川崎巧さま緊急出動

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°

君が傷付いていると

やりきれなくなるんだろうな。

自分の無力さを思い知るんだろうな。

……あいつに抱く感情とは違う。

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°


「詩織。そいつらの名前全員挙げろ。あと、お前を呼び出した男も」


お兄ちゃんが冷たい声で言うから、びくっとしてしまう。

私が話していく名前を黙って聞いていたお兄ちゃんは、聞き終えるとこくっと頷いた。


「でも、男の人の名前は知らないの」

「それはいい。そいつらに聞くから」

「……うん。ていうか、お兄ちゃん芳川さんたちどうする気なの?」

「明日お前の教室まで朝行く」


え?

何かする気なんだ。

まぁ、こうなった以上お兄ちゃんが何もしないわけないのは知っていたけど、一体彼女たちはどうなるんだろう。

もう大して同情もできないんだけど、それでも少し怖いな。


「おい、涼。それ俺に行かせてくれ」

「ああ?」

「俺に落とし前付けさせてくれ」

「お前は女に優しいから無理だ」


巧……。

そうだよ、巧はきっと優しいから無理だよ。

女の子に強く言う事なんてできやしないんだから。


「でも、俺はここで涼に任せてしまうと、負い目を感じて、しおにきっと会いにくくなってしまう」


あ。

巧はそういう人だね。

誰よりも責任感が強くて、私の前ではいつだってヒーローでいたい人なんだ、きっと。


「俺にはそんな事関係ねぇ。大事な詩織を痛めつけられて黙ってられるか」

「俺は銀竜総長だ! 黙って見とけ」


巧がお兄ちゃんにきつく、強く言い放ちながら、じっとお兄ちゃんを睨むように見ている。

巧がそんな風に強張って言う事なんて、あんまり見た事がない。

多分、銀竜総長なんだからやる時はやるんだろうけど、私の前ではいつだって柔らかくて優しい巧だから。


「……分かった。お前に任せる。その代わり、女だからって容赦はすんな」

「分かってる」


お兄ちゃんと巧を交互に見つめて、片付いたのだろう話にホッとする。

ナツくんが私の手をぎゅっと握ってくる。

その反動で、ナツくんの顔を見上げると、真剣な顔で私を見ていた。


「詩織。昔詩織のママにしたように、詩織に何もしないようにSNSで学校中のみんなを脅す事は可能なんだ。銀竜からの通告って形で、学校中を脅すことはできる。どうする?」


ナツくんは連絡係だから、そういう事もできるんだろう。

ママのその話は聞いた事がある。

パパと付き合った事で、暴言などがあまりにもひどいから、シャットダウンするように銀竜が街中を脅したんだという。

銀竜から届いたSNSの配信を知ってる奴に送っていけという感じで広まった脅し。


「私はそれはいらない。自分で学校生活やってみたい。強くならなきゃ」

「そっか。じゃあ何かあったら誰かにすぐに言うんだよ。俺らに言いにくかったら春香でもいいからね」

「ありがとう。ナツくん」


私は腫れもの扱いのようにされて、遠ざけられるのは嫌だ。

まだ高一で、友達も作って行きたいし、そんな風に助けてもらったらまた巧が辛い顔をしちゃう。

銀竜というチーム自体に何の関わりも持っていない私は、銀竜には迷惑をかけたくない。


「春香。明日一限が始まる前に教室行くから。しお頼むな」


巧が春香に向かって、頼んでいる。

それににこっと悲しく笑った春香は、巧に向かってこくっと頷いた。


「しお、本当に悪かったな。俺もうお前を傷付けないように気を付けるから、許してくれな」

「もういいよぉ巧。巧が悪いわけじゃないんだから」


ほら、また巧の存在が遠くなった。

巧がまた私に強く一線を引いた。

こうやって、巧はどんどん私から離れていっているのかもしれない。

今までこういう事はなかったけど、こんな風に徐々に見えないところで一線を引かれていってるのかもしれないと実感した。


私が知らないところで色んな葛藤が巧の中であったのかもしれない。

ただ、巧に好きな人がいる時点で、一線を引かれようがどっちみち関係ないのだけど。


それにしてもこのどうやっても手の届かない感じは、やっぱり、歳の差なんだろうか。

それとも、私の性格なのか、巧の性格なのか、はたまた、幼なじみという関係なのか。

責めるところはいっぱいあったけど、今更どれも責めたくはなかった。

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