに食べますー? 私はお弁当持って来てるけど、これ選ぶのって結構楽しいですよねー」


食券機の前であいちゃんは唸っている。

その必死そうな顔を見て笑って、俺は天ぷらうどんを頼んだ。

選びたかったのにと頬を膨らますあいちゃんを見て笑いながら、ゆっくり手を引いた。


「先輩、和食好き?」

「んー、てかうどんすき」

「えぇーあはは。似合わない!」

「似合わないってなにさ」

「いやぁ、先輩ってなんていうか……フランス料理……うーん。あれ? だめだ。人間の食べ物が似合わない気がする」


ものすごく失礼な事をたまに言われる。

でも俺は気にしないんだ。

だって、あいちゃんが好きだから。


「あいちゃん。こっちおいでー。空いてるよ」

「先輩。空いてるっていうか……。空けてくれたんですよ。どこも満席ですし。先輩の美貌って恐ろしい」

「え? なに?」

「い、いや、何でもないです。良かったですね」

「良かった。いただきます」


誰かとご飯を食べる。

それだけでうどんは何倍にもおいしくなった。

誰かとご飯を食べる喜び、一緒にいる楽しさを知ってしまった以上、もう俺は一人でいられない気がしました。

今までの自分は何だったのかな。


君に出会って世界は色がついたよ。



「あいちゃん。俺の事好きー?」

「好きですよ。普通に」


普通に?

それってどうなの?

え?

好き普通嫌いっていう3つのランクがあったら、どこに入るわけ?

好きのランクの真ん中って事? それとも普通のランクの上ってこと?

よく分からないけど、まだ中の上あたりだろうか。


「早く上の上になればいいのに」

「上の上? どういう意味ですか?」

「好きのランクの好きって事」

「はぁ? 先輩ってわけわかんない」


ふふふっと君が楽しそうに笑うから、俺はうどんを食べながらうどんってこんなにおいしかったっけとまた思って、声をあげて笑いそうになった。


「先輩って可愛いですよね」

「知ってるってば」

「ふふふ、でも他の人にはあんまり可愛くしないで下さいね」


何も思ってなさそうな顔で言われて、俺は自分の顔がかぁっと赤くなるのが分かる。

下に俯くと、あいちゃんがまじまじ覗き込んできて、その後少し目を見開いた。


「せ、先輩ってなんか」

「なに」

「可愛い」

「そればっか。かっこいいとか言えないわけ?」

「ああーそれは考えたことなかったですねぇ」

「…………怒った」


俺がぶすっと言うと、あいちゃんは声をあげてけらけらと笑った。

ああー可愛い。

なんで俺もっと早く見つけなかったんだろう。


どうしよう。

好きって言いたい。

でも本当は好きって言ってほしいんだ。


「あいちゃん好き」

「ふふ、うん」

「うんじゃない!」

「私もうどんよりは好きですよ」

「それってどのくらいの好き?」

「うーん。お寿司よりも下かな」

「くそが!」


箸をバンっと置いて立ち上がると、食堂の周りがざわざわとしているのにようやく気付いた。

みんなが俺とあいちゃんに注目してるようだ。

ざわざわしてる食堂でそんなに声が響いてただろうか。


あいちゃんも知ってたかな?

まあ、俺はいちいち気にしないけどね。


「先輩。さっきのは冗談ですって」

「あいちゃんが謝るまで座らないー!」

「じゃあ立っててください」

「はぁ!? ………みなさーーーーん! 小林亜衣が俺をいじめてきます! お寿司より好感度が低いらし…っ」

「先輩っ! こら! 座って!」


大声を張り上げ合う俺たちにみんながざわざわとゆれる。

食堂中の全員に見られて、あいちゃんが顔を真っ赤にして俺の腕を引っ張った。

ざまぁみろ。

俺をいじめるからこんな事になる。


「謝って、あいちゃん」

「ごめんなさい」

「足りないでーす」

「ごめんね」

「可愛く言ってもだめでーす」

「じゃあなんて言ったら許してくれるの?」


その上目づかいですでに可愛いけど。

でももったいないから、ぷんぷん怒ったふりしちゃう。


「ごめんを最大限に可愛く言ってみて」

「えぇー」

「あ、うどん伸びてるよ。もうー」

「うぅ……最初よりもいっぱい好きになったよ、もう結構好き。ごめんね、藤和先輩」


心臓を矢で貫かれた。


ど、どうしよう。

どうしよう。

バタッと机に顔をくっつけてうつ伏せになった俺をあいちゃんがゆすってくる。

うぅぅぅ。


「あいちゃん。結婚してくれ」

「いや。そこまでじゃないっす」


冷静なあいちゃんにはっきり言われてめげる俺じゃない。

机に身を乗り出して、ちゅうをしようとする俺をあいちゃんがぎゅうぎゅうと手でほっぺを押してくる。


なんだよ。

拒否んじゃねぇよ。

そんな雰囲気だっただろう。


「あいちゃん。今日の放課後はラブホだね。俺優しくするから」

「いや、まじなトーンで言わないで! 無理なんで!」

「俺あいちゃんの事全部愛したいの」

「いや私今日バイトなんで」

「あ、ラブホってね、休憩って言ってね、2時間コースとかあるよー?」

「だからまじな説明しないで! 無理ですから!」


あいちゃんがいきなり立ち上がって、出て行こうとする。

俺は急いで返却口にうどんのお盆を返して、あいちゃんを追いかけた。


食堂で俺たちの事がさんざん話題になっていると知らずに、俺はあいちゃんのぷりぷり怒る後姿だけを捉えて必死に追いかけた。

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