携帯が鳴るその時に
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
君と
うまくいかなかった日は
眠れない。
詩織
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
今日巧にお礼言えなかったなぁ。
芳川さんたちの事、マルゴでお礼言うつもりだったのに、あれっきり帰って来なかったし。
メッセージだけでも入れとこうかな。
『今日は私のために怒鳴ってくれてありがとう。すっごくかっこよかったよ。お兄ちゃんと春香も幸せそうだし、今日はすごくいい日になりました。ありがとうね』
巧にメールを送信して、ベッドの横に置く。
寝ようと思うのに、携帯の画面が光らないかと気になってなかなか眠ることができない。
巧はいつも携帯を見るの遅いんだから、すぐに返ってくるはずなんてないのに。
じっと携帯の真っ暗な画面が光らないか見続けていた。
着信音が鳴った瞬間に、液晶もパッと明るくなる。
え?
巧?
画面を見ると、メールではなくて電話だった。
何秒か経っているから、鳴り終わらないうちに、電話にパッと出る。
「もしもし?」
「あっしお。起きてた?」
「うん起きてたけど、どうしたの」
「いや今さ、マルゴに来てるんだけど。お前、化粧ポーチ忘れてんぞ?」
化粧ポーチ!?
忘れてたんだ!
「あっ、今から取りに行くね!」
「いやいいよ。もう遅いし俺が306号室まで持ってくから、1分後に家出ておいで」
「ほんとに? ありがとう。じゃあすぐ行くね」
電話を切って、すぐに玄関に向かう。
お風呂から出てきたパパとママに遭遇する。
「詩織、どうしたの? もう遅いよ?」
「あっうん! マルゴに忘れてた化粧ポーチを巧が届けてくれるから、家の前でちょっとだけお喋りするね」
「そっか。ならいいよ」
ママは巧やナツくんには絶対的信頼を寄せてるから、一緒にいるなら大丈夫だと安心しているんだろう。
玄関を開けると、巧が壁にもたれて立っていた。
私のピンクの化粧ポーチ片手に。
「ああーごめんねぇ。すっかり忘れちゃってて」
扉を後ろ手に閉めて、巧の前に立って化粧ポーチを受け取る。
「そんなのいいよ。またまたハレンチなかっこしちゃって」
巧が上から下へとじろじろと笑いながら見てくる。
そのわざとらしい行動に、パシンと手ではたいて怒ってるふりをする。
「もうーそんなじろじろ見ないでよぉ」
寝る前でTシャツと短パン姿だから、ハレンチなわけはないんだけどなぁ。
「ごめんごめん。しおに会いたかったんだよ。許して?」
顔がかあっと赤くなるのが分かる。
それを巧に知られたくなくて、手の甲を頬にあてて誤魔化す。
「もう嘘ばっかり」
「嘘じゃないよ。じゃあ俺帰るな。おやすみ」
巧が私に手を振って、行こうとするから服の裾をきゅっと引っ張って引き留める。
「ん? しおちゃんどした?」
「もうちょっとお喋りしたいなと思って……」
巧が顔だけ振り返って、私をもう一度視界に入れる。
そして、口角を少しあげてストイックに笑って見せた。
その顔があまりにも妖美で、倒れるかと思うほどの色気だった。
「今日は甘えたモードか? いいよ、じゃああと5分だけな。もっと喋りたいけど、もう遅いからな。百合香さんたち心配しちゃうから」
「うん。ありがとう」
好きになったら、こんなに触れたいって思うものなのかな。
今目の前にいる巧に触りたいと思ってしまう。
ぎゅっと抱きしめてほしいって思ってしまう。
こんな気持ちは巧にしか抱かない。
だけど、巧には狂いそうなほど、そう思う。
「巧」
「ん? なにお喋りすんの?」
「えーっと。あっ今日芳川さんたちの事ありがとう」
マンションの廊下の両脇の壁にもたれあって、向かい合うように立っている。
「ああ、いいよ。しおにはあんな姿見せたくなかったけどね」
そう言って、ふふっと笑う巧は何だか少し可愛い。
「でもかっこよかったよ。ちょっとびっくりしたけど」
「だてに銀竜総長じゃなかっただろ?」
巧が私をからかうような顔で見てくる。
照れくさいのかもしれない。
「うん。今度シルドラに行ってみてもいい?」
「だーめ。しおがあいつらに毒されるから」
銀竜本拠地・シルドラ。
この街の女の子なら誰もが行ってみたいと思うけど、女禁制の場所。
「もう巧はそんな事ばっか言って。私みたいな子供相手にされないよぉ」
「しおは可愛いよ、十分。1番可愛い」
繰り返されたその言葉に、分かりやすく顔を赤くしてしまう。
それを気付いた巧がくすくすと笑って、私の頬にすらっと長い腕を伸ばして手の甲でぴたっと触れる。
きゃーと叫びそうになるのを必死にこらえる。
「真っ赤。可愛い」
首を傾げて、甘い言葉しか吐かない巧。
巧の手を離して、両手で顔を少しの間覆う。
「もうそれ以上言わないで。照れちゃう」
「ははっ、しおはいい反応してくれるね。俺、超満足したから帰ろうかな。そろそろ」
巧が帰ってしまうと思って、パッと両手を顔から外すと巧の顔がすっごく近くにあった。
ドキ!!!
心臓がドクンと跳ね上がるけど、巧は私の顔を見てにかっと笑うと、私の頭をぽんと撫でた。
ただ、私の反応を見ようとしてからかっただけみたいだった。
「ぐっなーい。おやすみ、しお」
至近距離でそう告げた巧は、全く動じることなく、私から離れると帰って行ってしまった。
「……おやすみなさい」
私がぽつりと口にすると、後ろ手に手を少し振ってくれて、そのままエレベーターに乗り込んで視界から消えてしまった。
家に入って、自分の部屋のベッドに飛び込む。
「もう~~~~。巧のばか……。寝れないじゃん……」
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