暗い、暗い闇の世界
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
君がいないと
泣きたくなるけど、
あいつがいないと
いてもたってもいられない。
涼
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
「え? ……え? ……えぇぇぇえぇ!?」
1人で絶叫する声も虚しく、狭い体育倉庫には自分の声がうるさいくらい鳴り響くだけだった。
外には人一人通る気配もない。
ああ、どうしよう。
なんでだろう。
あの男の人喋った事も見た事もなかったのに。
どうしてこんな事になったんだろう。
私あの人に何かしたんだろうか。
あっ! でもさっき、命令されたって言ってたっけ。
命令された?
あ。
いつも女子トイレに呼び出してた芳川さんたちかな?
もしかして。
毎日のように呼び出されていたのに、今日はなかったし、どこかおかしいと思ってた。
じぃっと考えながらしゃがみ込んで待っていると、ガチャリとさっきと同じ音がした。
パッと顔を上げてみると、だんだん体育倉庫に光が差し込んでくる。
扉が開いた。
もしかして、バレー部の人たち?
それか先生とか?
さっきの男の子が助けてくれたとか?
じっと開いて行く入口を見ると、女の子たちが目に入った。
「芳川さん……?」
「ばっかみたい。こんなとこ呼び出されてまんまと来ちゃって。告白だとでも思って、期待しちゃったぁ? ごめんねーあの男は私のものだからぁ」
何それ。
そんな事知らないし。
この人はただそれだけのために、私を呼びだしたの?
いつもの女の子4人組が体育倉庫に入ってくる。
「なに!?」
敵意をむきだして怒ると、4人揃ってそんな私をあざ笑って見せた。
「お前目障りなんだよ!」
罵声を浴びせられて、胸をどんっと強く押される。
その拍子で、お尻をついて倒れてしまった私を、女の子の足が何度も私を蹴る。
「……っ…痛いっ………うぅ…」
「巧さんに関わるなって言っただろ。お前なんかが喋っていい相手じゃないんだよ!」
巧に関わるな?
「お前なんか巧さんに合ってないんだよ!!」
巧に合ってない?
そんな言葉は聞きあきた。
聞きあきたっ!!!
「やめてよ!! 巧にぶつかる勇気もないくせに、偉そうな事言わないで!!!!」
はぁはぁ。
大声を出したせいで、息が荒くなる。
「何あんた。いっちょまえに口答え? ばかじゃない?」
けらけら笑いながら言う女の子たちは、言葉の暴力がどれほどのものなのか気付いていない。
今受けている体の暴力なんかより、よっぽどきついって事が。
1人の女の子が外に出て行ったかと思うと、バケツを抱えて帰ってきた。
「見てみて。水汲んで来た! こいつにかけてやろうぜ。頭に血上ってるみたいだし!」
「あはははは。そりゃいい! かけて頭でも冷やしたらいいよ!」
そう言って、芳川さんに水が満タンに入ったバケツをぶっかけられる。
体育倉庫までもびしょびしょになるほどのそれを、思いっきり水をかけられた。
「つめた……」
いきなり水道水をぶっかけられたせいで、体がぶるぶる震える。
「きゃははっ! ちょっとはそれで頭でも冷やしな。バレー部は明日の朝練でここ開けてくれるよ。ちなみに今日はバレー部の練習はないからねぇー」
勝ち誇ったように言いきって、手を振られるとまた体育倉庫を閉められた。
慌てて追いかけようとしたけど、水を含んだ制服のせいで一歩出遅れた。
引き戸に着いた時には、ガチャリという音が大きく聞こえた。
やば、閉められた。
どうしよう。
体はびしょびしょに濡れて寒いどころじゃないし、隙間一つないそこは真っ暗すぎて光一つない。
寒すぎてカタカタと歯が揺れる。
「……っぅ……さむぃし暗いし…うぅ……もぅ……………もうやだぁ……」
朝までなんて耐えられないよぉ。
どうしよう。
真っ暗は怖いし、寒いし、体育倉庫もバケツの水のせいで地面がびちゃびちゃしていて、座れる場所もない。
どこかで聞いた事がある。
全く光のない状況にずっと、気が狂っておかしくなってしまうって。
ある人は、1週間以上全く光のない真っ暗闇にいたせいで、光にある世界に戻っても何も見えなくなってしまったという。
そんなおおげさな話じゃないけど、そういう状況だからか思い出されてしまった。
頭がおかしくなってしまいそうだと思った。
ほとんど隙間のないそこは、光を受け付けず、真っ暗闇で、どれだけ見渡してもまぶたの裏のようなただの真っ黒だ。
それが怖くてしょうがない。
何も見えないっていうのが、これほど怖いっていう事に気付かなかった。
私は今日は家に帰れないんだろうか。
ママとパパ心配するだろうなぁ。
あっそれより、春香たちずっと教室で待たせてるのに、どうしよう。
もしかしたら、もう少しで私が全然帰ってこない事に気付いて探してくれるのかなぁ。
怖いよ。
怖いよ。
助けて。
助けて、巧。
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