絶対話したくない訳

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°

まさか君が

そんな風に傷付いてただなんて

知りもしないで

楽しく登校していた俺は

どうしようもない馬鹿だ。

夏樹

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°


「詩織……どうしたの? 話してみて。私たちが絶対に助けてあげるから、話して」


春香がナツくんと2人並んで、力強くそう言ってくれる。


「うんありがとう……みんな……。今から話すね」

「おう話せ」


お兄ちゃんが隣で私の握った拳を柔らかく握ってくれる。


「私、クラスの女の子たちにいじめられてたの。芳川さんたち4人に、毎日のように女子トイレに閉じ込められてたし、髪の毛も抜かれたし、無視されたし。もう辛いからこれ以上は話さないけど」

「そうか」


私がこうなった時点で、お兄ちゃんはだいたいの事は予想していたことだったのか、あまり動揺せずに低い声を出す。

春香は全く知らなかったようで、春香もナツくんも巧も、驚いて悲痛な顔をしている。

それをチラリと見て、顔を逸らすと、また話し始める。


「今日は何もなかったの。何もいじめられなくて嬉しかったの。なのに、今日放課後に男の子の手紙をもらって、体育倉庫に来てくださいって。告白かなと思って行っちゃったらこんな事になった」

「それで?」

「男の子に閉じ込められた後に、芳川さんたちがやってきて、蹴られたりして、そのあと、バケツで水をかけられて、閉じ込められてたの」

「それで」

「それでって……それだけ。それだけだよ。クラスの女の子たちにいじめられてただけ」

「それだけじゃねぇだろ。お前は一番重要な事を言ってねぇ」


お兄ちゃんの意味がよく分かる。

でも、言いたくない。

だって、傷付いてしまうだろうから。


「それだけだよ、お兄ちゃん。怖い顔しないでよ。私それ以上いじめられてないよ」


お兄ちゃんが私の手を握る手に力を込める。


「お前。理由がまだだろうが」


ビクッと体を揺らす。


だって、だって、だって。


「いじめられた理由を話してみろ。俺は大事な妹を傷つけられてかなり怒ってんだ。そいつらをぶっつぶすために、全部話せ。あ? お前の性格が気に食わなかったのか? お前がまた筆箱でも落としたか!?」


お兄ちゃん……。

お兄ちゃんの顔を恐る恐る見ると、全然怒ってなんかなくて。

私の顔を覗き込むように、ただ心配そうな辛そうな顔をしていた。

春香だけが気付いたような顔で、私と巧を交互に見つめながら、心配そうに見ている。


巧とナツくんも同じように心配そうな顔をして、眉を歪めてこっちを見ていて、それを見るだけで泣きそうになる。


巧、ごめん。

私がここまで溜めこんだばっかりに、結局巧に全て迷惑がかかる結果になってしまう。

これだから、私は子供だと思われるんだ。


「ごめんなさい、巧」

「え? なに? 俺?」


巧がいきなり自分の名前を出されて、びっくりしたように目を見開いて見せた。


「私はヤキモチを妬かれたの。巧と仲良く話しているのを何度も見られちゃって、それで女の子たちに反感を買っちゃったの」

「しお……それ本当なのか」


巧が眉にしわを寄せて、口をへの字に曲げて、辛そうな声を出すから、それから顔を逸らしてしまう。


「巧ぃぃ!! お前のせいじゃねぇか!! 俺の妹に何してくれてんだぁぁ!!」


お兄ちゃんが立ち上がって、すごい怒鳴り声で巧を怒鳴る。

巧は、怖いくらいまっすぐに私だけを見ていて、お兄ちゃんの怒鳴り声にはビクともしない。

私と春香はビクッと肩をあげて、体を震わせてしまう。


「涼。詩織をビビらせないで」


ナツくんが冷静に対応をしてくれる。


「はあー……、わりぃ。つい詩織の事になると冷静でいられなくて。巧も悪い」


お兄ちゃんが反省したように、頭を下げて謝る。


「いや……」


巧は動揺しているのか、言葉をほとんど出せずにいた。

やっぱり、巧はああ見えてデリケートだから、傷つけちゃった。

この世で巧に一番幸せになってほしい私が、巧を傷付けてしまうのは、どうしようもなく辛くて痛い。


「詩織……。俺のせいなのか? 俺がお前に会いに教室に行ったりなんかしたから、こんな事になったのか……?」

「……あ。えっと……えっと……ううん。巧のせいじゃないの。私がきっと生意気だったの。だって、春香は何もされてないしね。ねっ、春香」

「うん。私は何もされてないし、詩織が何かされてる事に気付きもしなかったよ。ごめんね詩織……」


春香が本当に申し訳なさそうに謝ってくるから、それにぶんぶんと首を振って頭を下げる。


「春香のせいでも誰のせいでもないの。私が弱いからいけないの」

「詩織そんな事ないよ」


ナツくんがすかさずフォローを入れてくれる。

でも、これは本当に誰のせいでもないのに、みんなが自分を責め合って何の解決もできない。

それほど大事に思われているんだろうけど、きっとそのせいでさらに巧が傷つく。

もう私には学校で会いに来てくれなくなる。


本当は、それが一番辛いの。

巧が私に何か責任を感じて償いたいなんて思ってくれてるのなら。

私は、理由を言って巧が傷付く事よりも先に、学校で巧に会えなくなってしまう事を怖がったの。

それを許してほしい。

こんな浅はかな自分の事しか考えていない、恋愛馬鹿な私をどうか許してほしい。


「やっぱり俺のせいなんだな。ごめんなぁ、しお。謝っても謝りきれないけど、自重して俺は学校ではしおに会わないよ」


ほら。

巧は責任感じて絶対そういう事になるんだから。

馬鹿みたいに、真面目で責任感が強いから。


だから、……嫌だったんだ。

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