番外:川崎涼のシスコン具合 詩織SIDE
「お兄ちゃん、今日って晩ご飯なに?」
「ああ? うーんなんかちらし寿司だって言ってたような気がするけど」
「やった。嬉しいなー。上にいくら乗せてくれるかな?」
「帰ったら頼んでやるよ」
「やったー! お兄ちゃん大好き!」
お兄ちゃんと2人でマルゴのソファでお話し中。
春香とナツくんはまだ用事でこっちに来ていないみたいだし、巧は来る気配すらない。
「かゆーい。お兄ちゃん蚊に刺された。すっごいかゆいんだけど」
お兄ちゃんに刺されて赤くなっている足を見せると、テレビを見ていた目を逸らして私の足をまじまじと見つめた。
そして、ふわっと花が咲くように微笑むと、私の足を持ってソファの上に乗せてくれた。
「足そこ置いとけ。今ムヒ塗ってやるから」
そう言って立ち上がったお兄ちゃんは、引出しの中からかゆみ止めを取り出してきた。
マルゴってほんと万能だ、何でもあるんだなぁ。
「やっぱしみるー」
「大丈夫か? ゆっくりやったつもりだったけど悪かったな」
痛いし、やっぱちょっとしみる。
塗り終えると、任務を遂行したと思ったのか、かゆみ止めを元の位置に戻してテレビをまた見始めた。
暇……暇なんですけど。
ナツくんも春香も来ないし、巧は連絡もないし!
もう!
「お兄ちゃん。暇~」
「ああ? なんかてきとうに遊んどけよ」
お兄ちゃんって結構冷たいよね。
兄妹なんだから、いつだって優しいってわけじゃないんだけどさぁ。
「春香にはそんな事言わないくせに~ばか~」
頬を膨らませてお兄ちゃんの腕をつんつんとつつくと、にやっとした笑いでこっちを振り向いた。
「なんだ、詩織。やきもちか?」
「別に違うもん。私は巧一筋だもん!」
「ふーん。そんな可愛くない事言う奴には遊んであげねぇー」
「えぇーうそうそ。お兄ちゃんの事好きだから、遊んで」
「おっ、素直になった。お前分かりやすいなぁ」
頭をよしよしと撫でてくれるお兄ちゃんに、少しの間目を閉じながら鼻歌を歌う。
「お兄ちゃんって告白されたりとかすんの?」
「ああー……まぁ、たまに。春香と付き合ってる事知らねぇからフリーと思ってんだろな」
「やっぱされちゃうよねぇ。かっこいいもんねー」
「そんなすごい事じゃねぇよ。ナツも巧もよくされてるぞ」
「今さら驚かないけど、ちょっとショックー。巧はどうせうまい事言ってんだろうなぁ」
「でもあいつもお前と付き合いだしてから、だいぶ変わったんじゃね?」
お兄ちゃんが私の膨れた頬をつんつんと指差して、空気を抜いて遊んでる。
空気を抜かれたとたん、私がまた膨らますもんだから、ツボにハマったのかげらげらと笑いながらそれを何度も繰り返してくる。
「それより、お前はどうなんだよ。告られてんのか?」
「うーんどうだろ。私も巧と付き合ってる事内緒にしてるからかな。今日告られちゃったよ」
「ああ?! 誰だよ、そいつ」
わあー予想通り、怒ってる。
お兄ちゃんっていつまでこの過保護な感じ続けるのかな。
「違うクラスの男の子。何回か喋ったらしいんだけど、私はあんまり覚えてなくて、名前が出てこなくて困ったよ」
「むかつく。俺の妹をそういう対象で見やがって。殺してやりてぇ」
なんでそんなに話が飛ぶんだろ。
妹に告って殺されたんじゃ、報われないよね。
「でもちゃんと断ったから大丈夫だよ。巧にも心配掛けるから言わないし」
「俺にだけ言ってきたって事は俺にそいつを殴ってほしいって事だろ?名前とクラス教えろ」
えぇ!?
なんでそうなるの?
