お兄ちゃんがご乱心
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
君はおかしいくらい
あの子に夢中で、
あの子の事しか見えてない。
私は君の何なんだろうか。
春香
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
巧に腕を引っ張られて、バイク置場まで歩く。
そのかたわらで巧は、携帯でお兄ちゃんに電話をかけている。
「涼? しお見つけたから連れて帰る。春香も一緒にいるんだろ? まぁまぁ今は説明しにくいからとりあえずマルゴな」
巧がお兄ちゃんをなだめるように話すと、電話を一方的に切ってしまった。
「あっナツ? しお見つけたからマルゴに来て。うんそう。今から行くから」
今度はナツくんに電話したんだろう。
学校の校舎についている時計を見ると、今は夜の8時前のようだった。
放課後から4時間ほど時間が経ってる。
まだ、ママたちに電話しないとこを見ると、まだ知らせないでくれたのかな。
こんな事知らせちゃうと、ママたちきっと黒竜会や警察まで呼んじゃってすごい事になっちゃうから。
「巧。4人でずっと探してくれてたの?」
「いや、多分総勢1000人くらいじゃない?」
1000人?
え?
どういう…………どういう事!?
「1000人って……なに?」
「銀竜だよ。銀竜とその傘下全部を呼んで街中捜索中?」
捜索中? って。
疑問形にされても困るんだから!
そんなすごい事になってるなんて、どうしよう。
ほんとにどうしよう。
「それってすごい事になってるんじゃない? 大丈夫なの?」
「銀竜は連絡係のナツが報告してくれてるよ。大丈夫」
そっか、ナツくんがやってくれてるのか。
後で、本当にみんなにお礼を言わなきゃ。
「ほら後ろ乗って。マルゴで風呂も沸かしてるし、百合香さんたち心配させたくないなら、乾かして戻んないとな」
「分かった。ありがとう」
マルゴに着いて部屋に入ると、春香とお兄ちゃんがいた。
「詩織!」
お兄ちゃんが玄関の扉から入った私に近づいてきて、抱きしめられる。
「お前っこんなびしょぬれで何された! 誰に何された!!! 言ってみろ!! 俺が殺してやる!!」
「お兄ちゃん……」
動揺させてしまっているのか、怒鳴り散らすお兄ちゃんの背中をさすってなだめることしかできない。
「涼落ち着け。しおに怒鳴っても仕方ない」
私を抱きしめてるお兄ちゃんを、巧が引きはがしてくれる。
「わりぃ。ちょっと動転して。悪いな、詩織」
「ううん、ごめんなさい。春香にも心配かけてごめんなさい」
「……ほんとだよ。どうしようかと思ったんだから。それよりも風邪引くからほらお風呂入って! お風呂入ってる間に制服乾燥かけててあげるから」
春香に連れられてお風呂に入る。
脱いだ制服を春香に渡して。
温かいお風呂に入ると、冷え切っていた全身がじーんっと温まっていくのがわかる。
「ぬくい。ぬくいよぉ。うぅー……」
1人になって、温かいお風呂に入ると、気が抜けたのかもしれない。
何だか、ホッとして涙がぽたぽたと水面に落ちる。
「詩織? 大丈夫!?」
お風呂の外で、制服を乾燥機にかけてくれている春香が私の様子を察して、声をかけてくれる。
「大丈夫。ちょっと安心しただけだから。水かぶって臭そうだから、体も頭も洗ってから出るね」
「うんそうしてぇ。それくらいに多分服乾くと思うから」
「はぁい。ありがとう」
春香に返事をして、体と頭も洗う。
マルゴでお風呂に入るのは初めてだなぁ。
巧たちはたまにここでシャワーしてるみたいだけど。
体と頭を念入りに洗い、お風呂に浸かってお風呂を出た。
お風呂を出ると、春香が乾燥してくれていた制服が綺麗に畳んで置かれていて、丁寧に下着まで置かれている。
下着なんて洗わなくても良かったのにさぁ。
いくら春香でも、恥ずかしいじゃん。
髪の毛をタオルで乾かしながら、リビングに向かうと、そこにはナツくんも加わって4人が揃っていた。
「詩織!」
ナツくんがお風呂場から出てきた私を見て、すぐに近寄ってきた。
「ナツくん。銀竜に集めたり色々してくれたんだよね。ありがとう」
頭を下げて礼を言うと、ナツくんは困ったような顔をして手を顔の前で振った。
「そんな事どうでもいいよ。詩織が無事でよかった」
ナツくんに微笑みかけていると、近付いてきたお兄ちゃんに腕をぐいっと引っ張られた。
「ナツキといちゃついてる場合じゃねぇ。早く座って事情を話せ、詩織」
いちゃついてなんかないもん。
巧に勘違いされたらどうすんのよ、お兄ちゃん!
口には出せず心の中で唱えながら、お兄ちゃんを睨んでみると、さらに何倍も鋭く睨まれてしまったので、黙っている事にした。
「しお、涼にいじめられた?」
巧がくすくす笑いながら、ソファに座らされた私に話しかけてくる。
「お兄ちゃんにすんごい睨まれた」
「そうか、可哀想に。しおは守ってやるからな」
「巧はややこしくなるから黙ってろ!」
お兄ちゃんご乱心!!!
やばーい、やっぱりすごく怒ってる。
私の身に何かあると、いつもこうだ。
小学校の時、私がクラスの男の子の筆箱を落としてしまったせいで、その男の子に蹴られた事があった。
そのあと、中学から小学生相手に乗り込んできたのは、お兄ちゃんだった。
それを止めるように、巧とナツくんが走ってきたのを覚えてる。
お兄ちゃんは私に何かあると、どうしても我慢ができないみたいで、巧とナツくんが手を焼いてるくらいに。
「詩織、話せ。もう黙ってるわけにはいかねぇぞ。俺たちに背負わせろ」
お兄ちゃんが私の隣に座って、私の手を握って強く言う。
その力強い言葉に涙が出そうになる。
下唇を噛みしめて、涙をこらえる。
「しお、唇噛んじゃだめだ。しおが傷付く」
巧が向かい側から心配そうに私の顔を見つめてくる。
それに、少し赤くなる顔を俯かせて、手をぎゅっと握りしめる。
もうこうなってしまった以上、話してしまうしかない。
お兄ちゃんたちに助けてもらうしかない。
「ごめんなさい。全部話す。全部話すから、話したら助けて……。助けて下さいっ……」
膝の上で両こぶしを握りしめて、強く叫ぶと、涙が一粒こぶしの上に落ちた。
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