女たらしの巧の行方
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
君が幸せそうに
2人を眺めたから
俺もそれでいいかって
思ってしまった。
涼
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
次の日、学校の5限が終わっても巧は来ていないようだった。
やっぱり来ないんだ。
今日は6限までの授業だから後一時間で、学校は終わる。
でも、5限の現代文の授業の最中に、メッセージ受信を知らせる携帯がスカート中で震動した。
先生にバレないように、こっそり机の下で見ると、巧からだった。
『学校が終わったら、バイク置場においで』
それだけの短い文章。
でも、それを握りしめたい気持ちにさせるほど、私は巧に会いたかった。
早く学校が終わらないかと時計ばっかり見つめた。
1年くらいに感じられた残りの授業が終わると、春香に先に帰ると伝えて学校を飛び出した。
すごく早く教室を出たつもりだったけど、何人かはもう学校から出ていた。
校舎から校門までの道を早歩きで生徒を避けながら歩く。
でも、歩くうちに校門の前に人だかりがある事に気付いた。
なに?
人だかりって巧?
それは近付くうちに声まで聞こえてきた。
「巧さん! 学校来てたんですか?」
「私服もかっこいいです!」
「私達と遊びに行きませんか!?」
色んな歓声が聞こえて、巧が囲まれてるんだとすぐに気付く。
でも、いつもと違う言葉も聞こえてくる。
「なんで今日は喋ってくれないんですか?」
「機嫌悪いんですか?」
「巧さん何かあったんですか?」
察するに、何も言葉を発しない巧に、女の子たちが不審がってるらしい。
巧、なんで喋ってないの?
いつもは、お得意の営業トークで女の子をうまくあしらってるのに。
「ごめん。どいてくれる? 俺、今から彼女に会いに行くから」
女の子ばかりの中で、低い甘い声が聞こえてドキッと心臓が跳ね上がる。
巧だ。
その言葉に女の子たちは分かりやすく顔を歪めてから、すごく驚いた顔になった。
「えぇー! 巧さん彼女いるんですか!?」
「彼女いたなんて知らなかったんですけど!」
女の子たちはものすごく不満らしく、巧にさえも突っかかっていきそうな雰囲気だ。
「昨日できたんだ。すっごい可愛い子。ついてこないでね」
そう言うと、巧は女の子の輪からすんなりと出て、歩いて行ってしまった。
後ろをつけようかと話していた女の子たちもいたけど、ショックを隠しきれないみたいで、みんな立ちつくしたまま、巧をぼーっと見ていた。
巧だから、お兄ちゃんみたいに無視したり、ナツくんみたいに拒絶したりって事はないけど、明らかいつもと対応が違っていた。
昨日、私やお兄ちゃんに言った事を実行してくれているんだ。
もう他の女の子には優しくしないって言ってくれたから。
それは、私が悲しむからそうしているのか、もう女の子と仲良く喋る必要がなくなったからそうしているのかは分からないけど、どっちにしても嬉しいと思った。
他の女の子たちには悪いけれど、すごく幸せで、巧の後をこっそり追いかけた。
その秘密な感じが、余計にドキドキさせた。
「巧!!」
いつもの裏道のバイク置場に着くと、巧がバイクに跨ってぼーっとしていた。
私の声にゆるやかに振り返った巧は、さっきまでの事がなかったかのようににこやかに笑ってみせた。
「お疲れさん」
「迎えに来てくれたの?」
「うん。学校まで迎えに行こうかと思って、1回学校の中に入ったんだけど、俺と接触してまたしおがいじめられたらダメだから、大人しく出てきた」
喋りながら、私に専用ヘルメットを渡してくれるから、それを受け取って巧の後ろに跨った。
「行き先は俺ん家になっちゃうけど大丈夫?」
ヘルメットをかぶった私の顔を振り返って、聞いてくる。
巧の本心を窺おうと思って、顔をじっと見るけど、少しちゃらけたような微笑みからは何も分からなかった。
「うん、いいよ」
ポツリとそう言うと、満足そうに前を向いて私の手を腰に回させると、バイクを出した。
ああ、どうしよーう……。
巧とそうなる事が嫌なわけじゃもちろんない。
だけど、昨日の今日だし、心の準備とかができてない。
でもね。
