女たらしと甘いよる
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
世界で一番
幸せな夜は
君がくれた。
詩織
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
「巧……本当に私が好きなの?」
「まだ信じられない?」
「だって……」
「ん? だって……なに?」
巧の声が甘い。
それがなんだか慣れているようでムッとする。
「私だけじゃなくて、色んな女の子に優しいもん……。嫌だった」
巧の胸を手でパッと押して、抱きあっている体を離す。
少しの抵抗のつもりで。
背の高い巧の顔をじっと見つめる。
頬を膨らませて、怒っているのを伝えるように。
「ああー……あれは、しおの事これ以上好きにならないように。しおだけと接してると、頭がおかしくなりそうだったから」
「頭がおかしくなりそうって失礼じゃない?」
「違うよ。しおが好きで、好きで、これ以上俺の中に入ってこられると、俺きっと泣いちゃってたもん」
なにそれ。
可愛いから、許しちゃう。
なんかキュンってきて、愛しくて、もういいかって思っちゃうじゃん。
「理由になってないよー…」
それでも、私はまだ不満なのか欲張りになってわがままを言ってしまう。
でも、それをわがままを思わずに、巧は困ったように弁解してくれる。
「えぇ? だって、しおへの気持ちを紛らわせるには女の子と接するしかなかったんだよ。それに、涼とかナツとかしおに俺の気持ちバレないようにカモフラージュする必要あったし」
巧が私の頬を両手で柔らかく包みながら、愛しいというようにするすると撫でる。
「じゃあ……これからはどうなるの?」
「しおが嫌な事はしないよ。する必要がない」
そう強く告げると、頬を掴んでいた手をグッと上にあげて、私の頬をあげると至近距離にいた巧がさらに近付いた。
押し付けられるように重ねられた唇は思ったよりも熱い。
パッとすぐに顔が離れて、私のぼーっとした顔を見つけてにかっと笑う。
「しお。ちゅーすんぞ」
「もうしたでしょ。ばか」
頬を膨らますと、同時に少しすぼむ唇にちゅっと音の立てるキスをされる。
それから食べられるように口を少し開いてキスをされる。
「た…巧ぃ………ふぅ……ん」
「…………詩織」
巧に呼ばれるしおって響きが大好きだった。
いつも、私の事が嫌いだとできないような優しい響きで呼んでくれるから。
でも、たまに。
たまに、切羽詰まった時にしか呼んでくれない詩織って名前はもっと好き。
大好き。
今、巧が何を考えているか分かるように詩織って切なげに呼んでくれるから。
「好き。……大好き」
「もっと言って……詩織」
「好き。巧が世界で一番。大好き」
初めてのキスの私を気遣ってなのか、優しい巧は重なるだけのキスから進もうとはしない。
テレビで見るような濃厚なキスはしてこない。
だけど、我慢してくれているのか、背中に回している腕をぎゅっときつく引き寄せてくる。
何の隙間もできないように。
「ああー涼に怒られるだろうなぁ」
「一緒に怒られてね」
「どうせ怒られんのは俺だけだよ」
くすくすといつもの笑いを見せる巧は、私の体を離して覗き込むようにして言ってくる。
それでも、いつもと違うのは、手の位置が……。
手が……………。
「ばか! 巧! お兄ちゃんにチクッてやるー」
「ごめん。ついね、つい。掴んでって言うみたいに、主張してくるからさ……この子が」
そう言って、私の胸をまたキュッと指で掴むと、私の唇をちゅっと吸うように重ねてすぐに離れた。
「マルゴに行こっか、しお」
「ん?」
「だって僕……これ以上くっついてたら我慢できなくなっちゃうもの」
巧がふざけたように、甘えながら言ってくる。
巧が甘えるなんて。
初めて見る巧が多すぎて、私はきっと今まで巧の一部しか見てこなかったんだろうなぁと実感した。
「ふふ、うんマルゴ行こっか。そろそろお兄ちゃんたち心配すると思うし」
巧が私の手を自ら掴んで歩きだす。
さっきまでキスをして、抱きあってたのに、手を掴んでくれたのがドキドキして仕方ない。
今までどうして手を掴んでくれないんだろうって、ずっと思ってた事だったから。
手をつなぐという行為が、巧からされた事に喜びを隠せない。
巧はもう、手首は掴まないんだ。
それが嬉しくて、キュッと指に力を入れて握り返すと、それに気付いた巧がキュッキュッとさらに握り返してくれる。
それを2人で顔を合わせて笑い合う。
マンションの廊下は、私たち2人の控えめな笑い声だけが鳴り響く。
マルゴの扉の辺りに近づいた時、向こうからナツくんが歩いてくるのが分かる。
きっとマルゴに行こうとしていたんだろう。
つい、巧の手をぎゅっと強く握ってしまったが、ハッと気づいて、手を振り払うように離してしまう。
その光景に気付いたんだろうナツくんは、私と巧を見てにこっと笑ってくれた。
「おめでとう。2人とも」
「あ…………ありがとぅ」
何だか涙が込みあがってくる。
巧は、私が手を離した事にびっくりしていて、それから悲しげにふっと笑った。
「巧。詩織幸せにしてあげてね。俺、詩織泣かせたら承知しないから」
そう言って、マルゴに先に入ったナツくんに続いて入ることができない。
扉が閉まった瞬間、しゃがみ込んでしまった。
巧はそんな私の隣でただ立っている。
「うぅ~…………っ……ふぅ………」
ナツくん。
ナツくん。
「泣かせてんのナツだろうが。あのばか」
巧がそう言って、乱暴に私の前にしゃがみ込むと、親指で優しく涙を拭ってくれる。
なんで泣いてるのかは分からない。
でも、何だか寂しい気持ちと、切ない気持ち。
それと、ナツくんの心情を考えた時の物悲しさ。
私ならきっとこんな優しい対応はできなくて、ナツくんの大きさを思い知った。
どんな気持ちで祝福してくれたんだろうと考えれば考えるほど、涙が止まらない。
いつも登下校を一緒にしてくれたナツくん。
チョコが好きな私に付き合っていつもチョコを食べてくれた。
マルゴがつまんないって言えば、いつもどこかに連れ出してくれた。
教室まで迎えに来たら、私を見つけて優しく詩織って呼んでくれた。
思い出せる思い出は、綺麗なものばっかりだ。
いつだって。
いつだって、私の思い出にはナツくんがいて。
巧がいなくたって、絶対にナツくんはいてくれた。
ありがとう、ナツくん。
何度ありがとうって言っても足りないくらいのありがとうがあるよ。
「しおをこんな風にできんのはナツだけだな。なんかちょっとむかつく」
巧が私の前にしゃがみ込んで、ぶつぶつと文句を言ってる。
彼氏になった巧は、何だか可愛くて、甘えたで、いつもと全然違う。
それが愛しくて、ナツくんの寂しさを少し紛らわせてくれる。
高速で顔を近づけてきた巧は、ちゅっと子供がするようなキスを、ちゅっと音を立ててしたら、立ち上がって私の手を引いた。
それで立ちあがった私の顔から丁寧に涙を拭いて、寂しげに微笑んだ。
「もう他の男を想って泣かないで。今日が最後」
私の手をぎゅっと握ってくれる巧に、頷いて微笑んで見せる。
それに眩しいというように目を細めた巧は、私の手を掴んでマルゴに入る。
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