いつもいつも救世主

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°

来てほしいと思うのは、

助けてほしいと思うのは、

見つけてほしいと思うのは、

君しかいないんだ。

詩織

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°


寒い中で、どれくらいいただろう。

まだ5月なのに、水で制服がびしょびしょなせいで、冬のような寒さを感じる。

カッターシャツとスカートしか着ていない制服は体に張り付いて、両手を両肩に回して体を縮こませるけど、何の効果もないように思う。


それでも、そうしてしゃがみ込むしか方法はない。

もう暗くなったのかなぁ。

携帯も時計も持って来なかったから、時間さえ分からない。


春香とかお兄ちゃんたち探してるだろうなぁ。

もしかしたら、パパやママまで探してくれているのかもしれない。

巧にまで連絡行ってるのかなぁ。

誰でもいいから、お願いだから、助けて。

助けて。


「巧。……助けてっ」


ガチャリ。

聞き覚えのある鍵の開く音がして、扉が開いた。

引き戸が開くけど、光は差し込んでくる気配はなくて、外はもう夜なんだと気付く。

それでも、その青い景色が眩しく思えるほど、目は闇に慣れてしまっていた。


誰?

誰が来てくれたの?


「詩織!!!! いるのか!?」


あ…………。


「うぅ~………うわーん………うぅっ」


なんで来るの?

なんで私を助けるのはいつも。

いつも。

巧なの?


「巧~~~………っ」


しゃがみ込んだびしょ濡れの体を自分で抱きしめながら、目の前の愛する人の名前を力いっぱい呼ぶ。

助けてって。

巧が真っ暗な倉庫の中で私を見つけて、綺麗な瞳を丸くして驚いてみせた。


「詩織!!!!!!」


悲痛な声で名前を呼ばれた。

巧に久しぶりに詩織って呼ばれたなぁなんてのんきな事を考えていると、とっさに腕を痛いくらいに引っ張られて、立ち上がらされる。

力いっぱい巧の方に引かれた腕は、体ごと巧へとぶつかってしまう。


「痛ぁ……」


巧にぶつかって思わず出た言葉。

そんな言葉をもかき消すかのように、巧にぶつかったままの体をきつく抱きしめられる。

きつく。


「巧……。巧も濡れちゃうよぉ……」

「黙って」

「……え?」


巧のいつもの甘い声じゃない。

低い低い泣きそうな声。


「……ごめん。……今はちょっと抱きしめさせて」


巧がいっぱいいっぱいのような辛い声を出すから。

ぼろぼろと涙を流して、巧のシャツをきつく握りしめてしまう。


「なんで巧なの……。なんで助けに来るのはいつも巧なの……」


抜け出せない。

巧から抜け出せない。

蜘蛛にとらわれた、小さな瀕死の蝶のようだ。

これ以上好きにさせないで。

私をこれ以上、好きにさせないで……。


「俺じゃだめだった?」


巧がくすっと笑いながらも、寂しいよというように細々と話しかけてくる。


「ごめんなさい。心配かけてごめんなさいっ。ごめんなさい……」


きっとみんなにたくさん心配かけた。

巧が探してくれてるって事は、きっとお兄ちゃんも春香もナツくんも探してくれてるに違いない。


「謝らなくていいんだ、しお。すぐに来てやれなくてごめん」

「いいの。来てくれただけで嬉しい」


私がくっついてるせいで少し濡れてしまった巧のシャツを掴んで、涙まで染み込ませてしまう。


「ああー早く涼たちに見つけたって言わなきゃ」


そう言ってるくせに、言葉とは反比例するかのように背中に回った手はきつく、さらにきつく抱きしめてくる。


「……巧?」

「ごめん詩織。もうちょっと俺にしおを感じさせて」

「巧?」

「いなくなったかと思った。もうこの手でしおに触れられないのかと思った。馬鹿みたいに不安になって、どうにかなるかと思った。ばか詩織。俺の前から消えないで」

「巧……」

「俺しおがいないとか考えられない。可愛すぎて少し離れるだけで気になってんのに、俺重症だな。気が動転して、ゴミ箱の中なんかまで探しちゃったし」


巧。

いつもの余裕で大人で、はぐらかしてばっかり巧じゃない。

弱った普通の男の子。


「ごめんなさい、巧。見つけてくれてありがとう」

「うん。すっごい探した」

「かくれんぼをしてても、迷子になっても、今日だって、いつも私を見つけるのは巧だね」


昔の事を思い出す。

いつも私を見つけてくれるのは巧。

いつもいつもいつも。


「どうしてか知ってる?」

「え? いや知らない」

「きっと俺が一番しおに……。いや、しおが俺に会いたいからじゃない?」

「え?」

「ははっ冗談だよ、しお。涼たちに会いに行こう」


冗談って!!

私には冗談にならないんだからね!!!

思わず、うんって言うところだったんだからね!


もう。

体を離すと、巧は着ていた革のライダースジャケットを脱いで、ふわっと私にかぶせた。


「寒いけど、ちょっと我慢しろな。すぐに暖かいとこに連れてってあげるから」


巧の香水がついた甘い香りのジャケットの温かさを噛みしめる。

いつものように、私の手首をつかんだ巧は、もういつもの巧。

言動も行動も、余裕で大人な優しい巧に戻った。


でも、私はさっきの巧が忘れられない。

あれは、巧の本心の部分だったんだろうか。

巧が、知りたい。

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