番外:同窓会

「ちかちゃんっ、お母さんもうすぐ来るから優奈の服着せて~」

「はいはいはい。優奈~。パパと服着るぞー」


まだ言葉の分からない優奈にちかちゃんは笑顔で話し掛ける。

ようやく一歳になった優奈は、それでも服を着るのが嫌なのか、手をぶんぶんとしながら拒否している。


ちかちゃんはそれでもにこにこしながら、「優奈、パパにおてて貸して~」と猫なで声を出している。


「優奈ちゃん、今日はピンクのダウン着よっか。もうすぐばあば来るよー」

「ばあば!」


単語を少しだけ話せるようになった優奈は、私のお母さんの事が大好きで、なぜかパパよりも早くばあばを習得した。

ちかちゃんの仕事が忙しいのもあるけど、これにはかなりのショックを受けていた。

仕事を減らすと駄々をこねたちかちゃんをなだめるのに苦労したのも、記憶に新しい。


「そぉそぉ、ばあばに会いたいだろ、優奈。服着るよー」


優奈はぷうっと怒りながらも渋々ダウンに手を通す。

ぷくぷくの優奈は誰に似たのか分からないけど、お医者さんに言うと小さい時はこんなものだと言われた。


「ばあば!」

「はいはい、今日はばあばと遊んでてなぁ。おやつもおもちゃもいっぱいあるってよ」

「ばあばー?」

「うんうん。優奈はほんとばあばが好きだなぁ」 


ちかちゃんは根気よく優奈に話し掛けて、わき腹をくすぐって優奈がきゃっきゃっと喜んでいる。

それを見ながら化粧をして、服を着替えて、用意を終えると、ちょうどピンポンと呼び鈴が鳴った。

ちかちゃんが立ち上がって、オートロック解除のボタンと通話ボタンを押す。


「どうぞー」


お母さんはすぐに上がってきて、優奈を受け取ってくれた。


「お母さんごめんね。今日は頼むね」

「お父さんも楽しみにしてるしいいのよ。楽しんでらっしゃい」

「お母さんすみません、お願いします。優奈~、ばあばと遊んでおいで」

「あー? ばあばぁ」


優奈はとぼけた様子ながらも、お母さんに抱きついて離れない。

それに笑いながら、ちかちゃんが優奈の遊び道具をお母さんに渡した。

 

「お母さん、多分迎え行けるの夜遅いっすけど」

「いいわよ。むしろお泊まりしてもいいよねー、優奈ちゃん」

「すんません。じゃあ、また連絡するんで」


お母さんは機嫌よく優奈を連れて出かけて行って、私とちかちゃんも一緒に家を出た。

珍しくスーツなんて着ているちかちゃん。

だけどサラリーマンのスーツと違って、パーティーの用のおしゃれなスーツを着こなしている。

背が高くてほっそりしているからスーツが良く似合う。

今日は一応ホテルでの立食。


高校の同窓会は、高校卒業から初めてのことで、実に八年ぶりになる。

ホテルでの立食だから、私も一応ドレスに羽織りものをして、ちかちゃんと歩く。


私たちも二十六になり、優奈が一歳になった。

最近、結婚適齢期に突入して、結婚式にもよく出席しているから、こういう時のドレスには困らない。

ちかちゃんはとりあえずハットとサングラスをしているけど、やはり目立つのかマンションを出てタクシーに乗り込むまでの間にも、色んな人にじろじろと見られてしまった。


「ちかちゃん、なんか緊張するね」

「久しぶりだしな」

「でも今日ほんとに仕事休めたの? 別に私だけ行っても良かったんだよ?」


そうなのだ。

ちかちゃんは今日のためにわざわざ入っていた仕事をずらしてしまったのだ。


「あぁ? お前一人で行かせられるわけねぇだろうが。矢野祐子ファンクラブが暴走したらどうするんだよ」

「そんなファンクラブないから」

「お前、まじでもうちょっと自覚持てって」


はぁっとため息を吐いたちかちゃん。

呆れたように笑う私のほっぺを軽くつねった後、私の肩にもたれてしまった。

別に眠っていないくせに、べたべたする。

だいたい私が誰かと外で会うとなるといつもこうなるから、多分多少不安に思っているんだろう。


誰も今更、子持ちの奥さんに声なんて掛けないと思うけどね。

独身の可愛い女の子たちもいっぱい来るんだから。

ちかちゃんの手をきゅっと握って、タクシーの運転に身を任せた。

 



