第8話-ニクト
私は暗い場所が苦手だ。
真っ暗な空間が駄目だ。
夜が恐く感じるのだ。
私の故郷は、森だ。
名前は知らない。
でも、両親と、群れの仲間達と過ごした大切な森だ。
父は私に狩りを教えてくれた。
父は群れの長だった。
私は其れが自慢だった。
母は優しい狼だった。
でも、優しくも強い人だった。
他の雌達からも慕われていた。
私は其れが誇らしかった。
私は両親のように、身体も心も強くなり、いずれは群れの長になるのだと、日々鍛錬に明け暮れていた。
身体は他の雄に比べて小さかった。
でも、其れが何だと言うんだ。
私は、あの両親から産まれた。
その程度で、夢は諦めない。
其程、二人は私の誇りだ。
今でもそう思う。
だからこそ。
だからこそ、許せない。
忘れもしない。
雨がざぁざぁ、と降り続けたあの夜を。
大切な二人を守れなかった、己の弱さを。
私達の群れを、突然襲ったあの人間達を。
余りに唐突にも、人間共は群れを襲った。
夜、獲物も狩り終え眠りにつく狼もたくさん居た。
見張りはいた。
しかし、遠くから一撃で殺された。
森は焼かれた。
火が飛び交う。
魔法なのだろうか。
皮肉にも、綺麗だと思ってしまった、氷の柱が仲間を貫いていた。
怯える子供も、庇う雌も、守ろうとする雄も。
虚しく、殺された。
父は言った。
“母を宜しく”と。
父は人間達を殺しに奔った。
母は私を連れて、逆の道を奔った。
雨の音がする。
ざぁざぁ、ざぁざぁと。
爆発音と怒号が飛び交う隙間で。
ざぁざぁ、ざぁざぁと。
やがて、洞窟に着いた。
獲物を保管していた場所だ。
母は言った。
“先に入っていてね”と。
私は洞窟に入った。
その瞬間、入り口が閉じた。
ビックリした。
突然真っ暗になったから。
母の得意な土の魔法だろうか。
私は叫んだ。
“母様 何故閉めるのです 母様”
母も叫んだ。
“生き延びて”と。
“愛している”と。
母の声は聞こえなくなった。
外で、雷が落ちる音がする。
真っ暗だ。
皆、死んでしまった。
二人は大丈夫だろうか。
抜け出せない。
入り口の土が硬くて出られない。
助けに行きたい。
私は土をかき分ける。
何度も何度も繰り返す。
何度も何度も何度も繰り返す。
何度も何度も何度も何度も繰り返す。
私達が何をしたのだ。
お前達に、何もしていないではないか。
返してくれ。
仲間達を。
返してくれ。
暗い洞窟。
真っ暗な洞窟。
私しか居ない洞窟。
土をかき分ける音の響く、洞窟が。
恐い。恐い。恐い。恐い。
嫌だ。二人を助けなければ。
嫌だ。一人は。
嫌だ。
どれほど経ったのだろう。
洞窟には光が差し込む。
あぁ、やっと、助けに行ける。
遅くなってしまったけど、これで大丈夫だ。
二人と私がいれば。
生き残れるはずだ。
何処にいますか。
父様。母様。
何処にいますか。
何処にいますか。
骸のロンド SHIshi_OdoSHI @SHIshi_OdoSHI
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