幼いころからの想い
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
好きの気持ちは
きっと
きっと
誰にも負けないんだよ。
詩織
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
1階に駆け降りて、エントランスに向かって走ると、壁にもたれてしゃがみ込んでる巧を見つけた。
見つけたよ、巧。
私の話今から聞いてね。
はぁはぁと少し息を荒くした私に気付いたのか、うつむいていた顔をさっと上げる。
そして、驚いたような顔をした巧は、何も言わずに立ちあがった。
「………しお」
ぽつりと独り言のように呟いた巧は、私をまるで幽霊を見るかのように、何度も瞬きをして存在を確認しているように見える。
よっぽど私がさっきの事で怒っていると思っているのか、ここに私がいることが信じられないみたいだ。
「へへっ、来ちゃった」
何だか急に照れくさくなって、ごまかすように笑ってみる。
けど、人の通らないエントランスには私の声だけが響いて、余計に何だか気恥ずかしくなってくる。
「……どうした? さっきの事なら悪かったな、本当に。ナツにも叱られたよ」
ぶんぶんと首を振る。
巧の元までツカツカと歩いていって、目の前に立つ。
背の高い巧を見上げると、その瞳にはいつもの余裕な巧が見え隠れしていて、やっぱり戸惑っているんだろう。
まさか、私が戻ってくるなんて思わなかっただろうし。
私自身も本当は足がガクガクしてるし、何だか腕は鳥肌が立ってるし、心臓もドキドキとうるさく音を立ててる。
「私、巧に言いたいことがあるの」
やけに声が響くエントランス。
唾をごくっと飲み込み、ナオさんからもらったぬいぐるみを片手でぎゅっと握りしめる。
「ん? どした」
はぁ。
どうしよう、怖い。
これを言ったらもう巧と話せない関係になるかもしれない。
気まずくなって、巧は私から離れていくかもしれない。
今までの長い付き合いが走馬灯のように頭をよぎった。
でも。
そんな時、さっきのナツくんの優しい顔がふわっと浮かんできて決意を固く決める。
怖いけど、伝えるって決めたんだ。
勇気を出せ、詩織。
「あのね……、私、巧の事が好きなの」
巧の瞳を見て、強く言った言葉に巧は首を分かりやすく傾げて見せた。
「いきなりどうした? キスした事を許してくれようとしてんのか? ありがとうな」
「違うの。巧が……好きなんだよ?」
「ん? 俺も詩織が好きだよ。今さらどうした?」
巧がにこっといつもの鉄壁の微笑みを浮かべて、私の顔をじっと見る。
そうじゃない。
巧はやっぱり気付いてない。
ずっと小さい時から一緒で、ここまで強く根付いた思い込みはなかなか捨て去ることができないのかもしれない。
まさか私が男の人として巧の事を好きだと思っているなんて、少しの事くらいじゃ気付かないんだろう。
違うのに。
違うのに。
伝わらない。
「違うよ! 好きなの。好きっ。好き。大好き。大好き! 巧の事が大好……」
「しお、もう黙って」
叫ぶように言った私の言葉を言い切る前に、巧の低いビクッとするような声が聞こえる。
いつもの巧の声じゃない。
それと同時にふわっと体が少し浮いて、巧に吸い寄せられるようにかっさらわれて、掻き抱くように抱きしめられる。
きつく。
きつく。
巧の胸の中にいる。
巧の腕が私の背中に回ってる。
巧の心臓の音が聞こえる。
「あー……っと。俺の手、おかしくなったかな……しおが俺を慰めて言ってくれてるの分かってるんだけど……」
そんな事を言いながらも、巧の手はさらにきつく押しつぶすように私を引き寄せて抱きしめる。
2人の間にはこれっぽっちも隙間はなくて、痛いくらいに。
巧の胸の中はいつもの甘い香りがさらに強く感じる。
垂らしていた手を巧の背中に回す。
メタリックベアはさっきの衝撃で地面に落ちたまま。
役目を果たしたかのように、手から零れおちたまま。
「あの、まだ伝わってない気がするんだけどね。私ずっと小さい頃から巧が好きで。伝える勇気がずっと出なくて、今まで言えなかったんだけどね。今、言わなきゃいけないと思ったの」
「……………」
「えっと、巧が私の事恋愛対象として見てないのは分かってるんだけどね。私の気持ちを知ってもらおうと思ってね。へへっ私の気持ち知らなかったでしょ?」
巧。
巧のばか。
そんなにきつく抱きしめないでよ。
もうすぐ、泣いちゃう。
普通に喋ってるのに、胸がぎゅーっと痛くて、瞬きをしたらもう涙が零れおちる。
顔が見れなくて良かった……。
「え……ほんとに言ってんの? しお」
あまりにも戸惑った声を絞り出すように話すから、笑ってしまいそうになる。
やっと気付いたの?
私、好きって言葉何回言ったと思ってるの?
頭固いし、超がつくくらいの鈍感なんだから……。
そんな事を心の中では考えているのに、色んな感情が込みあがってきてぽろぽろと涙を零していて。
あれ、おかしいなぁ。
どうして泣いてるんだろ。
「だからね、私キスされた事嫌なんかじゃなかったよ。巧が私の事幼なじみとしてしか見てないのは分かってるから……。抱きしめてくれたの嬉しかったから、なかったことにしてあげる」
もうちょっと。
もうちょっとだけ頑張れ。
巧を困らせるな。
「…………………」
巧は何も口にはしてくれない。
戸惑っているのか、何かを考えているのか。
でも、抱きしめられた手は緩めてはくれなくて、顔を見れないせいで巧が何を考えているのか分からない。
「ねっ。聞いてる? 弾みだったとしてもね、キスした事で自分を責めてるんだろうけど、気にしなくていいよ」
「…………………ばかしお。先走んないで」
「え?」
さらにきつく抱きしめられて、呼吸が瞬間的に止まる。
「好きだよ、詩織。俺もお前が好き………ずっと前から」
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