巧のあの口癖の理由
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
一生言葉にする事はないと思っていた
言葉を口にすると、
体が震えあがった。
声をあげて泣いてしまいそうだった。
巧
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
「…………へ?」
巧が言った言葉は全部聞こえたのに、頭にすんなりと入ってこない。
何か解読不能な記号を喋られたかのように、頭が理解をするのを拒む。
「あーあ、言っちゃった。しおのせいだ……ほんとにしおのせい……っ」
最後を泣きそうな声で言った巧は、そこで言葉を詰まらせてしまった。
「……巧?」
「どうしよう……俺、もうしおの事好きすぎて泣けてきた」
鼻をすする音が頭上からかすかに聞こえてくる。
巧が泣いてる?
だって、今までずっと小さい時から一緒だったのに、泣いたとこなんて見た事なかったよ?
うそ……。
「巧泣いてるの……?」
「……うん」
うんって!
可愛い。
愛しいって気持ちが体の奥底からじわっと湧き出してきて、背中に回している手を愛しさのあまり、巧のシャツをぎゅっと掴んでしまう。
「本当に私の事……好きなの?女の子として……」
「……うん。しおが好きだよ、ずっと前から」
こんな虫のいい話あるわけがない。
夢なのかな。
夢だったら覚めなきゃいい。
一生覚めなきゃいいのに。
このまま、この幸せなまま、私の体が消えてなくなればいい。
でも、そんな事を思っていたのに、反比例するかのように巧のシャツをぎゅっと強く握りしめる。
巧がそこにいるのを確かめるように。
「え……と……じゃあどうして叶わない恋してるなんて言ったの?」
「あー……。あれは、叶わないっていうか、諦めてたから。一生封印するって決めてたから。叶うわけないだろ?」
一生封印するってなんでだろ。
別に私たちは幼なじみでいとこだけど、恋愛してもいい関係なのに。
小学校の時に、いとこ同士は結婚できるって何かの授業で習ってから、急に巧を意識するようになったのを覚えてる。
同じ“川崎”という名字だけで、それを聞くまでは恋愛対象に入れちゃいけないって思いこんでたのに。
それからすぐに巧を好きになったのを覚えてるけど、その時はまだ叶わないなんて思ってなかったの。
それなのに、巧は最初から叶わないと思っていたなんて。
「どうして?」
「まず涼がしおの事好きだって俺誤解してたし、ナツはしおが好きだし。俺、黒竜会の跡取りで一緒になる人はきっと苦労するんだよ、きっとじゃなくて絶対」
「そうなの?」
「俺の母親はそんな事知らずに結婚して色々苦しんだから。それが結構俺の中でトラウマでさ」
「そうなんだ……」
「ナツの方が絶対しおを幸せにしてやれるし、涼だってすごく苦しんでしおの事好きなんだろうから、俺がみんなに愛されてるしおを奪うべきじゃないって思ったんだよ」
そうなんだ。
巧は本当はすごく優しくて、誰よりも気を使う人だから。
お兄ちゃんやナツくんが私へ想いを寄せてるのに、黒竜会跡取り息子っていう巧が私を自分のものにしちゃいけないって思ってたんだ。
「それに、しおにもそんな世界を知ってほしくないし、俺よりもナツの方がずっとしおを幸せにできるって言い聞かせてきたから、もう心の隅っこに気持ちをしまうようになっちゃってたよ」
「でも、私は巧じゃないと幸せになれないよ」
「……うん。しおの気持ち知らなかったから。聞いちゃったらもう自分の気持ち隠せる意志ないわ」
「私は嬉しいよ。すっごく」
「……ごめん。ごめんな」
いきなりしおらしくなった巧は、ごめんって謝ってくるけど何の謝罪の言葉か分からない。
「なるべく黒竜会には巻き込まないつもりだから。全力でしおは守るから。……ごめん。俺のものになってくれる?」
耳元で聞こえるその言葉に、全身がぶわっと震えあがる。
心臓を手で押さえたいくらいに、痛く収縮していて、これはもうキュンなんて可愛いものじゃない。
もぎとられたかのように心臓が激しく痛む。
それって。
それって、私を彼女にしてくれるってことなの?