――ゆきちかSIDE


会場に着いて、案内を見ながら目当てのホールへと歩く。

綺麗にドレスアップしたゆうこは本当に綺麗で、なんだか憎たらしくなってくる。

どうせまたちやほやされるんだろう。


ゆうこと並んで歩いて、ホールの中に入ると、すでにたくさんの人でいっぱいだった。

結構人来てるんだな。

まぁ二十六歳だし、結婚相手探しに来てる奴も多いんだろうな。

……それか、芸能人の俺目当ても多少はあるか。


うぬぼれるつもりはないけど、会場に入った瞬間、みんなの視線がこっちに集中する。

きゃー! と女性集団から歓声が上がって、いやいやお前ら同じ高校で毎日会ってただろうがと心の中で突っ込みを入れる。

芸能人になってから、一気に自称友達とか自称親友とか増えたしな。

こんなものだろう。


ゆうこは隣で手をちらちらと振っていて、誰にやってんだと視線を追うと、相変わらずの篠宮だった。

ほんとに憎たらしい野郎だ。

風の噂で篠宮が結婚したと聞いたけど、まだゆうこに未練があるんじゃないかと俺は疑っている。

ゆうこは絶対ないよと言って笑うけどな。


ぐるりと会場を見渡すと、男の軍団がゆうこを見て騒いでいる。

そうなるだろうとは思ってたけどな。

ふぅっとため息を吐く。

だけど夫婦でベッタリ一緒にいるのもおかしいだろう。


ここは一つ大人になって、ゆうこに声を掛けた。

 

「あんま無茶すんなよ。帰りたくなったら言いに来いな」

「あ、うん。ちかちゃんもね」


ゆうこは俺にあっさりと手を振ると、篠宮の方に歩いて行った。

あれは元弓道部のアイドル軍団だな。

篠宮とその仲間たちに囲まれたゆうこは、楽しげに談笑をし出した。

俺はそれを見ながら、とりあえず食事を見て回る。


へぇ、なかなかいい食事揃ってんな。

キャビアの乗った生ハムの皿を手にとって、それを食べながら仲の良かった恵子たちと合流した。


「うい、ユキちゃーん」


恵子の軽快な挨拶に、「おう」と返事を返す。

仲間同士の集まりでも何度か会った事があるし。


「ユキ~! 矢野さん連れてきてくれてありがとー!」


スーツ姿の山田が抱きついてきて、引きはがしながら訂正する。


「おい、山田。矢野さんじゃなくて、麻生さんだ。ぼけ」

「……忘れてた。最悪だああああ! 俺の矢野さんがあああ!」

「いつお前の矢野さんになったんだよ」


呆れた顔で突っ込んでも、山田さんはまだ嘆いている。

まぁなぁ。

多分高校の奴ら、俺らが結婚した時びっくりしたよな。


放課後残っていた奴は多少知っていたかもしれないけど、俺とゆうこって全然接点ないように見えただろうからな。

実際みんなの前ではほとんど交流してなかったし。

隠していたわけじゃなかったけど、なんとなく、隠す感じになってたんだよな。


「恵子。もう篠宮はいいのか?」

「あぁー、うん。私も彼氏できたし、篠の事はまぁ好きだけど、もういいかな」


ふうん。

みんなそれぞれ変わっていくらしい。

恵子はかなり篠宮の事引きずってたと思っていたけど、もう高校卒業して八年も経つんだもんな。

そりゃあ、みんな変わって行くわ。


「あ、矢野さんの周り、すごい人だかりだ」

「さすが俺の矢野さんだな」


恵子と山田のイラッとくるトークを聞きながら、ゆうこを探す。

一際人だかりになっている真ん中にいるのだろうというのが分かって、はぁっとため息を吐く。

しかもやはりほとんど男だ。


俳優の俺のところにこの程度で、なんでゆうこがああなんだよ!

