芳川さんたちの窮地

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°

俺はいつだって

無神経だ。

だから、きつく自重しないと

また近付いてしまう。

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°


次の日、学校に行く時もいつものように4人で学校に行く事になった。

やっぱり巧は一緒に行く事はなかった。

でも、今日朝に巧教室に来るって言ってたのになぁ。

どうするつもりなんだろう。

本当に来るんだろうか。

何だか緊張してきたし、巧は一体芳川さんたちをどうするつもりなんだろう。


昨日、ただ見てるだけでいいからって言ってくれたけど。

みんな今日はやけに静かに登校していて、お兄ちゃんも春香も前を2人で歩いているけど喋る気配は全くない。


ナツくんは何度も俺も教室まで着いていこうか? と声をかけてくれるけど、それを断るだけの会話ばかりで、楽しい会話なんて弾みそうになかった。

心配しすぎるくらいのお兄ちゃんとナツくんを置いて、春香と2人で教室に入った。


教室に入ると、芳川さんたちは4人固まってくすくすとこっちを見て笑っていたけど、それを無視して席についた。

席に着くとすぐに、春香が私の席のそばに来て一緒にいてくれた。


「巧来るのかなぁーほんとに」

「うーんあれだけ言ったからには来ると思うけどなぁ。てか巧が来ないと涼ちんが乗り込んで来ちゃうよ、きっと」


春香が呆れたような様子で、お兄ちゃんの事を話している。

確かに。

お兄ちゃんは巧が来なかったら、私の教室に来てめちゃくちゃの暴動を起こすに違いない。

女の子相手に殴りかねないからなぁ……。

ああー怖……それだけは避けたい……。

あの小学校の時なんか、当分お兄ちゃんの存在にビビってクラスメートは3日以上喋ってくれなかったんだから。


そんな時もいつだって、私の味方は春香だったなぁ。

廊下できゃー! と大きな歓声が聞こえてきた。


あ、巧だ。

巧が来てくれたんだ。

どうしよう、何だか緊張してきた。

そう思っていると、そんな様子に気付いてくれたのか春香が私の手をぎゅっと握ってくれた。

それを握り返してにこっと微笑むと、春香は満面の笑みで私の頭を撫でてくれた。

それで落ち着く事のできた私は、黙って巧が来るのを待った。


教室の入り口で歓声が聞こえたと思うと、巧が教室の入り口の扉にもたれて立っていた。


「きゃー! 巧さんだぁ!!」

「また教室に来てくれたぁ!!」

「やばいっ朝からほんとにかっこいい!!」


みんなが口々にきゃーきゃーと声をあげている。

それをぼーっと見ながら、芳川さんたちも同じようにウキウキして巧を見ているのが目に入る。


ふぅー、巧どうする気なんだろう。


「芳川さんってどーこにいるのかなー?」


巧が緩い口調で教室のみんなに向かって話しかけた。


それに、教室は一瞬静まり返ってから、ざわめきだった。

芳川さんたちはきゃーきゃーと声をあげて騒いでるし、周りの生徒たちもざわざわと話し出している。


「あっ、私です」


私に話す時とは全然違って、控え目に可愛らしく声を出している。

ほんと、もう……。

これだから、女の子は嫌になる。


「君かぁ。じゃあ君と一緒にいる3人は君の仲のいいお友達?」


芳川さんたちのいる机の方まで、ゆっくりと近付いて行く巧はまるで私の方を見ない。

うさんくさいほどにっこりと笑みを浮かべながら、芳川さんたちから目を逸らさない。


「あっそうです。いつも一緒にいる友達ですけど、……それが何か……」

「いやー? ちょっと確認したかっただけだよ」


芳川さんの目の前に着いた巧は、立ち止まってじっと見下ろしている。


「確認? ……って何の確認ですか?」


それにさっきと違って、にやっとした笑みを浮かべたかと思うと、さらに一歩芳川さんたちに近づいた。

もうその距離は20センチもなくて、芳川さんたちはあまりの近づきようにドキドキが隠せないようで、戸惑っているように見える。


「俺の大事な女を傷付けた奴の確認だ、こらぁ!!!!!」


だんだん声が大きくなった巧は、最後は巧らしくない大声で怒鳴りつけた。

それと同時に机を蹴りつける。


「きゃー!!!!」


色んな人から悲鳴が上がる。

