閉じ込められた詩織

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°

最近見た恋愛映画よりも

誰かの愛の告白よりも

君に呼ばれる名前だけで

抱きしめたくなるよ。

♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°


巧との植物園デートはきっかり21時前にマルゴに届けられた。

用事を思い出したっていきなり言いだした巧は、私をブラックパレスに送り届けると、バイクを走らせてどこかに行ってしまった。

本当に用事なのかどうかは知らないけど。


次の日も学校に行くと、執拗ないじめがあると思った。

昨日、巧に関わったらただじゃおかないって忠告を聞かなかったから。

私を教室まで迎えに来た巧を拒むことなんてできなかったから。

でも、それでいいと思った。

私の巧への愛はそんなもので負けない。

そんなもので負けるくらいなら、とっくに好きでいる事をやめている。


なのに、今日はそれがなかった。

朝から何度も溜息を吐きながら、ナツくんに顔をのぞき込まれながら、それでも自分を奮い立たせて学校に来たのに。

相変わらず、無視される事は変わらないけど、私から話しかけるわけじゃないから、それは何の支障もない。


正直拍子抜けしてしまった。

嬉しい事なのに、何だかすごく嫌な予感がする。

でも、私はいつだって、人を信じて騙される。


放課後になって、6時間目の体育から帰ってくると机の上に紙が置かれていた。

2つ折りにされた白いノートをちぎっただけの紙。

きっと男の人だろう字で、“放課後、体育館裏で待っているので来て下さい”と。


なんだろう。

告白……とか?


うーん。

ブラック3人といつも一緒にいる私にあんまり近づいてくる人いないのになぁ。

お兄ちゃんは怖いし、銀竜総長の巧は怖いし、私にベッタリのナツくんは、……怖くないけど。

でも、せっかく待ってくれているのに、断るのも悪いよね。

ちょっとだけお話聞いてこようかなぁ。


「春香ー。ちょっとだけ待っててくれない? ちょっと出てくる」

「はいはーい。ナツ兄と涼ちんとここで喋ってるからねぇ」

「分かった」


春香に手を振って、その紙だけ片手に体育館裏への道を歩く。

体育館裏って、告白のベストスポットってよく聞くもんね。

あそこってバレー部かなんかの体育倉庫もあるんだよねー確か。

行った事はないけど。


体育館裏に着くと、草むらのそこはどんよりしてた。

人なんていないけどなぁ。

見渡しても、体育館の壁と塀に囲まれた細い道で、その奥に体育倉庫があるだけだった。


「こんなとこに人なんているのかなぁ……」


学校の中にしては、人気のないそこを恐る恐る踏み出す。

すると、体育倉庫の影から男の人が1人出てきた。

制服を着て、スリッパの色が私と同じだから、同じ1年生なんだろう。

でも、見た事はない。

きっと同じクラスにはいないから、違うクラスで私を知っていたのかな?

こっちを手招くその人に従って、歩いて行く。


「あの……来てくれてありがとう。人に聞かれたら恥ずかしいし、ちょっとだけだから中で話を聞いてくれないかな?」


体育倉庫を開けて、その人が先に中に入る。


うーん。

ここ人誰もいないけどなぁ。

でも、恥ずかしいんだったら仕方ないかぁ。

よしっ。話を聞くだけだし、早く聞いてしまおう。

体育倉庫に足を踏み入れる。

今風の髪を茶髪に染めた男の子は奥に立っていた。


「ありがとう」

「うんいいよぉ。話って何?」

「ああーちょっと緊張したら、トイレに行きたくなっちまった。ちょっと待っててくれる? すぐだから!」

「うん。早くしてね」


焦ったように話す目の前の人に、笑みがこぼれる。

そんな私の顔を見て、花が咲くように笑ってみせると私を通り越して、体育倉庫から出て行った。


ふーん。

バレーボールにネットに、卓球台まである。

バレー部だけじゃなくて、体育の授業で使うものも置いてあるんだ。

体育倉庫のドアが、男の子が出る時に閉められようとしている。


「ちょっとー真っ暗になっちゃうから閉めないで」


引き戸を閉めている男の子に笑って、文句を言う。

男の子はにこっと笑ったまま、引き戸を閉めるのをやめない。


「ごめんね。命令だから」

「………………え?」


言った途端に、引き戸は完全に閉められた。


ガチャリ………

静かな音を立てて、鍵を閉める音が聞こえた。

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