巧への花言葉の威力
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
いつも余裕な君の
悲しい顔は
魔力のように
私を強く惹きつける。
詩織
♡- - - - - - - - - - -ഒ˖°
中に入ると、色とりどりの花が広がっている。
15年ほど前に植物園。
この地域の観光スポットにもなっているここは大規模で、観光者も多いために人もわりと多い。
やっぱり巧は万国共通の美しさなのか、すれ違う人たちがちらちらと何度も巧を見る。
かっこいいもんねぇ。
横をチラッと見て巧の顔を窺うと、花が私より似合うんじゃないかと思うほどの美しさ。
溜息の出るようなかっこよさはずっと見ていたいと思うほどだ。
「巧すっごいよぉ! チューリップがすごい量! 色んな色あるよっ見て見て!」
「見てるよ。ちゃんと」
「ほんと!? 紫のチューリップなんてあるんだね。どれも綺麗。見てよ、巧」
「見てるよ、しお」
ここの売りだという3000坪あるという花畑。
そこの半分ほどを今はチューリップで埋め尽くされていて、文字を彩っていたり、たくさんの色でグラデーションになっている。
そんな日常では出会えない光景に、少しうきうきしてしまった私は、巧の腕を逆に引っ張って、色んなとこに先走ってしまっていた。
急かす私の様子にも、巧は余裕の笑みで私についてきてくれる。
花のすごさを伝えたくて、何度か巧を見るけど、見るたびに巧は花よりも私を見ていて、ドキドキしてしまう。
「なんで私ばっか見てるのぉ? 私見ても何もないよ?」
「知ってるよ。でも、花よりしおの方が何倍も可愛いし、いい匂いもする」
私のキャラメル色の髪を一束すくって、匂うように口元に持っていかれる。
髪に感覚なんてないのに、どうしようもなく胸が苦しいって悲鳴をあげる。
「や、やめてよ、ばか」
動揺する私にも、巧はふふっと軽く笑ってすくいとっていた髪を手放した。
「しお。もし今一輪チューリップを選ぶとしたら、何色を選ぶ?」
巧が言いだした事に首を傾げながらも、辺りのチューリップを見渡す。
うーん。
辺りには、赤、白、黄、紫、緑、桃。
6色のチューリップが全部である。
この中で一輪?
うーん、どれだろう。
「やっぱり紫かなぁ。すっごい綺麗だもん」
「そっか。花言葉は永遠の愛。不滅の愛だよ」
花言葉?
それを選ばせるための心理テストみたいなもの?
永遠の愛。不滅の愛。
言われなくてもそんなの知ってる。
知ってるよ、巧。
「それって、色によって違うの?」
巧を見上げながら言うと、こっちを見てにっこり笑う。
「チューリップの花言葉自体は愛だけど、色によって違うんだよ」
「へぇーそうなんだ。で、巧は何色がいいの?」
「俺はきっと黄色だな。選ばなくても分かる」
「そうなの? どうして?」
私を見て、寂しげに笑ってみせると、遠くのチューリップに目線を逸らした。
「黄色のチューリップは、実らない恋、望みのない恋だよ。俺にぴったりだ」
あんまり寂しそうに巧が言うから。
弱った巧があんまり愛しいから。
背の高い巧の後頭部に、高く手を伸ばしてぐっと私の方に引っ張った。
ぽすっと軽く私の肩に顔を埋めた巧は、あっけにとられたのかじっとしていた。
「ど、どうした。しお?」
巧が戸惑ったような声を出す。
おんぶをされた事はあった。
手首を握られた事はあった。
バイクの後ろに乗った事はあった。
後ろからぎゅっとされた事もあった。
でも。
ちゃんと抱きしめられたことはない。
手を繋がれたこともない。
恋人がする行為の一線を、巧にきつく引かれていたせいで、こんなに近づいたのは初めてだ。
自分からこんな行為を誰かにしたのも初めてだ。
もちろん、心臓はドキドキと破裂しそうな音を立てているし、手だって震えてる。
だけど、悲しそうに思いつめている巧がどうしようもなく愛しくなった。
どうしようもなく触れたくなった。
ただそれだけ。
巧を好きになって、1つも報われなかったけど、それでも何1つ無駄な事なんてなかった。
何1つ不幸なことなんてなかったよ。
だから、私はいつまで経っても、懲りずに巧を好きでいられるの。
「巧そんな悲しい顔しないで。叶わなくても想う事にきっと意味があるよ。少なくとも私はそう思ってる」
「しお?」
「だからね、叶わなくても悲しいなんて思わないで、精一杯その人のために生きればいいからね」
「しお……」
「だからね、そんな寂しそうな顔しないで…えっとね、それに巧には黄色なんて似合わないよ。それにね…………………え?」
ずっと肩に頭を埋めるだけだった巧に、いきなり抱きしめられた。
両腕をきつく背中に回される。
さっきまでは、私に一方的に抱きしめてられているだけだったのに。
背中が折れるくらい強く。
「た、巧……?」
「まさか、しおに元気づけられるとは思ってなかったよ。ありがとうしお」
「……………」
「しおが世界で一番愛しいよ」
巧の言葉で胸を撃ち抜かれて、声が出ない。
世界で一番愛しい?
そんな馬鹿なこと言わないでよ……。
これが、恋愛の意味で言ってるわけじゃない事くらい、容易に分かる。
私たちは今までずっとこの関係だったから。
私の花言葉は、永遠の愛、不滅の愛。
巧の花言葉は、叶わない恋、望みのない恋。
叶わない恋をし続ける巧を、永遠に愛し続ける私は、もっと報われない。
もっと望みがない。
それでも、甘んじてこの位置で我慢できちゃう私は、相当巧に恋してるみたいだ。
だからね、巧。
私を利用してもいいから、寂しい顔しないで。
普通に振る舞わなきゃ。
「巧。元気出た?」
「うん。しおのおかげで」
「じゃあ、あそこでいか焼き食べて、バラ園見て帰ろっ」
「いか焼きもタコ焼きもアイスも買ってやるからな」
「そんな食べらんないよぉ、ばか」
巧、知ってる?
ばかって言葉は大好きって意味なんだよ?
ばかって言葉は、巧だけの言葉なの。
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