番外:巧と詩織のデート 巧SIDE

今日はしおと映画館に来ている。

しおが見たいと言った犬のほのぼの映画。

動物好きなのは可愛いと思うし、いいんだけど。

俺も猫より犬派だし。


「ねぇーもうすぐ始まる?」

「うんもうすぐ始まるよ。だから、はい」


そう言って、しおとの座席の間の肘掛に手を開いて乗せる。


「え? なに?」


しおが分かってないみたいで、首をかしげて俺を見る。

かーわいい。


「ほら、手貸してー」


手をパクパクと閉じたり開いたりしてアピールしてみる。

しおはそれを見て、頬を赤らめるとおずおずと手を出してきた。

それをぎゅっと掴んで、ひじ掛けに2つの手を戻す。


「しお。はいポップコーン。キャラメル味」


俺が買っておいたポップコーンをしおの口にどんどん入れていく。

それを笑いながら受け止めるしおの口は、もうポップコーンが入らないくらいいっぱいだ。


「ほお! ひゃへへよー!」

「ん? なに?」


含んだように笑ってやると、繋いだ手を上に上げてバシンとひじ掛けに叩きつけられた。

口を必死でもぐもぐしているしおをじっと眺めてやる。

やっと食べ終わったのか怒ったように口を膨らますと、さっき言いたかったんだろう言葉を口にした。


「だから、やめてって言ったのー。ほんと意地悪なんだから」

「しおには意地悪したくなるんだよ。ごめんね」

「もうばか」


ぷんっと怒ってるくせに、繋いだ手は離そうとしない辺りが可愛いんだけど。

場内の照明が落とされて暗くなった時点で、しおは前だけを向いて黙ってしまった。


ポップコーンを口に入れてやると、黙って口を開けたけど、そろそろ怒りそうだからやめておいた。

お母さん犬と子犬の愛の物語のような映画だけど、しおはかなり熱中してるらしくまばたきも惜しむかのように、画面に釘づけなっている。

可愛いな、まじで。

俺は映画もそこそこにしおの熱中している様子をじっと眺めていた。

映画としおを半々くらいのペースかな。

ストーリー全然頭に入ってこないけど、しお見てる方が楽しいから別にいい。


今まで産まれた時から、毎日のように見てるしおなんだから、もう飽きてもいいはずなのに。

ナツとか涼は飽きてるんだけどなぁ。

涼に言ったら、俺も飽きてる! って怒られそうだけど。


しおは常にころころ表情が変わるし、やっぱり好きだからなのかいくら見ても飽きることはない。

かーわいいな。

しおに触りたくなって、今日は下ろしてある髪をさわさわと触る。


チラッと見ただけで、しおはまた画面に視線を戻した。

別に触ることに文句はないらしい。

俺と同じ色のふわふわの髪を柔らかく触れる。

しおがこの色にしたって言って俺に見せに来た時、しおは俺の事好きなのかな? ってちょっと思っちゃったんだよね。


一瞬で自分の中で否定したけど。

でも、今思えばあの時信じてれば良かったのかもな。


まぁ、別に今からずっと恋人なわけだし、幼なじみ期間が少しくらい長くなったっていいんだけど。

結局一緒にいるわけだし。

髪だけじゃ足らなくなった俺は、首に手をひたっと当てる。

それにビクッとするしおを眺めながら、首をするすると撫でる。

首を傾げるようにしてくすぐったがるしおを眺める。


もうほとんど映画は見てない。

しおが怒ったようにこっちを見たから、それでやめておいた。

しおに本気で怒られたら嫌だしねー。


映画が終わると、しおはなぜか涙を流していて、意味は分かんなかったけどそれを親指でぬぐってやった。

すぐ感動するんだよな。

エンディングの曲が流れ終わるまで席を立たなかったしおに従って、大人しく画面を見ていた。


曲が終わって場内が明るくなると、立ち上がって繋いでいた手を引っ張った。

つられて立ち上がったしおは俺を見てにっこり笑った。


「おもしろかったねー。もう何であんな可愛いんだろ。やばいよねっ私も犬欲しくなっちゃったよ。ほんと可愛いー」

「しおの方が可愛いよ」


犬も可愛かったけど、それを必死で話してるしおがもっと可愛い。

俺のその言葉にいつも明らかに見えるように反応してくれるしお。


「もう巧はほんと調子いいんだから」


俺の腕をパシンと叩いて歩きだすしおの手を引いて、俺も歩く。


「次どこ行きたい?」

「うーんじゃあご飯食べてマルゴ戻ろ。もう外も暗くなってるし、ちょうど9時頃になると思うし」


映画館を出ると、いつの間にか日は沈んでたみたいで、ちょうど晩飯時のようだった。


「ご飯は何食べたい?」

「うーん巧の好きなものでいいよぉ。私いつも悩んで決められないし」

「じゃあパスタでも行くか?ちょうどこの下にパスタの店あったしうまそうだったけど」

「あっそうする! カルボナーラが食べたい」

「そう? じゃあそうしよ」


しおが腕に絡みついてきたから、それに微笑んで店まで歩いて行く。

今まではこんな風にしおと歩くなんて考えられなかったのにな。

一生ないって思ってたのに。


これだけ我慢したからか、さらにしおが愛しく思えて仕方ない。

大事すぎて、どうしようかと思うくらいに。


パスタを食べて、バイクに乗ってマンションに戻った。

時間はちょうど9時くらいになっていて、もうマルゴにはナツも涼も春香も来てるだろう。