その言葉が小さい時からずっと、ずっと聞きたかった。
「……うん。巧の彼女になりたいっ」
「……しお」
「大好きっ……」
「ああーやば。俺、今すっごいときめいてる」
色々聞きたい事とか疑問はたくさんあるけど、それでも巧が私を好きな事だけは理解できて。
それだけで十分だ。
この上ない幸せだ。
「俺のお嫁さんになってくれるんでしょ?」
「え?」
「だって、しおのファーストキス俺がもらったし」
そうやっていつもの少し意地悪な余裕な笑みを私に向ける。
「あの約束覚えてたの?」
「覚えてたの? ってお前…。俺がちゅーすんぞって口癖のように言ってんの気付いてないの?」
「もちろん知ってるけど。でもそれが? ただの口癖じゃないの?」
「俺春香には言わないし、他の女の子たちにも言わないよ。あれはしおだけにしか言った事ない。ずっと心のどこかでしおにキスしたかったんだ」
本当に?
そう言えば、春香にも他の女の子にも言ってるところ見たことないけど、巧があの約束覚えてたなんて。
「じゃああのキスはどうしてしたの?」
「ああーあれは……しおがあんまりナツの事話すからむかついた。やきもちだよ」
そう言った瞬間、回されていた腕を離されて、体と体に隙間ができた。
パッと巧の顔を見上げると、ふいに唇が重なった。
冷たい唇は私には苦いコーヒーの味がした。
巧がコーヒーを飲む時は、いつもイライラした時、寂しい時。
自分のものにするかのように唇を食べられる。
激しいキスにめまいがしそうで、吐息をもらすことしかできない。
「んぅ……っは……」
何度か顔を離す度に、目を射るように見てくる。
そして、口を小さく開きながらまた唇に舞い戻ってくる。
その瞬間、目をつぶった巧は心臓を掴まれそうなくらいかっこよくて、ついていくのに精いっぱいだ。
もぎ取るような、こらえていたものがはち切れたかのような熱いキスは、唾液さえ零れおちる。
「巧ぃ……はぁ……んん……」
何度もキスを繰り返していた唇を少し離して、おでことおでこをくっつけられる。
「やば。俺がっついてる。どうしよ、しおちゃん」
「どうしよって知らないよ~。……んっ。もう言ったそばからしないでよぉ」
そんな言葉を無視するかのように、逃げられないように後頭部をガシッと掴まれる。
「俺を止めて……、詩織」
切なげに言いながら、また熱くて、奪うようなキスをしてくる巧は、もうどうしようもない。
でも、その言葉にノックアウトされてしまった私は、抵抗することさえもできない。
大好きな人からの熱いキスを、必死で受け止める。
「巧……。ん、……ふぅ、……息がしんどいよ」
「ごめん。やりすぎた」
とっさに顔を離して、覗き込むように私を見てくる。
涙をこぼしていたせいか、目のふちを優しく親指でなぞってくれる。
「しお、好きだよ。これから毎日覚悟しといて」
妖しく笑う巧に、下唇を噛みしめてドキドキすることしかできない。
どうしよう。
巧、すでにキャラ代わってるっていうか、なんかこんな人だったの?
今までは余裕で、大人で、何を問い詰めてもはぐらかしてしまうような掴めない人だったのに、今は手に取るように巧が分かる。
でも、それが嫌なんかじゃなくて、愛しくてしょうがないんだけど。
「俺、さっきナツに、詩織の事そんなに好きなんだったら気持ち伝えろって怒られたんだよ。ほんとナツには頭が上がらないよ」
そうなんだ。
ナツくんはもう分かってたんだね。
2人ともの背中をナツくんが押してくれたんだ。
巧は、お兄ちゃんの事が解決しても、ナツくんの事が引っ掛かってたら、私の気持ちに応えてくれなかったかもしれない。
でも、ナツくんが背中を押してくれたから、こうして今巧と抱き合っていられる。
ナツくん、ありがとう。
本当にありがとう。
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