本当は巧にもっとギュッとしてもらったり、甘い言葉をもらったり、たくさんキスしてもらったりしたいなぁってほんのり思ってたりするんだ。
兄弟みたいに小さい時から育ってきたから、今更こんな関係になって少し気恥ずかしい気持ちはあるけど、巧は全くそんな事思ってなさそうだし。
普通の彼女みたいに、幼なじみだなんて事忘れたかのように、甘く扱ってくれる。
それが嬉しくて、ドキドキしてしょうがない。
学校から5分ほど着いてしまう巧の家にはあまりにも早く着いた。
考え事をしていたからか、バイクに乗っていた時間なんてほとんどなかったかのように感じた。
川崎家の大きな家に着いた。
おばあちゃんとおじいちゃんも住んでるから、私も何度も来た事がある。
ブラックパレスの隣の大きな家。
入口にいくつも防犯カメラと警備会社のセンサーがついてるお家。
そこを普通にくぐりぬけて、玄関までつくとバイクを止めて私を下ろしてくれた。
「おいで」
私の手を引いて、家の大きな扉を開けて中に入って行く。
「おじゃましまぁす」
家の中には、家族だけじゃなくて組のメンバーの人もいるみたいで、強面のお兄さんたちが何度も巧に挨拶をしてくる。
ぺこっと頭を下げるだけで通り過ぎる巧に手を引かれて、ずんずんと歩いて行く。
向こうから3人を引き連れた巧のパパが視界に映る。
「あ、巧のパパ」
そう言った私に反応して、巧が巧パパをじっと見る。
「おっ詩織ちゃん! よく来たねー! なに? 今日は巧と2人?」
「こんにちは。そうです今日は2人です」
「ふーーーーーーーーん。おい巧。よくやったな」
巧パパが何か思いっきり含んだ笑いをしながら、巧の肩をこづいてる。
「うっさいよ。引っ込んでて」
冷たくそう言うと、巧はパパを無視して歩いて行く。
巧のパパは巧以上に軽い雰囲気だよなぁ。
巧と似てるけど、あの軽さ加減はなかなか真似できるものじゃないよね。
黒竜会の組長なのに、あのギャップは今でもおかしいと思うもん。
巧の部屋について、押すタイプの扉を開けて中に入る。
和風の家なのに、巧の部屋はベッドとテーブルなどが置かれた普通の男の子の部屋だ。
私の部屋よりはかなり広いけど。
「何かおやつ持ってくるからそこ座って待ってて」
私をソファに座らせて、部屋を出て行ってしまった巧。
出て行ったのを確認してから、部屋をきょろきょろと見渡す。
黒とグレーで彩られているその部屋は、シンプルでベッドに思わず目が行ってしまう。
はぁー、ほんとどうしよう。
巧がトレーにジュースとお菓子をたくさん持ってきてくれた。
それをテーブルに置いて、私の隣に腰かける。
ソファに隣で座っているせいで、腕と腕が密着していてそこが気になって仕方ない。
マルゴでそうなってる時は何も感じなかったのになぁ。
「今日学校はどうだった?」
「うーん何もなかったよ。普通」
「そか。なら良かった」
あまりにも会話が普通すぎて、気が抜ける。
「今日なんでここに呼んだの?」
「んー?」
そう言って言葉を止めた巧を不思議に思って、チラッと横を見る。
私をじっと見ていた巧が視界に入った瞬間、吸い込まれるように顔が近付いてきた。
唇が重なって少しして離される。
「しおと2人になりたかっただけだよ」
近付いてるせいか、耳元で話される言葉にゾクっと体が震える。
「マルゴでは2人になれないもんね」
「そういう事」
そう言って、私の膝の上に頭をゆっくり下ろした巧は、膝枕の状態で私の顔を下から見上げた。
「巧って意外に甘えんぼなの?」
「分かんない。けどそうなのかな」
そう言ったまま、私の腰に両手をぐっと回して抱きしめると、お腹に顔を埋めた。
「お腹くすぐったいよ」
「んー。もうちょっとだけ」
そう言う巧の頭をさらっと撫でて、ジュースを飲む。
「しお」
「なに?」
「ほんとに俺のものになってくれんの?」
今更な事を聞いてくる巧に少し首を傾げる。
でも、きっと巧はそれほど私の想いが意外だったんだろう。
「そうだよ。私巧と結婚したいんだもん」
巧が弱気だから、強くそう告げる。
お腹に顔を埋めながら肩を少しビクッと震わせた巧が起き上がってくる。
起き上がった後、そのまま私の両頬を掴んで私の顔を眺めると、幸せそうに笑った。
「それ。叶えてあげるよ、絶対」
また唇が重なった。
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