この学校、前々からおかしいと思ってたけど、やっぱりどう考えても“矢野祐子”の扱いがおかしすぎんだよ。

……ゆうこの高校時代は神がかっていたからな。


マドンナという言葉だけじゃ表せられないような存在だった。

嫉妬や羨望を通り越して、矢野祐子はもはや別の存在だった。

今考えれば、ほんと俺の事好きだったとか奇跡だよな。まじありえねぇわ。


しばらく会が進み、みんなワインを飲みながら、ビンゴ大会が開催された。

チラリとゆうこの様子を窺うと、相変わらず色んな男にひっきりなしに声を掛けられていた。

まぁ俺だって、ちょいちょい声かかってるけどな。



ビンゴ大会が終わり、同窓会も中だるみになっていた時、事件は起こった。


「ちょちょちょ、ユキちゃん! あそこ見て」


慌てた恵子が近寄ってくる。

胸元がぱっくりと開いた黒のドレスを着た恵子はかなりセクシーで、みんなが目のやりばに困っている。

そんな恵子に腕を引っ張られて、進んで行くと、またもや人だかりが出来ていた。

どうせこの中にゆうこがいるんだろう、見えないけど……。


「恵子、これなに?」

「んー、告白らしいよ。まじ告白」

「誰に」

「あなたの奥さん?」

 「はぁ!? なんで? なんでなんで?」


思わず大きな声が出た。

恵子がけらけらと笑いながら肩を叩いてくる。

俺はイライラしながらも、人ごみをかきわけて中を覗く。

困ったような顔をしたゆうこが、ずれおちたストールを肩にかけ直していた。

ゆうこの左手薬指には、大きなダイヤが乗った指輪が輝く。


向かいには、確かサッカー部だった男。

そういや三年の時、ゆうこと同じクラスの男だったっけな。

俺が近くに寄った事で、野次馬たちはきゃあきゃあと言い始め、サッカー部だった田島という男は、俺に一瞬目をやった。

目が合って、思わず睨んでしまう。

 

告白ってなんだよ。

ゆうこが俺と結婚した事なんて、学校中みんなが知っている事だろうが。


「矢野さんっ」

「……はい」


ゆうこも告白だと気付いているのか、返事はかたい。

顔の表情も硬い。

だから、みんな何回も言わせんなよ、矢野さんじゃなくて、麻生さんなんだよ!


「高校の時、三年間ずっと好きだった! 卒業してもまだ頭から消えなくて。結婚しているのは知ってるけど、気持ちをどうしても伝えたくて!」


ひゅうっと誰かが口笛を吹いた。

わぁわぁと騒ぐかつての同級生たちが憎らしい。

旦那を放ったからしにして、勝手に盛り上がっているバカどもが憎い。


「あの、気持ちは嬉しいです。ありがとう」


ハキハキしている声はスムーズで、とても聞きやすい。

目の前の田島がじわじわと涙を目に溜めていくのを見て、あーあとため息を吐く。

ざまぁみろとはなかなか思えない。

片想いは辛いものだ。

“矢野祐子”を思い続ける事がどれだけしんどい事か、俺は知っている。


「でも私は、麻生くんの事が好きなので、ごめんなさい」


深く頭を下げたゆうこ。

一際歓声は大きくなり、ひゅうっと吹く口笛も増えた。

だけど、俺はぎゅっとスーツの裾を握り締めていた。

心臓が勢いよく脈打って、顔がかぁっと熱くなる。


こういう瞬間にいつも思う。

俺はいつまで経っても、ゆうこに恋している。

 

