シスコンお兄ちゃん

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°

やっと

君を手に入れたんだ。

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°


マルゴに入ると、ドキドキしている心臓とは反比例するかのように、あまりにも普通の光景だった。

お兄ちゃんと春香が2人でソファに座っていて、その向かいにナツくんが座って3人で仲良く喋っていた。

あまりにも普通な会話をしていて、それが何だか異常な気がして仕方がなかった。

でもすぐに、ナツくんは私と巧の事をまだお兄ちゃんたちに伝えてないんだと気付いた。


きっと、自分たちで言うように、内緒にしてくれてるんだ。

でも、巧に手を引かれて部屋に入った私たちに3人の視線が一斉に向けられる。


「あ、詩織来た。巧もだ。って、………え?」


春香があからさまに驚いて見せると、お兄ちゃんも呆然とこっちを見ている。

私と巧が手を繋いでいるのを2人は凝視している。


「詩織? え? 巧? どうして?」


春香は状況が飲みこめないのか、少しの間私と巧を見てから、パッとナツくんを見た。

ナツくんはそんな妹に頷きながら、にこっと笑って見せた。


それに春香は悲しそうに顔を歪めてから、私に視線を移して幸せそうに笑ってくれた。

分かってるよ、春香の複雑な気持ち。

春香が兄のナツくんの事大好きなのも知ってるから。


「お前ら、なに。説明」


はあー、やっぱりお兄ちゃんは怒ってるよぉ。

入った時点でお兄ちゃんの視線が痛いのは気付いてたんだけどね。


「あのね、お兄ちゃん! 私、巧と……」


それに黙ってと言うように、私の唇に巧の人差し指があてられる。


「……巧?」


私を後ろにして、巧が一歩前に出る。


「涼。俺しおの事絶対大事にするから認めてくれ」


巧を鋭く睨むように見ていたお兄ちゃんは、依然強い眼差しをやめる事はない。

春香がお兄ちゃんの手をぎゅっと握るのが、目の端に映った。


「本当に大事にできるんだろうな」

「うん。絶対にしてみせるよ」

「お前、他の女にも今までと同じ態度だったら、許さねぇからな」

「分かってるよ。もう他の女の子には優しくしない」

「巧……」

「なに?」

「詩織の事泣かせたら、俺がお前殺すからな」


そう言ってそっぽ向いてしまったお兄ちゃん。

もうお兄ちゃん。

ありがとう。

認めてくれたんだよね、それは。

あれだけ巧はやめろって毎日口癖のように言ってたのに、ちゃんと認めてくれたんだね。


「涼さんきゅ」

「…………ああ」

「詩織は俺がこれからは守っていくよ」

「………ああ」

「今日からお兄ちゃんって呼ばせてもらうな」

「…………ああ。……あぁ!!!?」


それにあからさまに怒って、巧を振り返ったお兄ちゃんに、みんなで声をあげて笑う。

いつもと変わらない光景なのに、みんなには見えないように巧の後ろ手には私の手がしっかりと握られている。

それがすごく幸せで、その手を痛いくらいに握りしめる事で心の中は精一杯だった。


5人で1時間ほど普通にお喋りをすると、巧が私の腕を引いてコンビニに行ってくるって言ってマルゴから連れ出した。


「何か食べたいの?」


手を繋いでマンションの廊下を歩きながら、隣を歩く巧に尋ねる。

私の顔を見て、少し申し訳なさそうに眉をしかめてから困ったように笑った。


「しおと2人になりたくて我慢できなかっただけだよ。邪魔されたくない」


そう言うと、私の手をこれでもかってくらいきつく握る巧は本当に可愛くて、かっこよくて。

そのまま、私は何も言えないまま、動揺を悟られないように前を向いて歩くことでいっぱいいっぱいだった。


コンビニに行っても、お腹が大してすいていたわけでもなかったからお菓子ばっかりをかごに入れた。

巧が袋を片手で持って、やっぱり手を繋いで帰る。


「しお。詩織ー。詩織ちゃん」

「なに? どうしたの?」

「呼んでみただけ」


そう言って、私の頬を軽くつまむ巧。


「何それー。あっ巧明日学校来る?」

「んー……来てほしい?」

「うん来れるなら来てほしいけど」


私がそう言うと、こっちを見て妖美に笑ってみせると、そのままその話題には触れなかった。

でも、いつも私が学校に来てって言うと、明日は銀竜だよーとかちょっと用事あるわーとか誤魔化してたのに。


何だか全てにおいて、巧の対応が優しく、特別になった気がした。

それだけで嬉しくて、明日学校に来ても来なくても別にいいやって思えた。


「着いたー!」


マルゴに着いて鍵を開けようと鞄の中を探る。


「俺今日は帰るわ。まだ銀竜に顔出してないし、ちょっとだけ覗いてくる」

「えぇー行くのぉ?」


あからさまに嫌そうな反応をした私の頭を慰めるように撫でてくれる。


「ごめんね。寝る前に電話かメッセージしてよ。待ってるから」

「うん。分かった」

「何嬉しそうな顔してんの? しおちゃん」

「何でもないよ! ばか」

「そ? 明日学校終わったら俺ん家おいで」


最後のところを耳に近づいて小声で囁くように言われた。

体からぷしゅーっと音が鳴りそうな気がした。

それに口をパクパクとさせたまま、巧をじっと見ていると、食むようなキスを数秒されてうなじを柔らかく撫でられた。


ドキドキが止まらなくて、それはキスをしたからなのか、巧の爆弾発言のせいなのかは分からなかったけど。

そのまま、顔を真っ赤にさせた私を置いて、巧は優雅に歩いて行ってしまった。


それを廊下を曲がって見えなくなるまで、ぼーっと見続けた。

明日家に来いって言った!?

もちろん行ったことはあるし、巧の部屋に入った事もある。

でも、それは春香もお兄ちゃんもナツくんもいたし。


巧の家は大きいから、部屋に入ったら周りに人はほとんど通らないし、巧のママやパパは入ってくることもない。


え? え?

どういう事?

やっぱりそういう事?

ああ、もうどうしよう。


そのあと、マルゴに入った私はすっかり上の空で、ナツくんとお兄ちゃんに不審がられた。

春香だけは何か含んだように私を見て笑ってきた。


それに頬を膨らませてから泣きまねをすると、春香がげらげらと声をあげて笑ってきたから、少し緊張が落ち着いた。

私の嫌がる事は絶対にしない巧だから、不安に思わないでおこうと心に決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る