駐輪場からはエントランスホールを通ることになっているけど、このマンションはそんなに数も多くないから通る人はあまりいない。

少数しかいないからか高い家賃を取っているし、セキュリティもばっちり。


ブラックパレスなんて名前、親父の考えそうなやらしい名前だ。

どう見ても、マンションの名前じゃねぇだろ。


「しお、ちょっとおいで」


エントランスに入ってから、死角になっている端にまで手を引いて連れていく。

それに黙って着いてくるしおは、不審がることもなく、黙って着いてくる。


端にまで連れて行くと、しおと向かい合わせになって、手を繋いでいない方の手で頬を撫でる。

それを堪能するかのように俺の顔をじっと見ていたしおは、しばらくして目をつぶった。

目つぶっちゃって可愛いの。


それを少しの間見つめると、顔をすっと近づける。


「……しお」


声をかけながら唇を重ねると、応えるように唇を合わせてくれる。

少しの間、唇だけを合わせて、それから舌で唇を割って口内に侵入する。


デートをした後、マルゴに行くまでに、エントランスでこうやってキスをするのはもう恒例のようなものかもしれない。

だって、マルゴに行った後はもう2人になるきっかけあんまりないし。

涼とナツが2人になるのを邪魔しようとしやがるから、コンビニにも誰か着いてきたりするし。


「んっ………ふぅ…」


キスをすると、声を洩らすしおがどうしようもなく俺を煽る。

いつまで経っても慣れないのか、必死についてきながら声をあげる。


「………詩織」

「んぅ……たくみぃ」

「まじ可愛い」


何度も唇を離してはまた重ねてを何度も繰り返して、しおを味わう。


「巧………もう行かないと」


息も絶え絶えと言った様子で、キスの合間に伝えてくる。

でもその荒くなった息がまた可愛くて、まだ止める事ができない。


「……もうちょっとだけ」


そう言って、しおを抱きしめてぎゅーっと胸の中に閉じ込める。

俺とのデートのためにおしゃれをしたんだろうしおが可愛くて仕方ない。


小さい頃から見てるなら、妹みたいなものじゃないの?って聞かれたりもするけど、それとは違うんだよ。

確かに兄妹のように育ってきたけど、やっぱり気持ちが違うからか俺の感覚の中では妹ではない。


幼なじみから彼女になった途端、また別の存在になったように見方も扱い方も変わった。

前よりも傷付けないように必死だし、俺のそばにずっといてもらえるように頑張っていたりもする。

一生離したくない俺の唯一の人だから。

一生かけて、全力かけて、幸せにすると誓うよ。


「そろそろ行こっか。涼だけじゃなくて、ナツにも冷たい目で見られそうだし」


抱きしめながら話すそれは、説得力はないけど、しおはくすくすと面白そうに笑っている。


「うん。私は春香にまたにやにや笑われるから」


お互い少し笑い合って、マルゴへと手を繋いで歩いて行く。

マルゴに着くと、やっぱり3人はいて、なぜか3人で卓球をしていた。


「おかえりー! ちょっと遅かったね」


やっぱりしおの言った通り、春香はからかうようににやにやしながら俺としおを交互に見てくる。

それでも卓球をしながらだから、そっちに集中しているけど。


「詩織ー早くこっち入って。俺1人じゃ無理」


そりゃ無理だわ。

片方は春香と涼でやってんのに、片方はナツ1人でやってるし。

こりゃまたこのカップルにいじめられてんな。


「よーし! じゃあ私がやる! ……お兄ちゃん手加減してよね」


張り切って腕まくりをしたしおは、涼にパチッとわざとらしくウインクすると、位置についた。


「………お、おぉ」


あーあ。

すっかり涼骨抜きだわ。

妹には甘いんだから。

こりゃみんなが勘違いしても仕方ないよな。


「涼ちん!!」


春香にキッと睨まれて、涼はおずおずと卓球台にかまえた。

最近、春香が文句を言うようになったから涼も立場ねぇなぁ。

俺は面白いからいいけど。


「しお。頑張れよ」


声をかけると、しおはにこっと笑ってこっちを見た。


「巧のために頑張るよぉ!」


意味分かんないけど、嬉しいことを言ってくれてるからよしとしよう。


「詩織ー。普通は一緒に闘う俺のために頑張らない?」


ナツが少し呆れたように声を零す。


「おい、詩織。巧は長い時間見たら病気になるからあんま見んな」


何の根拠もないかなり失礼なことをしおに告げ口する涼。


「えぇー。もう2人とも黙って卓球するよぉ」


しおがいましめて、ようやく卓球が開催された。


「―――こらっ涼ちん今手抜いたでしょ!」

「ぬ、抜いてねぇよ」


しおと2人の時間も好きだけど、こうやっていつもの5人でマルゴにいる時間も捨てがたい。

やっぱりこいつらもずっと一緒にいたから、愛着も沸く。

この調子でずっと仲良くやっていければいい。

形を変えて、仕事の愚痴を言いながら酒を飲むとかでもいいし。

歳をとってもこうやって集まれればいい。

そんな風にこれからもやっていきたいと思う。


5人でいる時は、しおも楽しそうだから。

一生そんな詩織が見ていたい。


おわり


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