「そろそろー、同窓会もお開きの時間になってきました。それでは行きましょう! プログラム十番! 麻生夫妻によるご挨拶です!」


「え!?」

「は!?」


ゆうこと俺の声がかぶる。

どうやらゆうこも聞かされていなかったらしい。

幹事はどこのどいつだ。

少し離れた場所で山田と恵子が大爆笑しているのを見つけて、あいつら絶対あとで絞めると決めた。

ゆうこが駆けよってきて、俺に困った顔を見せる。


「ちかちゃん聞いてた?」

「聞いてるかよ」


二人でふうっと息を吐く。

でもどっちにしても、さっきから麻生コールは鳴りやまないし、とりあえず舞台に上がるしかないらしい。

二人で舞台へと歩いて行く。


ステージに上がると、みんなが期待した眼差しで見て来た。

ゆうこと俺の前にそれぞれマイクが置かれて、なんだか夫婦漫才のような変な感じになる。

大量にたかれるフラッシュには仕事柄慣れているけど、それでもやっぱりうっとうしい。


「ゆうこ、なんか喋れ」


ゆうこと呼び捨てにしたのが意外だったのか、きゃあああ! と会場から歓声が上がる。

どうも調子が掴めなくて、ぽりぽりと頬をかくと、ゆうこがマイクを握った。


「えーっと、何も聞かされてなかったので何喋ったらいいのか分からないけど、久しぶりにみんなと出会えてよかったです」


それだけで会場がわぁっと沸く。

ていうか、別に俺ら幹事でもないのになんで挨拶なんだ。


「えっと、私たちの事喋ればいいのかな? 私が麻生くんを好きになったのは高二の時からです」

「……まぁ、俺は高一の時からだったけどな」


周りがざわつく。

みんなが初耳だったようで、苦笑しながらゆうこの声を聞く。


「想いが叶うまで、六年もの歳月がかかったけど、今はとても幸せです。みんなもどうか幸せで。また逢いましょう」


ゆうこのスピーチは相変わらず心にしみ込むものがある。

特に難しくない言葉でも想いが伝わるのは、ゆうこの心がとても清廉だからだ。


「お前ら写真撮るのはいいけどマスコミに流すなよ」


マイクを使って釘を差しておくと、なぜかさらにフラッシュをたかれた。


「矢野さーん」


ステージ下から声がかかって、ゆうこは律儀に「はい」と返事をする。

もうこの際、別に矢野さんでも構わない。

ゆうことか呼ぶやつが出てきてもうっとうしいだけだしな。


「ユキちゃんの事なんて呼んでるのー? 教えてー!」


恵子の質問が会場中に響き渡って、みんなが興味津々で見つめてくる。

まぁ結婚会見でああいう形になったせいで、俺もこの質問をされたのは百回じゃきかないだろう。

雑誌の記者やら事務所の先輩後輩を含め、ほんとに様々な人に聞かれたけど、結局教えていない。


「ごめんね。内緒です」


ゆうこがふふっと笑いながら言うと、山田が持っていたワイングラスをガシャーンと落とした。

「はああん! 矢野さん好きいいい!」と山田が悶えるように叫んでいる。

田島が涙をこらえて、篠宮が穏やかに拍手をして、恵子が山田を見て爆笑した。

変わらないこいつらが懐かしい。


「帰ろ、ちかちゃん」


耳元でぼそりと囁かれて、俺は迷わず頷いた。

ゆうこが行くからここにも来たわけで、正直俺はどっちでもいい。

友達がそんなに多いわけでもないしな。


「じゃあ、みんな俺ら先に抜けるわ。じゃあなー」


マイクで声を出して手を振る。

みんなはブーイングを起こしながらも仲良く見送ってくれた。

ゆうことホテルを出てタクシーに乗り込む。



家に到着すると、優奈がいない部屋はしんと静まりかえっていた。

ゆうこが着替えると言って部屋に入るのを見ながら、自分もスーツを脱いでラフな服に着替える。

ゆうこはワンピースを一枚だけ羽織っている。

優奈がいない状況で二人きりは珍しくて、二人で意味深に目を合わせた。


「する?」


ゆうこの問いかけに、飲んでいた水をぶはっと吐く。


「汚いよ、ちかちゃん」

「はぁ!? お前が悪いんだろうがぁ」

「じゃあ、しないの?」


言葉に困りながらも、このままじゃゆうこがやる気を無くしてしまいそうで、慌てて手を掴んだ。

ゆうこが俺を見上げる。

壁にもたれているゆうこに覆いかぶさって、唇を重ね合わせた。


「するの?」

「……うん、する」


俺の返事にゆうこが妖美に笑う。

そして、一瞬顔を俯かせて頬を赤く染める。

こいつってほんとに小悪魔なのか、照れ屋なのか、どっちなんだろう。

 