「違うよ! お兄ちゃん。お兄ちゃんにちょっと自慢しようと思っただけ。自慢できるのは家族だけしかできないから言っただけだよ」
お兄ちゃんはバツが悪そうな顔で私を見ると、ほっぺをぐいっとつまんできた。
「詩織の癖に生意気なやつめ。自慢してもいいけど、その男の命はないと思えよ」
………じゃあ、もうしません。
お兄ちゃんの馬鹿。
「詩織。肩こった。肩たたいて」
「いいよー。後で私の腰ももんでね」
「はいはい」
背中を向けたお兄ちゃんの肩をぽんぽんと叩いて行く。
「ああ、気持ちいい。最近勉強してたら肩こってよ」
「お兄ちゃん勉強なんかしてんの?」
「まぁーこのまま大学持ちあがりで行きたいからな。学校のテストくらいいい点とっとかねぇと」
「そっかぁ。もう大学生だもんねぇー学校寂しくなるなぁ」
「春香がいるからいいんじゃねぇの?」
「うんそうだけど、巧に学校で会えないのは寂しい」
そう言うと、お兄ちゃんはまたカチンと来たらしく、ぐるんと私の方へ振り返った。
そして、頬を両手でつまんで私の頬を両脇にぐいぐいと伸ばして、怒ってきた。
「お前は巧、巧って。いい加減にしろや。俺の事じゃねぇのかよ」
「違うよぉ。お兄ちゃんなんて毎日会えるもん」
「巧だって毎日会えるだろうが。毎日毎日夜遅くまで電話しやがって」
「いいじゃーん。お兄ちゃんは春香とどうなの?」
「別に普通」
「うわっそんなんじゃ今時モテないよ~クールの時代は終わったよぉ?」
「うっせー詩織。黙れ。ほらお前うつぶせになれ。腰痛いんだろ?」
「痛い。早くもんで」
長ソファにうつぶせになると、お兄ちゃんがその上をまたいでくる。
そして、お尻の上に腰を下ろすと、両手で腰のあたりをぐっぐっと押してくれる。
「ああー…やば」
「何がだよ」
「ん? 気持ちいい。あっ…でもちょっと痛い」
「ここか? それともこっちか?」
「んーもうちょっと……。あっ。そこっ! ああっ気持ちい~」
「お前結構きてんなぁー」
「だって、お兄ちゃんうまいんだもん。なんでそんなうまいの」
「さあ、いつも春香にやってるからじゃね?」
「そうなんだ。仲良し~ああ、気持ちいっ」
お兄ちゃんに腰をマッサージしてもらっていると、すごい勢いで扉が開かれた。
バンっと今までにないくらい大きな音を立てて、開けられたドアにはなぜか巧と春香とナツくんがすごい血走った様子で部屋の中を見渡していた。
ん?
え?
私とお兄ちゃんがドアの方へ振り返って不思議な顔をしていると、3人も唖然とした顔でこっちをじっと見ていた。
なに?
なに?
「………………あれ?」
巧がまぬけな声を出すと、また動きを止めてしまった。
「まぁ、そんなわけないよ。詩織がそんな事するわけない」
「ナツ兄。私、泣くかと思った……」
「春香が泣いたら俺が涼蹴飛ばしてあげるから」
「ナツ兄のくせに生意気……」
柾木兄妹が2人で何かぼそぼそと、私たちに聞こえないように言い合いをしている。
もう、3人してなに?
「しお……俺、もうやだ。お前人前でそんな声出さないで」
巧何言ってんだろ。
「そういう事か。お前ら馬鹿じゃねぇの? そんなわけねぇだろうが。普通に考えたら分かるだろ」
お兄ちゃんが怒ったように、3人を白々しい目でじとっと睨みつける。
「ねぇ! 私にもどういう事か教えて! お兄ちゃん」
「お前は知らねぇ方がいい。こんな馬鹿な奴らの考え」
そう言うと、巧が上に乗っかってたお兄ちゃんの腕をぐいっと引っ張って、変わらず私の上に乗っていたお兄ちゃんを無理やりどかした。
そして、私の腕を引っ張ると、部屋からぐいぐいと連れ出してしまった。
「巧? どうしたの? なんか怒ってる?」
マンションの廊下をずんずんと歩いて行ってしまう巧の様子をうかがうけど、口を真一文字に閉じて、目は吊り上げて怒ってるように見える。
なに?
なんか嫌われるようなことした?
そして、エントランスまで連れて行かれると、ぎゅっと抱きしめられた。
「巧。どうしたの? ひゃっ。……巧どうしたの? なんか当たってるんですけど……」
「しおの声で反応しちゃった……。今日泊まりにおいでよ」
へ?
「泊まりに行くのは別にいいけど、私の声?」
「しおのくせにエロすぎ……責任取ってよ」
「…………?」
巧はそう言って、私の鈍感さにしょんぼりしてみせると、私を抱きしめたままなかなか離してくれなかった。
「……俺ん家ほんとに泊まりに来る?」
「うん行く。巧と一緒に寝る」
「じゃあ詩織ママとパパに言いに行こ」
「パパ怒るかもだけどねぇ~」
「そこは俺に任せなさい。頑張ります」
―――一方、マルゴの3人は……。
「馬鹿らし。詩織いなくなったし、銀竜にでも行ってこよ。じゃあねー」
呆れたようにマルゴを出て行くナツに黙って手を振る涼と春香。
ドアが閉まったのを確認して、春香が涼に近づいて行く。
「涼ちんのばか」
「なに。春香。お前またやきもち妬いてんの?」
「だってぇー…」
「おいで。詩織とは何でもなかっただろ? お前の事はほんとに鳴かしてやる」
「ここではやだ」
「じゃあ、外出るぞ。ほら、手」
涼に差し出された手を嬉しそうに掴む春香。
「涼ちん。今日はどこのホテル行く~?」
「うーんてきとう」
2人は仲良く夜の街に出かけていきました。
結局詩織の声に煽られてやる気になってしまった巧と涼と春香でした。
おわり
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