それは巧が大声を出したからではない。

巧が、芳川さんの襟首を持って掴み上げているからだ。

巧にシャツの襟を持たれて、あげられているせいで、足が宙に浮いてしまっている。


「お前。どうなるか分かってんだろうなぁ。俺の大事な女に何した!! もっとひどい目に合わせてやろうか」


巧がいつものにこにこ色気むんむん顔じゃなくて、鬼のような鋭い顔をしている。

巧があんなに怒ってるところ、初めて見た。

それよりも、“俺の大事な女”というフレーズにキュンっとしてしまっている私は相当頭が悪いみたいだ。

周りの人たちに気付かれないように、私の名前を出さないようにしてくれているんだろう。


それにしても、そんなにキュンとするフレーズを連呼しないでほしい。

芳川さんたちは縮みあがってしまって声も出ないようだ。


まだまだ、巧は芳川さんを下ろす気はないのか、掴んだまま離そうとしない。


「ちなみにひどい目っていうのは、黒竜会と銀竜連合を敵に回すって事だけど。どう? ひどい目に合いたくない?」


巧が同じ目線にいる芳川さんを睨むように、口角を少しあげて見ている。

首をぶんぶんと切れるんじゃないかというぐらい、振っている。


「すいませんー……本当にすいません……」

「そっ。痛い目に合いたくないなら、今すぐ俺の目の前から消えてくれる?」


普通の声で普通のテンションで話しているけど、言っている内容は地獄のような内容だ。

それがまた怖さを引き立てる。


「え? 消えるってどういう…?」

「学校に2度に来んなって言ってんだよ。そいつら連れて、昨日の男も一緒に2度と俺の大事な女の目の前に現れんな」


2度と現れんなってもしかして。

学校を辞めさせるつもりなの?

そんな事ってしていいんだろうか。

でも、私は止めない。

私はそんなに優しくない。

今までされてきた事は到底許せそうにないから。


何度謝られたって許せないから、慈悲も情けもかけるつもりはない。

私は、巧との関係を侮辱された事にすごく怒っているんだから、それ相応の目に合えばいい。


「え? ……え?」


芳川さんたちは言っている事が理解できないのか、4人でひどいくらいに戸惑っている。


「なに? 死にたいの?」


巧がそう言って、掴んでいたシャツを遠くに放り投げるように離す。

その拍子に、芳川さんは少し跳ねとび、後ろにいた3人にぶつかって、4人とも倒れこんだ。


「消えろよ、早く」


巧がこの世のものとは思えないような低い声を放つと、芳川さんたちは唇を噛みしめて鞄を持って走って出て行った。

本当にやめちゃうんだ。

でも、きっと辞めるって言っても、学園長優しいからどうせ編入手続きはしてくれるはずだ。

違う学校に行くくらいの罰いいよね……。


巧は芳川さんたちが出て行くのを確認してから、黙って教室から出て行った。

きっと、本当に私には学校では関わらない気なんだ。

巧は責任感が強いから。

それにしても、あんな巧見た事ない。

銀竜総長の時はあんな感じなんだろうか。


「ほえー。巧ってあんな風にもなるんだねぇ」


春香もやっぱり初めて見たみたいで、少し感心しているようにも思う。


「きゃー!! 涼さんとナツさんもいたのぉ!?」


クラスの女の子が叫び声をあげたのに反応して、教室の入り口を見るとお兄ちゃんたちが帰って行くのが見えた。

多分、巧と芳川さんたちに気を取られていて気が付かなかったけど、ずっと見ていたんだろう。

来るなって言ったのに。

ほんと2人とも心配性なんだから。


「あーあぁ。やっぱり来てたんだ。あの詩織大好き2人組は」


はぁと溜息を吐くように呟いた春香は、私の頭をぽんと撫でて、良かったねと言ってくれると、自分の席に戻って行った。

巧は一度も私を見なかった。

これからずっと学校では関わらない気なんだろう。


でも、きっとクラスの大部分の人は私の事だと分かったはずだし、これで芳川さんたちみたいにいじめてくる人はいなくなるような気がする。

あの時の巧の怖さは尋常じゃなかったし、学校を辞めさせられるとなると容易に私には手を出してこないだろう。

巧、本当にありがとう。


巧がきっとすごい責任を感じて苦しんでいるのだろうから、私は巧と学校で会えないくらいの事我慢するよ。


ごめんね、巧。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る