「ゆうこ、ベッド行くぞ」

「……ん」


手を引いて寝室へ向かう。

ゆうこがぺたんとベッドの真ん中で座り込むから、俺はその向かいに腰を下ろした。


どちらからでもなくキスを交わす。

触れるだけのキスがだんだんと深くなり、頭がくらくらしてくる。

ゆうこは今日もとても綺麗だった。

眩しいくらい綺麗で、そんな女を今から抱くのかと思うと目が回りそうになる。


「ゆうこ」


ベッドに寝かせてワンピースを脱がせた。

華奢な下着を取り払うと、相変わらず美しい裸体が見えて、それを手でなぞった。

 

「……ちかちゃんっ、んぅ、ん……ちかちゃん」


行為の最中、ゆうこは何度も俺の名前を呼ぶ。

ゆうこしか呼ばない、“ちか”の二文字。


「ゆきちか……っ」


俺には親もいないから、ゆうこしか俺の本名を呼ばない。

それがとても愛おしい。


「ゆうこ、好きだ……っ」


言葉を交わして、愛を貪りあう。

君との世界は変わらず幸せに満ちている。



ゆうことしばらくの間、ベッドで過ごしてから、両親に連絡をとった。

ゆうこの両親だ。

今から迎えに行くと言うと、電話の向こうで優奈が楽しそうに遊ぶ声が聞こえた。


ホッとしながらゆうこと車に乗って、優奈を迎えに行く。

向こうの家に着くと、優奈がお母さんに抱っこされながら出てきて、俺の胸にダイブするように飛び込んで来た。


「……あー、あー、……ぱぁぱーーー」


ぎょっと目を見開く。

ゆうことお母さんもびっくりしているようで、飛び込んで来た優奈を抱えながら涙が込み上げてきた。


「ぱぱー」

「……優奈っ……」


ぐいっと腕で涙を拭う。


「ち、ちかちゃん、泣いてるの?」

「だって、嬉しいだろ。これ」

「ふふ。優奈ちゃん良かったねー、パパ泣いて喜んでるよ」


ゆうこが楽しそうに笑う。

お母さんも嬉しそうにしていて、俺はみっともなくも涙を零した。

優奈が真ん丸の瞳で見上げてくる。

小さな手で俺の肩を掴んで、しがみついてくる。


「お母さん、ありがとね。また優奈連れていくね」

「はいはい。優奈ちゃんまたねー」


お母さんが手を振ると、優奈も嬉しそうに笑った。

優奈を車に乗せて、運転席に乗り込む。


「ちかちゃん、ほら泣きやんでよ」


ゆうこが笑いながらハンカチを渡してきて、それで涙を拭きながらエンジンをかけた。


「優奈って世界一可愛くね?」

「ばあばって呼んだ時は、可愛くねぇ子供だって文句言ってたくせにぃ」

「やっぱりどう考えてもうちの子可愛いわ」

 

ゆうこが呆れたように笑う。

優奈がチャイルドシートに乗りながら、おもちゃで遊んでいる。

俺はやっぱり友達たちとの集まりよりも、こうしてゆうこと優奈と三人でいる時が一番好きだ。

幸せだな、と思う。


「ゆうこ。いつ仕事復帰すんの?」

「んー、優奈可愛いし、もうちょっと家いるかなぁ。なんか離れてるのもったいないし」

「そか」


ゆうこも同じ考えらしい。

車を運転させながら、我が家へと急いだ。


「優奈、家帰ったらパパと――」

「ちかちゃん。優奈寝たから。しっ」

「はえー。よっぽど遊んでもらったんだな」


ふふっと笑うゆうこにちゅっとキスをする。

顔をカッと赤くしたゆうこを確認して、赤から青になった信号を見て車を発進させる。

ずっとこんな日々が続けばいい。

俺にとっての家族はこいつらだけだから、愛しい家族をずっと幸せにしてあげたい。


おわり

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